マグヌム・オプス ~思い付きで剣聖が大魔導師と弟子を育てたらこんなのができました~

鎧 兜

プロローグ 師匠 と 老師

 それは、とある森の中にある隠れ家ツリーハウスでの事。


 そこにいるのは二人の老人。


 一人は、剣聖クロウ。

 一人は、大魔導師ロヴァル。


 共に不世出とうたわれ、共に大勢の弟子を育ててきた剣聖と大魔導師が、二人で酒をくみみ交わしていた。


 何故そんな二人がこんな場所で隠れて酒を飲んでいるのか?


 それは、共に名が知れ渡り過ぎていて、弟子に志願する者、一手教授願う者、一目でも良いからお会いしたいとこいねがう者…………などなど、来客が後を絶たず、こんな場所でもなければ落ち着いて酒を飲む事もできないからだ。


 二人は、共に幾度も死線を潜り抜けた戦友であり、気の置けない無二の親友。こうして酒を酌み交わすのはこの時が初めてではなく、定期的に弟子達の目を盗んで抜け出しては、昔話や愚痴、とりとめのない世間話に二本の枯れ木が花を咲かせていた。


 その日の話題は、お互いの引退時期について。


 生涯現役だ、と笑う剣聖に対して、今すぐにでも引退して静かに本を読みながら余生を過ごしたい、と本心を吐露とろする大魔導師。


 それを聞いた剣聖は束の間思案し、うむ、と一つ頷いてから、大魔導師に、以前どこかで、時空系統の転位魔法を修めた者は空間の認識が常人とは異なる、という話を聞いて思い付き、それから密かに温めていた提案をした。


 ――最後に二人で共に弟子を、武において一つの極みと言える心眼、それを超える空間認識能力を備えた武芸者を育ててみないか、と。


 大魔導師は、豊かな顎髭あごひげを撫でながら、ふむ……、と思案した後、よかろう、と頷いた。


 それからというもの、隠れ家で酒を酌み交わしながらする話は、候補者をどう選ぶか、どこで育てるか、どう育てていくか……と弟子育成に関する事ばかり。


 そして、ついに周囲の大反対を押し切って引退を宣言した剣聖と大魔導師は、一人の男の赤ん坊と共に歴史の表舞台から姿を消した。

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