9.僕たちは運命だったんだね
「それは....」
「通り魔ってやつですよ。僕は沙明と出かけていて、向こうは妻と出かけていました。妻もろとも....まあ。動機ってやつは、こんな感じですかね」
淡々と告げられた現実に、心臓が重くなる。
こんな壮絶な過去を語ったというのに、二人はも特に動揺する様子さえ見せない。
「俺達は共通の敵を追っている。敵の頭を叩く為には仲間が必要だ。だから調査し、お前達の元へ来た」
「....話を聞いたところ、第四形態の俺とやり合ったらしいが、テメェが死んじまったらワケねえだろうが」
朝日が嫌味を含めて吐き捨てれば、沙明が答える。
「そこで命を落とすのなら、所詮俺達はその程度だったということだ」
「....イカレ野郎ってことに変わりねえわな」
夜安は二人の佇まいや覚悟を目にして、この親子にはとてつもない"何か"がある、と実感した。
それが何なのかは夜安にもよく分からないが─、初めて出会った時のあの衝撃には何らかの意味があると。
この親子の過去に同情した訳ではない。
そんな単純なものではなく、本能的な何かが夜安の胸にあったのは確かだった。
「....協力させてくれ」
朝日が驚くなか、沙暗は面白そうに笑う。そして夜安に近付き、正面から彼を見た。
「ねえ夜安。どうして急に心変わりしたんですか?僕達がかわいそうだから?」
沙暗がにっこりと、不気味な笑みを見せながら問う。
同情なんて死んでもしない。
辛かったな、苦しかったな。そんな言葉、本物の地獄を経験した奴には届かない。
「お前が....何てことねえって顔して話すから」
「....へえ」
救ってやるなんておこがましく、勘違いも甚だしい。
何もいらない。何も欲しくない。何も求めてなんかいない。
失った家族にまた会いたい。ただそれだけなんだ。
「....ただ、一緒に敵をぶっ倒したいと、そう思った」
俺達家族の幸せを全て壊した奴らを──。
「....妻と息子を同時に失った時、今すぐ消えてしまいたいと、そう思っていました」
「ああ」
「むしろ常にそんな気持ちだったんですが──夜安。僕は今、決めました」
沙暗はそう言うと夜安の手を取り、力を込めた。
「ちょっ、テメェ父ちゃんに何を─って、うおっ!?」
続けて沙明が朝日の頭に手をかざせば、掌からは光が放たれる。
「少し黙ってろ」
「テメッ、何しでかす気だよっ!?」
「父さんがお前達に決めたんだ」
「決めた!?」
夜安と沙暗の身体は共に輝きを放ち、二人は光の中へと包まれていく。
「沙暗....?」
「そういえば僕達の能力について、まだ話していませんでしたね。人の能力を真似するだとか、身代わりを作るとか、そんなものはおまけに過ぎないんです」
沙暗が掴んだ掌から、力が込められていく。
よく分からない何かが溢れそうで、噴き出しそうで──。
「僕達の能力は誰かをサポートすることによって開花するんです。
ふさわしい存在を、今ここに見つけた....」
「こ、れは....!」
「嘘、だろ!?」
夜安との朝日の身体は強いオーラで輝く。
同時に藤親子は身体を蒼色に光らせ、叫んだ。
「「第三形態──
パートナー!」」
蒼色の光が二人の身体を包み込み、身体中が熱くなる。
鼓動が早くなり、視界も鮮明になる。心臓の音が聞こえてくる。
「さあ。これで貴方の力は通常時の二倍となりました。」
「俺達は今後、お前達の力のみを増倍し、お前達に力を与える」
夜安と朝日は、視線を重ねる。
掌に力を込め、共にベビーカーに触れ、息を吸い込んだ。
「「第五形態──」」
「はい。そこまでです」
しかしそれは藤親子により止められてしまう。
「「なっ!?」」
完全に臨戦態勢に入っていた二人は拍子抜けする。
「住宅街でそんな大技を使ってしまったら、大変なことになります」
「あ、ああ....確かに、そうだな」
夜安は動揺しながら、微かにひりつく掌を見た。
「やはり、僕たちは運命だったんだね....夜安....」
嬉しそうに笑う沙暗を、沙明は横目で見る。
しかしそれはすぐに逸らされた。
今にも泣き出しそうな、そんな顔をして。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます