第11話 上級女性冒険者の装備がエロい理由
レトの望みは、自分と共にダンジョンへ挑む事。
それなら――
「冒険者登録をしにギルドへ行こう」
「はいッ!」
そんな訳で、朝食後、アレンは、平服姿でウエストポーチ型の
到着すると、自分の
そして、一行はサテラに教えてもらった店――女性用の品々を一括して扱っているという
ギルドに用のないリエルをわざわざ連れてきたのはこのためで、予想していた通り、レトも昨日のリエル同様、これ以上自分のためにお金を使わせる訳にはいきません、と言い出し、二人とも入店を拒んだ。
しかし、今日のアレンは一歩も引かず、
「なぁ、リエル、レト。――俺は一言でも『贅沢をしろ』とか『無駄遣いをしろ』って言ったか?」
「い、いいえ」
真剣な表情で静かに問われ、戸惑いも露わに否定するリエル。その隣で、レトがフルフルと首を横に振る。
「生活するために、身を護るために、戦うために、必要なものを必要なだけ揃える。――それは悪い事なのか?」
リエルはそれも否定し、レトもその隣で首を横に振る。
「リエルは、俺が手を付けずに『貯える分』と『使う分』に別けてる事を知ってるし、レトはそもそも着替えすらろくにない、――そうだよな?」
今度は二人とも頷いた。それを見て、アレンも、ん、と頷き、
「じゃあ、行こうか」
二人を促し、返事を待たずに店の中へ。リエルとレトは、眉をハの字にした顔を見合わせてから足早にその後を追いかけた。
中央区の建物はどれもこれも自己主張が激しく、建物の
そんなどれもこれも城か砦のような高層建築物がひしめく街並みの中で、生産系クラン《プライヤ&ニッパー》が経営する店の一つ――[タリスアムレ]は、中央区にある3階建ての洋館のような
オシャレ用や護身用、その他にも杖の機能を備えた指環など、様々な
アレン達は、それを店に入ってすぐの所にある案内板で知り、
「じゃあ、俺とリルは1階をぶらぶらしてるから。今日一日使うぐらいのつもりで、自分に合った良いものを選んで――」
「――ちょっ、ちょっと待って下さいッ!」
アレンは、女性専門のエリアなのだから
どうかしたのかと問うと、一緒に来てほしいらしい。レトもその隣でコクコク頷いている。
ふむ、と思案し、再度案内板に目を向けて探してみたが、男子禁制という記述は見当たらない。ならば大丈夫だろう。
2階は、下着や平服など衣類全般と履物や日用品を、3階は、防具類を扱っているらしい。
とりあえず一緒に行く事にして、どちらから行くか二人に希望を訊くと、揃って3階に行きたいと言うので、了解した
そして、3階に到着すると、
「いらしゃいませぇ~っ!」
にこやかに迎えられたので、男が立ち入っても問題ないらしい。
「本日は、どのようなものをお探しですか?」
笑顔でアレン達を迎え、肩の上にいるリルの事を気にしつつもそう訊いてきたのは、人に近い姿の獣人族の女性で、年の頃は
左手の甲には紋章があり、装備も着慣れている印象があるため来店した冒険者のような
ならばと、
「それなら、こちらへどうぞ」
どうやら案内してくれるらしい。
くるりとターンし、颯爽と歩を進める店員さん。
1階は、男性客と女性客でなかなか賑わっていて、2階も、冒険者であるなしを問わず女性達でなかなかの客入りだったが、3階になるとぐっと人数が減った。それは、客層が女性の冒険者に限られるからだろう。
三角形の小さな布地とゆらゆら揺れる猫尻尾の根元を下から支えるような金属製のTバックが張り付いている引き締まったお尻に引き寄せられそうになる視線を引き剥がし、周囲に目を向けて店内を眺めつつそんな事を考えながら店員さんの後について行き…………
「お客様、これなどいかがでしょう? 当店の一押しです!」
足を止めてそう言う店員さん。その隣に立っている
「まぁまぁ、落ち着いて」
大胆というか破廉恥というか露出過多な防具を勧められて自分が装備している姿を想像したのか、顔を真っ赤にして拒絶反応を示すリエルとレトを
「ダンジョンに潜るんでしょ? それなら絶対に装備しておくべき。――何故なら、男は最悪でも、生きながら喰われて死んだり、死後死体を
『…………ッ!?』
