第1話 タイムスリップ
「よし、行くぞ、大輔!」
………目を開けると、目の前では小学生がサッカーの試合をていた。
あれ?ここは?俺…代表戦で横浜のピッチにいたハズだよな?
なんで俺は小学生の試合をベンチから見てるんだ?それに、あの子達なんか見覚えがあるユニフォーム着て試合してるな…。
「どうした?大輔、出番だ。一矢報いて来い。」
何言ってんだこの人………って、岡田監督!?小学生の時、俺が通っていたサッカーチームの監督じゃないか!?
「あ、あの、お久しぶりです。」
「ああ?何言ってんだ、お前。さっきは行けるって言ったよな?」
思わず頭を下げたのだが、岡田監督は怪訝な表情を浮かべている。
なんで?会うのは約二十年振りだし、教え子が日本代表で活躍してるんだから、もうちょっと再会を喜んでくれてもいいんじゃない?
「…お前、やっぱり怪我が酷いのか?」
久々の再会にも関わらず、あまりにも意外な恩師の反応に、俺の方も怪訝な表情を浮かべていると、何故か心配そうに言われた。
「怪我?いや、大丈夫ですけど、試合?………あれ!?」
自分の手を見る。小さい!?良く見ると監督がデカい!?しかも俺、懐かしの緑色のユニフォーム着てる!?どーゆー事!?
「あの…監督?」
「大丈夫なのか?大丈夫じゃないのか?」
「え?いや、大丈夫っちゃ大丈夫ですけど…」
「だったら早く出ろ!せめて1点位返して来てくれ!」
この人は何を言ってるんだろう。すると、主審が俺達に話し掛けて来た。
「選手交代するの?しないの?」
「あ、今出させます!ほら、言って来い!」
背中を押され、右足からピッチに入る。選手交代?なんで小学生の試合に俺が?これでも日本代表なんだけど…。
同じユニフォームを着たチームメートの顔を見る。皆懐かしい顔だ…。あの頃の、子供のまんまの……って、なんでだ!?皆、皆俺と同じ歳位なんだから、もういい歳したオッサンだよな!?
「大輔、“アイツ”、マジやべーよ。マジハンパねーよ。」
た、『
嫌そうな顔で俺に話し掛けて来たの少年の名は高橋。小学校時代からの親友だ。
今は地元で家業のでんき屋を継いで、妻と4人の子持ちの良きパパだったのに…。
その、高橋が真底嫌そうな顔をしていた。
……あれ?なんか…前にもこんな事があった気が…。
高橋が言った“アイツ ”を見る。そこには、忘れたくても忘れられない、生涯のライバル?になる男が、やはり少年の姿で立っていた。
香田圭司…。
そうだ、思い出したぞ。これは、香田と初めて会った、あの試合だ!
チームのエースだった俺は三日前に足を捻った為、この試合は大事をとってベンチスタートだったんだ。
でも、ウチのチーム、下高井戸キッカーズは決して強い訳では無い上に、この日は相手が悪かった。
この日の対戦相手の成城FCはこの年、全国少年サッカー大会で優勝を果たす事になる強豪だったのだ。
その成城FCでエースとして活躍していたのが、12歳の香田圭司だった。
この時、香田はサッカーを始めてまだ一年だったらしいのだが、その実力は既に小学生離れしており、この試合でも後半からの出場でハットトリックを達成する事になる。
辛抱出来なくなった岡田監督は、チームのエースだった俺を投入したのだが…俺は実力の差をまざまざと見せられて、チームは更に3点追加された上に負けたのだ。
確か結果は最終的には8対0だったハズ。
なんとなく記憶を頼りにトップのポジションに入る。そして、香田と一瞬だけ目が合ったのだが、香田は直ぐに目を逸らした。俺なんか眼中に無いんだろう。
そうだよな…俺なんか眼中に無いんだろうな。代表になるまで覚えてもらえなかったんだから。
そう考えると…なんか悔しくなって来たな…。
状況はまだ読み込めてはない。でも、多分、これは夢なんだろう。
俺は代表戦のピッチにいたハズだったが…でも、これは夢なんだ。
状況は分からない。でも!ずっと目標にしていた香田へのリベンジのチャンスが訪れたのだ!これが夢であったとしても、今の俺なら香田を見返すプレーが出来る!
「高橋!ボールくれ!」
高橋からのパスが俺の足元に収まる。今のトラップの感覚…やはり、小学生の頃の俺じゃ無い。
吸い付く様なトラップ。これは現在の俺の技術力だ。
ドリブルを開始し、一人二人と抜いていく。決して難しいフェイントは使っていない。丁寧にインサイドとアウトサイドでボールをコントロールしているだけだ。
いくらプロでは下手くそな方だっとは云え、それはあくまでプロレベルでの話。小学生相手なら俺を止める事なんて無理だろう。
気が付くとゴール前、俺の前にはゴールキーパーしかいない。
コースを狙う?そんな必要は無い。ただ、思いっきり右足を振り抜く。
キーパーは一歩も動けずに、ボールはネットを揺らしていた……。
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