令和の亡霊

津田享

プロローグ

「今日、この良き日に、私達は卒業します」


卒業生代表のスピーチと卒業証書の授与を終え、左胸に造花のブローチをつけた卒業生たちは涙したり笑いあったり、抱きしめ合っている。

浩一も釣られて涙目になり、慌てて鼻を啜った。誰もからかう者はいないと分かっていても、泣くのはなんとなく気恥ずかしかった。


「よ、浩一。スピーチお疲れ」

「いやマジ恥ずいわ、膝震えてたし」

「いんや、さすが代表って感じだったわ」

「サンキュ。勇はこの後どうすんの」

「決まってんだろ、卒業アルバムにメッセージ書いてもらうんだよ。クラス全員制覇すっから」


サインペンを片手に、卒業アルバムをもう片手に、勇はクラスメイトたちのところへ駆けていった。

浩一はそれを見送って、教師たちのところへ挨拶へ向かった。人望の厚い浩一は教師たちにも気に入られており、担任は号泣しながら浩一の頭を掻き回した。

無造作な髪のまま挨拶を続け、後輩の女子に第2ボタンをねだられ、ようやく用事を全て終えた浩一の前に、勇が駆けてきた。


「はい、最後はお前な」

「はいはい」


浩一がアルバムにメッセージを書いて渡すと、勇は照れ臭そうに笑って少し涙ぐんだ。


「浩一お前絶対連絡しろよ! 親友だかんな!」

「分かってるって、大袈裟だなお前!」


涙と笑顔で中学校生活を締めくくり、クラスメイトたちは各々選んだ高校に進学していく。4月からは新しい制服に身を包み、新たな場所で新たな生活を送るのだ。大きな期待と小さな不安を胸に、浩一は校門をくぐった。


勇が自殺したという知らせを浩一が聞いたのはその半年後だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る