その内容に、リエルとレトはもちろん、アレンもまた表情を変えた。
「魔石しか残さないダンジョンのモンスターでも、自然発生したモンスターと同じ能力や習性を持ってる。だから、異種交配可能なモンスターに捕まったら最後、私たち女の冒険者はなかなか殺してもらえない」
営業用に猫を被っていたらしい先輩冒険者は、それに、と話を続ける。
「ダンジョンには迷賊……迷宮内に潜伏する盗賊っていう、ある意味モンスターよりも
怒りや嫌悪感を露わにして感情のままに語った彼女の話をまとめると――
ダンジョンのモンスターは、魔石を残して灰になる。故に、モンスター由来の素材が手に入らない。だからこそ、この大陸、特にラビュリントスでは非常に高値で取引される。
そして、異種交配が可能なダンジョンのモンスターが女性に産ませたモンスターには、魔石がない代わりに素材を剥ぎ取る事ができる。
そこで、モンスターの素材を入手するため、購入した女性奴隷をダンジョンに運び込み、モンスターに与えて繁殖させていた迷賊がいたのだという。
先輩冒険者でもある店員さんは、自分のビキニアーマー上下にそれぞれ手を当てて、
「これは、そんな最悪から
それを聞いて、その露出度の高さから一目見て拒絶反応を示していたリエルとレトのビキニアーマーを見る目が変わった。
ある程度の理解を得られたと感じ取ったのだろう。表情を柔らかくした店員さんは、自分の胸に手を当てて、
「まぁ、最初は抵抗があるかもしれないけど、20階層を越えた女性の冒険者は、前衛後衛を問わずみんなこうよ」
それを聞いて、アレンは、35階層に到達したと言っていたラシャンの事を思い出した。彼女はそうではなかったが……
「そうなんですか?」
店員さんは、リエルの問いに、そうなの、と頷いて、
「だって、邪魔だし必要ないから」
「邪魔……ですか?」
おそらく、こんな説明を何人もの
「ダンジョン内では恥ずかしがってる余裕なんてない」
次に、と言いつつ2本目、中指を立てて、
「この見た目から『ビキニアーマー』なんて呼ぶ人もいる〔
それなのに、と言いつつ3本目、薬指を立てて、
「スカートだけじゃなくて、マントとかローブとかもそうだけど、あぁいうヒラヒラしてるのって想像以上に衝撃を伝えるし」
そこで4本目、小指を立てて、
「躰は攻撃を
モンスターの爪、牙、角、
そして5本目、親指を立てると掌をリエルとレトに見せつつ、
「なくても問題ないのに、あると邪魔。――だから必要ないの」
そう結論付けた。
店員さんは、その手を下ろしてから、それに、と続け、
「紋章を持たない一般の人達の目には止まらないような高速移動ができるようになると
肩の上にいるリルと共に
ならば、店員さんに分からないはずもない。
「ちなみにだけど、私は、お店にいる時やダンジョンでは脱いでるけど、
そう言ってにっこり笑う店員さん。
それは、勝利を確信した者の笑みだった。
じゃあ、ラシャンもあの服の下は……、と想像しかけて、何を考えてるんだ、と頭を振るアレンをよそに、とりあえずどんなものがあるか見てみる事にしたらしいリエルとレト。
「ここのは、素肌に直接装備するタイプのやつね」
そう説明された商品の前を素通りする二人。もう営業用の猫を被るのをやめて素でいく事にしたらしい店員さんは、その様子を見てちょっと苦笑してから、
「このタイプを愛用してるお客様って、結構多いのよ」
それに、えッ!? と本気で驚くリエルとレト。
「
それを聞いて、そうか? と思い返してみるアレン。
確かに、この都市の若い女性はお腹や太腿を出している女性が多かった印象があるものの、そうだったのかはよく分からない。人目を恐れてほとんど
「
店員さん
なんでも、誰もが始めは羞恥心から、人目の少ないダンジョンでは脱ぎ、地上では上着なりワンピースなりを上に着る。だが、到達階層を更新して行くにしたがってダンジョンにいる時間が増え、ダンジョン内にいる時間が増えるという事はその格好でいる時間が長くなっていくという事であり、
そう語る店員さんのボンデージ風ボディスーツも、
「そっちのいかにもって感じの
する事がなく、肩の上にいたリルを抱っこして撫でているアレンの
「〝主人持ち〟の貴女達が選ぶならこの辺りね。一度
相手がお客様だからか、『奴隷』という言葉は使わず『主人持ち』という言葉を使った。
という事は、相手が主人を持つ奴隷だった場合、そちらのほうが失礼のない言葉遣いという事なのだろう。アレンは、リルの
「[
「そうなんですか?」
「使ってる素材が似たり寄ったりだから。《
リルがいれば退屈なはずの待ち時間が全く苦にならない。可愛い相棒をモフっていると、リエルと店員さんのそんな会話が聞こえてきて、あっ、と不意に思い出した。
「ありますよ、モンスターの素材」
えっ、と振り返る三人。
アレンは、もうすぐ16歳。15歳になるまで絶海の孤島で修行に明け暮れていたのだが、15になったからと言っていきなり一人で放り出された訳ではない。
師匠、老師と共に最寄りの大陸へ渡り、モンスターを退治したり、盗賊やら山賊やら悪党の集団を壊滅させてお宝を頂戴したりして路銀を
その旅路で、悪党から取り上げたお宝は、師匠と老師の
すっかり失念していたが、〝その時〟とはおそらく今。師匠と老師がそう言っていた理由がようやく分かった。
「例えば……こんなのとか」
アレンが、左手でリルを抱っこしたまま、右手で腰の後ろのウエストポーチ型の魔法鞄から取り出す
「うそうそうそうそ……えッ、本当ッ!?」
駆けてきた店員さんが毛皮を掴み、手を離したアレンの代わりに残り半分を引っ張り出した。
「まだまだありますけど」
「たぶん、全部ほしい、って言うと思うッ!」
そんな訳で、
アレンは、ブラッディパンサーの毛皮を大事そうに抱えて先導する店員さんについて行き――
「――あっ! ちょっと待って下さい!」
そう声をかけてから
「そんな訳でちょっと行ってくるから、予備も含めて選んでおいて。――あっ! 腕用の装備は左右一対で良い。たぶんそれが予備になるから」
と言うのも、〔
「値段を気にせず好きなのを選んで良いよ。たぶん、持ってきた現金使わなくて済むと思うから」
「でも、私は……」
リエルは、〔
「持っている事を隠すって決めただろ? って事は、他のパーティと合同で冒険する時は使えない」
それに、延期しているが、仲間探しを諦めた訳ではない。現在のパーティメンバーは自分を含めて三人。あと三人のメンバーを選ぶ際、信頼できるかどうかを見極めるまで、やはり使えない。だから、
「自分の力で戦えるよう、しっかり備えるんだ」
そう言うアレンに対し、リエルは
現在、アレンがいるのは地下1階。その下の倉庫へと続く階段の手前にある、学校の教室よりは少し狭いくらい空間。
そこに運び込まれたダイニングテーブルのような長方形の机を縦横に二つずつ、計四つ並べたその上には、丁寧に処理されたモンスターの素材――皮革、鱗、牙、爪、角、翼……などなどが所狭しと並べられ、既に【鑑定】が済んだものや、テーブルの上が一杯で
アレンは、どうぞ、と用意された
ちなみに、カーバンクルのリルは、自分の額の
「あれ? まだ終わってないの?」
その声は、あの猫耳尻尾の女性店員さん。
アレンを店長に引き合わせた後、二人のほうを見てくる、と言って戻って行ったのだが、どうやらリエルとレトが自分の装備を選び終わるほうが早かったようだ。
階段を下りてきた店員さんの後ろには、
「はい、これ伝票」
アレンは、店員さんから受け取った縦長の紙片に目を通す。商品名、個数、値段が書き連ねてあり、一番下に合計金額が記されている。希少な魔法金属の合金や特殊繊維をふんだんに使用しているからだろう。そこそこの土地と家具付きの邸宅が買えそうな額になっている。
「アレン様」
呼ばれて伝票から顔を上げると、側まできて呼び掛けてきたリエルだけではなく、その隣のレトまで表情が優れない。おそらく、合計金額を既に知っていて心苦しく思っているのだろう。
気にするなと言っても二人は気にする。ならば、とアレンは笑顔で、
「綺麗だ。それに、格好いいなッ!」
すると、二人は、完全に心苦しさが拭えた訳ではないようだが、それでもちょっと照れてはにかんだ。
結局、二人が選んだのは、様々なバリエーションの中から自分に合った組み合わせを選ぶ〔
白を基調として青系が彩っているリエルの装備は、
