第28話 未来へ
…全部吐き出した。
隠していたタイムスリップの事。
香田への負い目。
一人で抱え込んでいた事を、全部吐き出したんだ。
すると香田は、無言のまま柵を越えて、俺の隣にやって来た。
香田は今の話をどう思っただろう?本来の人生を、俺なんかに邪魔されたんだ。殴られても仕方がない。
むしろ、殺されたって、コイツになら俺は文句は言えないだろう。
ふと、香田を見ると、雨でハッキリとは分からなかったが、目が潤んでいる様に見えた…。
「謝る?何でだよ?お前、俺がお前の事を恨んでるとでも思ったのか?反対だ。まるっきり逆だよ!
サッカーを始めた頃、楽しくはあったが周りの奴等より直ぐに巧くなっちまって退屈だったんだ。相手になるのは歳上くらいだったし、同年代との試合はつまらなくて仕方無かった。
でもあの日、お前は俺の前に現れた。衝撃的なプレイで俺の退屈な心をぶっ飛ばした。その後も、どんなに努力してもお前は常に俺の前に高い壁となって立ちはだかった!悔しかったさ。なんで俺はお前に勝てないのかって。でもそれが…俺の目標が本物だと云う事が堪らなく嬉しかったんだ!お前を越える為にひたすらボールを蹴った時間が、今の俺を作ってくれたんだ。
そんなお前を、なんで俺が恨むってんだ!?」
胸倉を掴まれる。その顔は、本当に怒っている表情だった。
「天才?俺は天才なんかじゃ無い。俺は、お前こそが天才だとずっと思っていた。でも、あのU―17の合宿で、お前が誰よりも練習している事を知った。俺は、俺は自分が恥ずかしかった。お前の事を、天才だから俺は勝てないんだと勝手に決めつけていた事に。だから、俺もお前に負けない位…いや、それ以上に練習しようと決意したんだ!
俺もお前も、
「俺は……」
…そうだ。俺は必死に練習した。自分は天才なんかじゃ無いって知っていたから。
香田も、そうだったのか?自分は天才じゃないと思って、努力で今の実力を手に入れたのか?
「選手権決勝の時、お前は俺に聞いたな?答えてやるよ。俺は…サッカーが好きだ。そう思わせてくれたのはお前だ」
…サッカーが好きか?
…そうだよな。俺は、いつの間にかサッカーを楽しむ事を忘れてたんだ。あんなに、あんなに大好きだったのに。
「それにな。俺は勝ち逃げなんか許さないぞ!?選手権決勝、最後のあのプレイ、お前が怪我をしてなければ、あのボールにはお前の方が早く到達していた。そうなれば、お前は必ずゴールを決めてたハズだ。
そもそも、お前が怪我をしてなければ俺達は絶対に勝てなかった!あんなので、俺がお前に勝ったなんて…恥ずかしくて言えると思っているのか!?」
雷鳴が轟く。雨は更に勢いを増し、俺達を叩き付けていた。
「さっき、謝ると言ったな?そんな謝罪なんていらない!俺の為に謝る位なら、俺の為に復活しろ!復活して、今度こそ実力で俺にお前を越えさせてみろよ!
じゃなきゃ、俺はお前を絶対に許さん!勝手に死ぬなんて、絶対に認めん!!」
俺も…多分香田も。もはや、雨でも隠せない程の涙が溢れて来ているのが分かる。雨は冷たいけど、涙は暖かかったから。
「いいか?お前は復活するんだ!絶対に!絶対にまた“同じピッチに並び立つんだ”!」
……ああ…、コイツも、昔の俺と同じだったのか。天才に憧れて、ひたすら努力をして来た…。凡人の俺と同じ…。
顔を上げる。
俺の怪我は重症だ。復帰出来る確率は半々だと、医者にも言われている。でも、絶対に復帰出来ないとは言われて無いんだ。
努力すれば、復帰出来るかもしれない。なのに、俺は勝手に腐って、周りばかり羨ましがってひねくれてた。
努力?得意分野じゃないか。
……例え何年掛かっても、やってやろうじゃねーか。だって、その先には、俺の最高のライバルが待ってるんだから!
「…好き勝手言いやがって。お前を勝たせる為に復活しろだ?…ふざけんな。俺は常勝の王様だぞ?お前なんて…
「へっ…、嘘付くなよ。もう、眼中ぐらいには入ってるだろ?」
昔から、敢えて挑発する様に言っていた強がり。いつからか、言えなくなってたな。そして、俺達は笑みを浮かべた…。
拳を突き合わせる。それに何の意味があるのか?なんで突然そうしたのか?
多分…それが“約束”だったんだろう。
必ず、同じピッチに立って戦うと云う。
敵になるか味方になるかは分からない。
でも、必ず立って見せる。必ず…!
夜空がビカッと光る。次の瞬間、俺の目の前が真っ白になった。これは…あの時と同じ?
…薄れゆく意識の中で、雷鳴と共に決意を新たにする。
次、目覚めるのが元の時間軸であろうと今の時間軸であろうと、絶対にもう一度、香田圭司と同じピッチに並び立つと…。
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