延長戦・5 頂への誓い
『いよいよこの日を迎えました。ワールドカップ・グループB第一戦、日本対ポルトガル。
解説は元日本代表監督として、前々回大会で日本を決勝トーナメントに進出させた岡野さんに来て頂いています。宜しくお願いします。』
『宜しくお願いします。』
『日本としては初戦から
『ポルトガルはEUROを制して波に乗ってますから。でも、日本にもチャンスはありますよ?』
『普段はレアル・マドリードで共にプレーする、過去にバロンドールを三回獲得しているクリスチャン・ロバルトと、一回獲得している香田圭司のバロンドール対決も見物です。』
『レアルの
『そうですね~。香田圭佑が日本代表でコンビを組むのは、“蘇った王様”日向大輔です。
岡野さん、日向は代表に初招集されてから公式戦の全てで得点してるんですよね。』
『はい。僕も日向君は彼が中学生の頃から注目してましたけど、怪我で一時は選手生命絶望とまで言われたのに、昨季はJリーグ得点王とMVP、代表では完全にスタメンの座を勝ち取り、今や日本のエースストライカーですから。本当によくここまで復活してくれましたね。』
『そして、代表での日向の得点の殆んどは香田からのアシストです。
この二人、学生時代から良きライバルとして切磋琢磨してきました。しかし、日向の怪我によって、二人が日本代表で日の丸を背負って戦うのは今回が初めてのワールドカップになります。
前々回大会、日本代表を率いた岡野さんは、復活した日向をどう見ますか?』
『もうねぇ、復活するならもっと早う復活せえよと言いたいですよ。まあ、それは冗談ですけど、彼の様な点が獲れるストライカーの不在は、長年日本の課題でしたからね。
日向にしても香田にしても、他にも権田、高橋、内村、長戸、長谷川、川崎は、私が監督だった頃の若手でしたから、今はもう若くないですけど、各々のクラブチームではバリバリ主力で活躍していますから。経験値は高いので今大会は期待出来ると思いますよ。』
『この年代は“黄金世代”と呼ばれ、前々回のワールドカップでも決勝トーナメントに進出しています。そして今回、その黄金世代のリーダー格だった日向が初のワールドカップを迎えます。』
『日向は怪我から復帰して、本来のプレーを取り戻す為に五年以上かかりましたけど、これはもう信じられない事なんですよね。』
『ですよね~。波乱万丈のサッカー人生と、ピンチにゴールを決める勝負強さで、今や日向は、日本では香田以上の人気を誇ります。もし、怪我が無かったら…と考えるのはナンセンスなんでしょうが、怪我をしてなければこれまでのワールドカップでもどんな活躍を見せてくれたんだろうと思ってしまいますね。』
『僕が監督の時に居て欲しかったですよ。本当に。でも、怪我があったからこそ、今の日向があるんだと思いますよ。』
『そうかもしれませんね。さあ、“アンセム”と共に選手が入場して来ました。』
『いよいよですね。期待しましょう。』
『先頭、キャプテンマークを付けた日本の守備の要・権田。
競り合いに強い熱血男・植田。
最後尾から無尽蔵のスタミナで攻撃参加するサイドバック長戸。
甘いマスクでピッチを駆けるスピードスター・内村。
日本のバランサー、ボランチの長谷川。
後方からのキラーパスが売りの柴田。
サイド攻撃の要、ムードメーカー・高橋。
日本の若き帝王ピッチを切り裂くドリブラー速水。
長年日本のゴールマウスを守って来た守護神・川崎。
そして、日本のエース!世界が注目、皇帝・香田。
最後はこの人!今日も決めるか?蘇った王様・日向。
以上のラインナップで、日本の戦いが始まります!』
FIHAワールドカップ・グループB第一戦
対ポルトガル
日本代表スターティングメンバー
1.GK 川崎 正嗣(ポーツマス)
②.CB 権田 真也(サウサンプトン)
4.CB 槙田 智輝(浦和レッズ)
2.RSB 内村 篤彦(ヴァレンシア)
5.LSB 長戸 優都(インテル)
17.DMF 長谷川 修(フランクフルト)
7.DMF 柴田 学(鹿島アントラーズ)
8.RSF 高橋 翔太(横浜・F・マリノス)
13.LSF 速水 拓史(バイエルン)
10.MF 香田 圭司(レアル・マドリード)
11.CF 日向 大輔(モンテディオ山形)
フォーメーション・4―2―3―1
監督:西田 明
―入場前
初めてのワールドカップ。当然、緊張しない訳が無い。隣にはあのクリロバがいて、俺を見て敵意を剥き出しにしてるし…。
「どうした?王様ともあろう御方が、まさか緊張してるんじゃないだろうな?」
「香田…。そうは言っても、俺はお前らと違って今回が初めてのワールドカップなんだよ?緊張だってするさ」
「らしくないな…。お前はいつでもドンと構えてりゃ良いんだよ。王様の様に。それが仲間達にとって安心感と自信をもたらすんだ」
「俺が?どんだけ評価高いんだよ?」
「俺の中でお前はいつ迄経っても越えられない壁だ。おのずと評価も上がる。だから…ワールドカップでは協力して優勝を目指す。だが…それが終われば敵として、お前を越える」
「この間もそう言ってたな。お前、本当に日本に戻るのかよ?」
「いざとなればな…。ただ、現状は契約の問題もあるし、周囲の環境が整ってない。日本行きを待ってたら、俺は全盛期を過ぎてしまうかもしれない。
だから…お前がヨーロッパへ来い」
「はあ?それこそ歳を考えろよ。今更海外なんてツライっつーの」
「俺の知る日向大輔は、島国の得点王で満足するタマじゃないだろ?お前はもう、あの頃を超えている。だったら、お前の舞台は日本じゃない」
「…お前の俺に対する評価…どうなってんだよ…」
「その評価は、このワールドカップが終わる頃には、全世界共通の評価になってるさ」
「…はあ、お前、いつの間に言葉で人を誑かすスキルを身に着けたんだよ?昔は無口だったくせに」
「ヨーロッパで揉まれたんだよ。とにかく、ワールドカップが終わったら、今度こそお前を倒す。その舞台は…願わくばヨーロッパの…いや、世界の頂を決める場所が理想だな」
「…チャンピオンズリーかよ…。…いや、行かないって!俺はもう日本で骨を埋めるから!」
「フッ、この大会が終われば、世界がお前を放っておかないさ…」
…麻衣の言葉を思い出す。
『貴方は自分の事を過小評価し過ぎなのよ。もっと自信を持った方がプレーも良くなるし、何より楽しいでしょ?』
…過小評価ねぇ。言われてみりゃあそうだけど、でも、流石に香田の俺への評価は過大評価過ぎるだろ…。
でもまあ、なんか気合いが入ったのは事実。
この試合、絶対に負け…いや、絶対に勝つ!先ずは、クリロバをギャフンと言わせてやるぜ!
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