続報二 春風

 私の名前はソニア・ガドゥリーです。カトリーヌとは貴族学院で同級生でした。科の違う私たちですが、すぐに仲良くなりました。私も彼女も手に職をつけて将来自立したいと考えていて、気が合ったのです。


 学院を卒業し、私たち二人は王宮に就職しました。私は魔術院、彼女は司法院です。


 就職して初めての冬のある日、カトリーヌと約束して年末の市に行きました。久しぶりに会った彼女と軽く抱擁を交わした時、彼女の体からとても強い魔力を感じました。


 そのことを指摘するとカトリーヌは魔法の笛を入手した経緯も併せて事情を全て話してくれました。




 その次の日の終業後、私はカトリーヌを宿舎に訪ねました。どうしてもその珍しい笛を見たかったのです。こんな駆け出しの魔術師の私でも触れると分かるくらいの魔力を発しているのです。職業的興味の上に個人的興味もありました。


 いきなり訪ねてきた私に驚いていたカトリーヌですが、喜んで部屋に通してくれました。階下の談話室では人の目が気になって、笛をゆっくり見せてもらうこともできませんから。


 彼女の銀の笛は古代魔文字が一面に彫られています。


「まあ、思った通りよ。素晴らしい、としか言いようがないわ。カトリーヌ、この笛を吹いたら何が起こるか教えてもらったの?」


 魔術院幹部クラスの高級魔術師が作ったものに違いありません。


「魔法で身が守れるって……それに笛の音で人の注意も引けるとも」


「貴女の周りに防御壁が現れるのだと思うわ。それだけではないわよ、私ビアンカさまの魔力も感じるのよ」


「ビアンカさまって、もしかしてテネーブル総裁夫人のこと? とても珍しい魔力をお持ちなのよね」


「ええ。貴女の先輩は強力なコネをお持ちなのね。超貴重品よ」


 彼はカトリーヌのことを愛しているに決まっています。なのに、彼女自身は職場の後輩としてしか見られていないと思い込んでいるのです。なんてもったいない!


 けれど私は親友として見守ることしか出来ません。




 それから季節は流れ、また王都に長い冬がやってきました。


 そんなある日私たちは食堂で昼食を取っていました。苦しい恋をしているカトリーヌは以前にも増して女性らしく美しくなっています。彼女の先輩は何をモタモタしているのでしょうか……


「また今年も年末の市の季節がやってきたわね。明後日の休みにでも一緒に行かない?」


「ごめんなさい、ソニア。今度の休みは、私……」


「もう予定があるの?」


「えっと、それに実は……市には他の人ともう行ったの……」


 カトリーヌが少し赤くなって何か躊躇ためらっています。これはもしかして……


「それって誰か聞いてもいい?」


「実はこの笛を下さった先輩なの……」


 真っ赤になっています。女の私が見ても可愛くてしょうがありません。


「先輩後輩の間柄をやっと卒業できたのね?」


「ええ」


「おめでとう、カトリーヌ! 一年近くも何をしていたのよ貴方たちは……で、お式はいつ?」


「えっ? ソニアったら、な、何を言い出すの? 気が早すぎるわよ!」


「そうでもないと思うわよー」


 私の言った通りになりました。その春にはカトリーヌの可憐な花嫁姿を見ることが出来たのです。しかも私は花嫁の付添人という大役を務めることになりました。




***ひとこと***

親友のソニアさんも一安心、カトリーヌ編完結記念小話も終わりです。次からはカトリーヌのことが好きすぎて苦悩するティエリーさん視点の話になります。

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