〔戦乙女の鎧〕に標準付与されている防御魔法【守護障壁】に頼り切らない、防御力と敏捷性を両立させたバランスの良い装備で、いざと言う時はすぐに脱ぎ捨てられるだろう巻きスカートに乙女の恥じらいが感じられる。
「あの……これもいいでしょうか?」
それは眼鼻や口がない顔全体を覆う無機質な仮面で、そんなものを被ったら前が見えないのではと思ったが、マジックミラーのように裏側からは透けて見え視界を
アレンが許可すると、リエルは早速仮面を装着した。
その一方、白を基調として艶消しされた銀と黒が彩るレトの装備は、宝石が象嵌された首環とつながるホルターネックのハーフトップとビキニのような、布鎧タイプの胸当てと
両手足の甲拳と脚甲は、防御力を上げるために装甲で補強したものではなく魔法金属の
それにしても、始めに店員さんが素肌に直接装備するタイプを紹介した時は、リエルと共にスルーしていたはずだが、別行動している間に何か心境に変化を
――何はともあれ。
麗しくも勇ましい二人の姿は、まさに戦乙女と呼ぶに
だが、確認しておかなければならない事がある。
アレンは、二人に伝票を見せつつ、
「リエル、レト。これ、ほぼぴったり手持ちで支払える額なんだけど、予算内に納めようと思って、本当に欲しいのを我慢したりしてない?」
とんでもないとブンブン首を横に振るリエルとレト。言われた通り、予備の装備もしっかり選んで、リエルが持ってきた大きめのショルダーバッグ型の魔法鞄の中に入っているとの事。
アレンは、リエルの、レトの瞳を見詰めて、ならば良し、と頷いた。
そして、【鑑定】と査定にまだ時間がかかるようなら、伝票がある事だし、二人はそのまま店の2階へ行って下着や平服、日用品などを選んでくるよう言おうかと考え始めたその時、
「お待たせ致しました」
年齢は30代と思しき身形の良い女性――店長がやってきてそう告げた。
席を立とうとしたアレンを、そのままで、と制止し、部下が運んできたテーブルとスツールを素早くセットし、席に着いてお客様と向かい合う。
「本日はご利用頂きありがとうございます。どの素材も非常に状態の良いものばかりで……」
当たり障りのない前置きから入り、伝票を渡すのではなく、口頭で金額を伝えてきた。
アレンは、相場など知らないし、交渉は専門外。
だが、師匠に認められた達人の端くれ。
注意深く気を読めば、おおよそ何を考えているか察する事ができる。
それに、店長はやる気満々で営業スマイルを張り付けているが、その後ろ――自分達が交渉する訳ではないからと油断している職人達がその金額を聞いた瞬間に浮かべた表情を見れば、値段交渉を前提としたものであってもふざけた事を言っているのだという事が分かる。
ならば――
「そうですか。では、金額はそれで良いので、おまけにこれを付けて下さい」
アレンはそう言って、リエル達が選んだ装備の伝票をテーブルの上に置き、店長の前まで滑らせた。
それを手に取り、目を通して、はぁッ!? と思わず声を上げる店長。
「それはいくら何でも――」
「――では、この話はなかった事にして下さい」
アレンがそう言って立ち上がると、職人達が悲鳴のような驚きの声を上げた。
「幸い予算内なので、今売らなければならない理由も、このお店で買い取ってもらわなければならない理由もありません」
「ちょっ、ちょっと待って――」
「――今後は、手間ですが、幾つかの店舗で査定してもらい、一番高い額を付けてくれたお店で買い取ってもらう事にします」
そう言って、アレンがテーブルの上にある毛皮に手を伸ばした途端、待ったッ!! と叫んだのは、後ろにいた職人の一人で、それを皮切りに、【鑑定】を取得している4名だけではなく、他の職人達までが待ったの声を上げつつ店長の
口々に訴えている彼らの言い分をまとめると、ただ一言。
――絶対に欲しいッ!!
それは店長も同じらしく、分かったからと
「俺は相場を知りません。交渉も専門外です。そして、それを察して安く買い叩こうとした貴女を信用する事ができません」
「~~~~ッ!?」
結局、アレンは、『自分では使い道のない
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