延長戦・1 祝勝会
―ワールドカップ本大会出場を決めた年の瀬。
「「「「「乾杯!!」」」」」
とある個室のBARで、俺・香田・高橋・権田・内村の五人は、ワールドカップ本戦出場決定を祝っていた。
「それにしても、先輩はやっぱりオイシイ所持って行きましたよねー!」
「当たり前だろ?俺は今や“Mr.ドラマチック”だぞ?」
「それ、自分で言っちゃいます?かなーりカッコ悪いんですけど」
「ハハハッ、そうだな。でも、やっぱり俺達にとっては、お前は“常勝の王様”って感じだから、違和感があるな」
「あ、今の若い子は俺のその呼び名知らないから。今の俺は、“終了間際の千両役者”だから」
「その呼び名もどーかと思いますけどね。でも、確かに先輩、王様してた頃と今とじゃ全然雰囲気変わりましたもんねー」
「ん?当たり前だろ?俺は10年近く底辺Jリーガーだったんだぞ?いつまでも過去の栄光にすがって、王様みたいに振る舞ってられるか」
「その底辺Jリーガーが、今季J1昇格一年目でリーグ優勝・得点王・MVPとタイトル独占とはな。もう完全にあの頃に戻って…いや、トータルで見たら高校時代を越えてるんじゃないか?」
「まあな。トップスピードやスタミナとかは落ちたと思うけど、その分フィジカルとテクニックは向上してるだろうし、ぶっちゃけ海外からもオファーが来てる。今更行かないけどな」
「なら王様復活じゃないですか~」
「何言ってる?確かに、“蘇った王様”なんて呼ばれる事もあるが、人間謙虚さを忘れちゃいかんよ。なんたって俺は、“遅れてきたワンダーボーイ”だからな」
「30歳のワンダーボーイって?…なんか俺からしたら、らしく無いんスよね~。先輩はやっぱり王様でいてくれた方がしっくり来るな~」
「でも、大輔って子供の頃はいつもこんな感じの二枚目半のキャラだったんだぜ?変わったのは…圭司と会ってからかなぁ?」
「俺か?」
「おい高橋、なんで俺がコイツに影響受けたみたいな事言ってんだ?俺はたまたまその頃から、大人の階段を登り始めただけだ」
「大人の階段か。そう云えば、お前が入院してる時、見舞いに行った俺達に、大人げなく八つ当たりした事あったっけな」
「あん時はツラかったっスねー。あんな先輩、見た事無かったっスもん」
「権田さん、内村さん、その話しはやめましょう」
「案外その時が本当の姿だったんじゃないのか?」
「香田テメーこのやろ!大体お前、ミッシに忠告されといて黙ってたから俺が怪我しちまったんだろーが!」
「うっ……すまん」
「いや、マジで謝んなよ。冗談だって、冗談」
「だろうな。俺に罪は無い」
「復活早っ!?」
「まぁ、確かに香田は悪く無いさ。あの頃の日向は、どんなに俺が進めても病院には行かないし、練習は止めてもやり過ぎるしで、香田が言った所で聞かなかっただろう」
「くそぅ…お前ら!今日はワールドカップ出場もそうだが、棚上げになってた俺の代表デビューを祝う会でもあるんだからな!もっと主賓をもてなしなさい!」
……………
「え?なんでしんみりすんの?」
「…へへっ、遅いんスよ!先輩は」
「そうだな。お前がいない間に俺達は二回ワールドカップを経験しちまったからな。もし、前回のワールドカップの時、お前がいたらと思うと…」
「前回は俺も最終選考で代表外れて悔しかったけど、期待されてたのにグループリーグ敗退だったからなぁ~」
「同じグループだったドイツは優勝、コロンビアはベスト4、ナイジェリアは当時のアフリカ王者だったし、最悪のグループの中で良くやった方っスよ。最後は得失点差1点で負けたんっスもんね。あん時、決定力のある先輩がいてくれたら…頼もしかっただろうなー」
「おいおい、そん時俺はJ3のチームにいたんだぞ?もう、引退した方が良いんじゃないか悩んでた時だぞ?」
「分かってるよ。でも、俺達の年齢的には前回のワールドカップがピークだったからな。あの時点でまさか日向が四年後の代表に選ばれるなんて予想もしてなかったよ」
「でも、前回のワールドカップが終わったあたりだよなぁ?大輔が本当に復活し始めたのって。確かJ3で5試合連続ハットトリックとか無双し始めてたもんなぁ」
「そうだな。なんつーか、漸くイメージと身体が一致し始めたって云うか…でも、この10年は決して無駄じゃ無かった。大体、リハビリを完全に終えて2年、プロ契約する迄に更に1年掛かってるし。
