タイムスリップしたストライカー~能力そのままで過去に戻った俺は、ライバルに勝てるのか?~
Tonkye
prologue ワールドカップアジア最終予選最終節
“天才”って言葉は卑怯だよな?なんでもかんでも自分の理ことわりから外れる存在をその一言で片づけてしまう。でも、誰もが一度は憧れ、殆んどの人間は人生のどこかで自分とは縁の無い言葉だと気付き、割り切って人生を生きて行く…。
俺も、自分は天才とは縁が無い人種だと割り切って生きて来た。でも、それでも心のどこかで諦め切れずにずっと追いかけて来た。
そして、漸く努力が実り、天才と呼ばれる人種と同じピッチに立つ事が出来たんだ。
《横浜・日産スタジアム》
____________ウワアアァァァァァ!!
『さあ、お聞き下さいこの大歓声!雷鳴響く豪雨の中の激闘となったワールドカップ・アジア最終予選最終節!日本は、勝てば無条件で本選へ進出し、負けるか、引き分けでも得失点差でプレーオフにまわると云うサバイバルマッチとなった日本vs韓国のライバル対決は、1対1のまま後半30分を迎え、日本はいよいよ今大会の“救世主”の札を切ります!』
ピッチを叩きつける様な雨と共に、スタジアムを揺らす程の地鳴りの様な大歓声が“この俺”に降り注いでいる。こんな事、一年前には考えもしなかった。
『日本は今日無得点のワントップ“大垣”に代えて、背番号“18”、“
____________ウオオォォォォォォォ!!
遂に…遂にこの時が来た。ピッチを見ると、一方的にだが俺がずっとライバル視していた“香田圭司こうだけいじ”が、俺の方を見てる……事は無く、電工掲示板を見ている。多分残り時間を確認してるんだろう。
『ワールドカップアジア最終予選、初戦から四戦目までエース・香田の活躍で三勝一分と順調なスタートを切った日本でしたが、グループリーグ折り返しとなる五戦目の韓国戦で、香田が相手の悪質なチャージで負傷退場すると、この一戦を含め泥沼の三連敗。香田の長期戦線離脱が響き、ハリィレ監督が更迭されると云う事態に陥りました。
そして、引き分けでも五大会連続の本選出場に赤信号が灯るピンチとなった八戦目アウェーのサウジアラビア戦、0対0で迎えた後半45分、日本を救う決勝ゴールを奪ったのは、新監督としてこの試合から指揮をとった西田監督がサプライズ選出し、この日が代表デビュー戦となった、日向大輔でした!
日向は高校卒業後、J2モンテディオ山形に加入しましたが、レギュラーを確保する事が出来ず、十年間でJ2・J3含め五つのチームを渡り歩いた苦労人でした。
しかし、昨シーズン五年振りに復帰した山形でJ2得点ランキング2位の活躍で山形のJ1昇格に貢献!今季もJ1で得点ランキング上位に位置しておりますが、なんと言っても試合終了間際の劇的な得点が多く、そのドラマチックな活躍は危機に陥った日本代表への待望論を巻き起こし、異例の大抜擢で代表デビューを果しました!
サウジアラビア戦で結果を残した日向は、次戦のイラン戦でも途中出場からの決勝ゴール、そして、誕生日を経て30歳となった遅咲きのゴールゲッターは、この最終節もスーパーサブとして、いよいよ投入されました!』
自分で言うのもなんだが、俺には特別な才能は無い。敵を翻弄する様なテクニックも、どんな隙間も切り裂く様なスピードも、全てを蹴散らす様なパワーも、神は俺に与えてはくれなかった。でも、がむしゃらにゴールを狙う意地だけは誰にも負けない自信があった。
…でもまぁ、それでも去年のJ2、今季のJ1リーグ戦での活躍、そして代表戦での連続ゴールは、運の要素が強かったと思っている。
本来こんな活躍が出来る器じゃ無い事は自分自身が一番良く知っている。でなきゃ10年間もくすぶっちゃいなかっただろう。
何度も引退を考えた。戦力外通告でチームをクビになった事もあった。プロとして生き残る為、個性を消し、ポストプレーに徹したり、前線からのディフェンスに力を注いだりと、プレーが迷走していたからかもしれない。
それでも諦めきれずにJ3に生き場を求め、そこで割り切ったんだ。“点を取る”と云う原点に立ち返った俺の調子はどんどん上がって、現在がある。
だから、俺の売りというか、ストロングポイントは?と聞かれたら、常に「意地です!」と言う事にしている。
『ピッチではこの試合から復帰し、前半に先制点となるゴールを上げている香田が、チームメートと何やら話をしています。
対照的な二人ですが、日向と香田は、実は同じ東京都出身で同学年なんですよね。
香田は小学生時代からその才能を注目されたエリートで、中学高校と多くのタイトルを獲得し、最期の高校選手権で優勝を果たすと、卒業後直ぐに海外へと挑戦の場を求め、今では世界有数の名門クラブ、ACミランの10番として活躍し、日本代表でも長きに渡り絶対エースとしてピッチに君臨する正に“皇帝カイザー”の名を欲しいままにする天才です。
片や日向は、高校まで全国の舞台では無名、卒業後も陽の目を見る事が無く、苦労しながら漸く覚醒を迎え、劇的なゴールで多くのサポーターのハートを掴んだ“雑草魂”の代表として人気急上昇中です。
同じ年に生まれながら全く別の道を歩んで来た二人が、遂に同じピッチに立とうとしています!』
右足からピッチに入る。いつの頃からか、それが俺のルーティーンになっていた。
「おい、日向。…期待してるぞ?」
珍しく香田の方から話し掛けて来たが、なんで疑問形なんだよ。つーか、コイツとはまともに会話したのが実は今回の代表召集が初めてだったのだが、案の定俺の事なんか全然覚えて無かったし、そもそも一緒にプレーするのが初めてだから信頼感が無いのは分かるが…。
俺は小学生の時、初めてコイツのプレーを見て、ああ…俺とは生まれ持った才能が違うんだと実感した。アイツは凡才の俺とは違う“天才”なんだと。
その煌めく様な才能に強く憧れた。自分には無いものに対する憧れはやがて嫉妬に変わり、負けたくないと云う気持ちでやって来た。
結果的に、その意地が今までサッカーを続ける事が出来た要因なのかもしれない。そう考えると、香田には感謝しなきゃいけないのかもしれないが、それはそれでムカつく。
「…任せとけ」
香田の問いに、俺は一言で返す。
長年一方的に敵視していた奴との会話は緊張する。でも、しっかり返事をしてやった。そう、今、俺は長年のライバル?とチームメートとして同じピッチに立っているんだ。努力と運で天才と同じ場所に立ってるんだ!
『さあ、止まない雨の中残り時間5分となり、日本はコーナーキックのチャンスを迎えました!キッカーは勿論香田!ここは絶対に決めたい日本!』
香田が一瞬俺を見た?そして、俺の目の前にはゴールの臭いがするスペースがある。
香田の左足がボールを蹴る。やっぱり来た!
俺はスペースに走り込み、ボールは予想通りの軌道を描いている。敵も狙いに気付き、スペースに走り込んで来ていた。ならば…
…時間が止まった様な気がした…。降り注ぐ雨も、鳴り響く歓声も聞こえない。
俺は、ただただ誰よりも高く飛び、最高到達点でボールに頭を合わせる事に集中した…………。
…その時目の前が真っ白になり、全身を衝撃が襲った。
…何が起きたかは分からない。ただ、薄れ行く意識の中で、一瞬遅れて雷鳴が轟いていた………。
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