ゆめものがたり

夜桜咲人

「優汰ー?起きなさーい」



夢現ゆめうつつを彷徨う最中さなか柊優汰ひいらぎゆうたはその優しくも芯のある声を捉えた。

あぁ、もう朝か。先程の聞き慣れた声、母さんはもう朝食の支度を終えたのだろうか。現在の時刻を確認するべく、現在出せる力の限りを尽くして右手を伸ばす。やっとの思いで右手が充電してあるスマートフォンにたどり着いた。現在6時31分。


──もう少し寝よう。


なんたって今日は土曜日である。こんな早い時間から起きている意味もない。本能の赴くままに優汰は眠りにつこうとする。一度軽く目覚めてから二度寝に至るこの時間は至福の一言に尽きる。


「バサッ!」


惰眠を貪りかける寸前で思いとどまる。


──そうだ。今日は登校日じゃないか。


観念して肌寒さを堪えながらベッドを抜け出す。窓の外を確認すると、外は。ん?曇りか?にしても暗すぎやしないか?外灯の1つも点いていない。夜みたいだ。いや、夜と言うより…


───闇


怪奇現象とも言える天候。なんだか1人でいるのが怖くなってくる。部屋を出ようとドアノブに手をかける。


───ッ!


なんだこの嫌な感じは。いつも何も考えず開閉しているドアなのに、その先が開かずの間であるかのような禍々しささえ感じる。


よくこういうシチュエーションで「恐る恐る扉を開ける」なんて表現が使われるが、そんな心構えこのドアの前ではもはや─



「優汰ー?まだなのー?」



ナイスひどいタイミングだ。ビビったなんてもんじゃないぞ全く。まぁいい、早く下に行こう。



─あれ?



刹那の蒼白が、優汰を恐怖へとおとしいれつつも冷静さを取り戻させた。



──母さん、なんで生きてんだ?




「バサッ!」


高い所から落ちる感覚、転んだときの感覚、誰しもが感じたことがあるであろうこの類の感覚におちいり目が覚めた。優汰の夢はここで終わった。


















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