それからも高校時代のプレーを取り戻すのに苦労したからな~。色んなチームを渡り歩く中で、各々のチームで考え方や求められるプレーが違ったけど、その分色んな事学んだし。だから、10年掛けて、色んな試練を乗り越えて今の俺が出来上がったんだ。無駄な時間なんか無かったんだよ」
「良い事言ったつもりだろうが、あんまり話が纏まってなかったぞ」
「うっせーよ香田!!そこは流せよ!」
「まぁ、何にしてもこうして5人揃って代表で頑張ってるんだから、大したもんだよなぁ!…俺は最終選考まで油断出来ないけども…」
「そうだな。この歳で俺達の世代が代表の主力だからな。世間じゃ“年寄JAPAN”なんて言われてるが、そんなもの結果で見返してやるしかないしな」
「俺達も30歳だもんな」
「ちょっと先輩。俺はまだ29歳ですからね。この中で唯一の独身なんッスから、あんまり年寄扱いしないで下さいよ」
「いつまでもチャラチャラ遊んでやがるからだよ、お前は」
「遊んでないッスよ!うう~…こうなったら言わせてもらうッスけどね!俺は中学ん時から先輩の奥さんの事が好きだったんスよ!!くそーーーーっ!!」
「え?そなの?俺が
「先輩はサッカー馬鹿だったから気付かなかったんスッよ!中学の頃からよく練習見に来てくれてたし、試合なんか必ず見に来てたじゃないッスか!?」
「ああ、それは取材だったらしいからな。おかげでカミさんが書いた俺の本、今ベストセラーなんだよ。へへへっ」
「俺はてっきり、俺のファンなのかなって思ってて、思い切って声を掛けたら逃げられるし…」
「お前なぁ、練習中に余計な事考えてんじゃねーよ。なんで外野に誰がいたとかって気付くんだよ」
「先輩以外皆気付いてましたよ!あんな引く位の美人、気付かない方がおかしいッスからね!」
「…はぁ。確かに日向の奥さんは練習にもよく見学に来てたのは俺も気付いていたが、どう考えても昔から日向の事しか見てなかっただろう?よくそんな勘違い出来たな?」
「うう~っ、もう俺は一生独身でいいッス!!」
その後も楽しく酒が進み、権田の一言から話が変わった。
「それはそうと香田、移籍するって噂、本当なのか?」
「え?圭司、レアルから移籍すんの?」
「…まだ分からん」
「分からないって…お前、まだまだレアルでも主力だろう?それとも、他から良い条件で誘われてるのか?」
「いや、そう言う訳じゃないんだが」
「じゃあなんでっスか?まあ、香田先輩がいなくなればレアルも戦力ダウンするし、そうなれば我がバイエルンの
「…俺達も、もう30歳だ。これからは徐々に体力も落ちて来るだろう。俺は、全盛期と呼べる内に、“ある男”を倒したいんだよ」
「ある男って、圭司…もしかして…」
「ん?…俺?え?馬鹿なの?俺がいんの、今年J1優勝したとは云え、レアルとは比べもんになんねーアジアのチームだぞ?その為にレアル辞めるとか、ねぇ、馬鹿なの?」
「俺は手に入れられる栄光は、ワールドカップ以外は全部手に入れて来たからな。だから今回、このメンバーでワールドカップも獲る。そうしたら、俺のサッカー人生で残る目標は、あと一つしか無くなる」
「それが俺!?ちょっと、勘弁しろよ!昔の俺ならまだしも、今の俺は単なる島国の中堅クラブのペーペーだぞ?」
「公式戦0勝19敗1無効試合。これが俺とお前の戦績だ」
「ああ、選手権は無効試合扱いなのね」
「当然だ。あんなの、勝った内に入らん」
「…本気か?」
「俺は冗談と日向大輔が嫌いだ」
「そうか…ってオイ!何サラッとディスってんの?ねえ!」
「王様と皇帝…10年以上の月日を経ての決着戦か。面白そうだな。俺もJリーグに戻ろうかな?そろそろプレミアもキツくなって来たし」
「
「んじゃあ俺は日向先輩のいる山形に移籍するっス!」
「無理だ。
「フッ、どこだって良いんだよ、チームなんて。その代わり、絶対にワールドカップを獲る。これが条件だ」
「何勝手に条件語ってんだよ。そもそもお前に日本に移籍してって頼んでねーから」
「ぐっ…」
「でもまぁ…ワールドカップを獲る…その条件、良いな」
「だなぁ」
「ああ」
「良いっスね!」
「…フッ」
「よし、じゃあ、この調子でワールドカップも、優勝しちまうか!!」
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