第6話 逆転した立場

 前半終了。あれから下高井戸キッカーズはもう1点を追加し、2対1と逆転してハーフタイムを迎えた。


 成城は俺をマークしてた選手を交代したりしながら対策を立てて来た様だが、そもそも俺にとって小学生のマークが三枚付こうが四枚付こうがどうって事無かったのだ。


 ただ、成城は先制点を取り、前半15分までは俺を抑え込めた…と、思い込んでいただろう。

 だが、その15分間、俺はマークを外す体で動き回り、マーカーのスタミナを削った。その上アッサリと同点にしたのだ。


 戦術的にイケると思っていたのに、そのプランがアッサリと崩された。チームとしてのダメージは大きかっただろう。


 ま、その状況を俺が狙って作ったのだが。



「よーし!もう成城はガタガタだ!一気にカタを着けよう!」


「「オオーッ!」」


 俺の掛け声に、選手全員が応える。チームの士気は上々だ!



 タイムスリップ前の小学生時代の俺は、兎に角自分がゴールを決めれば勝てると思っていた。でも、その考えが通用するのはあくまで自分と同等のレベルまでだった。


 より強いチームに勝つ為には、やはりチームとして強くならなければならない。これは、プロでも同じ事が言える。

 たった一人のタレントでは勝てないのだ。タレントを活かす周りがいなければ、宝の持ち腐れとなる。


 まぁ、今の俺なら、このレベルなら一人でも勝てるんだろうが、折角やり直している人生だ。自分の得た知識は最大限活用し、自分自身は勿論チームの成長に繋げないとな。




 ―後半が始まった。


 成城FCは前線に人を増やして来た。今更守っても仕方ないんだから当然だろう。それにより、前半は孤立していた香田も活きて来るんだろうが、俺がそうはさせない。



 香田に集まるパスを読み、味方に指示を出してパスを通さない。通っても、ドリブルのスペースを殺し、パスコースを限定させて、カットする。

 短い期間だったが、下高井戸キッカーズはかなり組織的な守備を完成させていたのだ。


「…クソッ!」


 思わず香田の口から漏れたその言葉を聞いて、俺は確信した。


 香田圭司を、俺は圧倒してるのだと。



 よし、止めを刺すか!


「パスくれっ!」


 香田からの無謀なパスをカットしたディフェンスにパスを要求する。

 ハーフライン上でボールを持つ。相手守備は四枚。キーパーを入れて五人か…。行くか!



 一人目を、ボールを強く蹴り出して振り切る。


 二人目。蹴り出したボールを取りに来たが、それよりも早くボールに触ってかわす。


 三人目と四人目はダブルチームで、俺との間合いを取りながらカットを狙っていたが、ど真ん中をボールを蹴り出して突き抜ける。


 キーパーが出て来たが、まさか俺がディフェンス二枚を正面から突き抜けて来るとは想像していなかったんだろう。出だしが遅い!


 一対一で飛び出したキーパーをアッサリとかわすと、無人のゴールにボールを転がした。



「どおだあーーっ!!」


 沸き上がる歓声。項垂れる成城のメンバー。最早、下高井戸キッカーズの勝利が確定した瞬間だった。



 その後、俺は余裕を以て交代、他のメンバーの成長の為だ。


 それでも、下高井戸の勢いは消えなかった。



 結局、終了間際に香田が意地で1点決めたものの、最終的には5対2で、下高井戸キッカーズが初の全国大会進出を決めたのだった。



「強い!これなら全国優勝も夢じゃないぞ!」


「下高井戸の10番、マジで小学生かよ!?」


だろ?あれ」



 天才か…。俺にはおよそ相応しく無い言葉だな。



 表彰式を終え、俺達は全国へ行ける喜びを実感していた。


 思えばタイムスリップ前、中学高校と、俺は都大会ベスト4が最高成績で全国には縁が無かったから、やっぱり嬉しいな。



 香田は、無表情のまま一人でグラウンドの隅に座っていた。


 …放っておいた方が良いのだろうが、俺は推薦の事で一言言いたかった為、香田の前に立った。


「なあ、なんで東条の推薦を蹴ったんだよ」


 香田は顔を上げ、俺を睨む。


「…俺の目標は、お前を倒す事だ。同じ学校に行ったら、お前を倒せないだろう」


 …俺を倒す為?あの、香田圭司が?


「馬鹿だな。東条に来ればお前は絶対に今よりもっと上手くなれるんだぞ?」


 香田は本来、東条学園に入学し、メキメキと上手くなっていったんだ。なのに、俺なんかの為にそれを棒に振らせるのは、未来を知る立場として申し訳無い気がした。


「…それでも、俺はお前を倒す。必ず。だから…待っておけよ」


 香田の意志は固かった。もう、目力が凄い。これは俺が何を言おうと無駄だな。


「…不器用な奴だな。でも、俺はお前に負けてやるつもりは無い。それに、俺に勝ちたいんなら、もっと上手くなれよ?今のお前じゃ、俺にとって眼中に無いぜ」


 そう言い残し、俺は香田の下を去った。



 ずっと一方的にライバル視…いや、認めよう。目標としていた香田圭司に、俺が目標とされている。


 その事実に、俺はどこか優越感を抱きながらも……少しだけ不安を抱くようになっていた。

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