第25話 依頼、達成・・・のはずだった
「なんということだ・・・」
子飼いのお庭番が姿を消した。
一人二人ではなく全員だ。
取引相手からは矢のような催促だったが、ついに『こちらで回収する』との連絡が来た。
つまり買いたたかれるということだ。
せめて上乗せさせようと噂の新人冒険者『霧の淡雪』の捕獲を命じたのは一昨日だったが、そちらがどう動くのか。
取り逃がした娘たちの行方も気になる。
男爵令嬢のほうも頑張っているが、引きこもりの侯爵令嬢の件もある。
そろそろ皇太子妃決定を発表をしてしまったほうがいいのかもしれない。
総裁は日程表を睨んで計画を立てることにした。
◎
リフォームと搬入が終わった。
お庭番の皆さんの滅私奉公もあって、学問バカのヴィタリさんの家は素晴らしいものになった。
後は食材や洗剤などを揃えるだけだが、それはお世話係のミニゲームのヒロインさんと相談してからということになり、とりあえず入院中のヴィタリさんに報告に行くことになった。
治療院の病室に行くと、エリカたちより幾つか年上のお嬢さんがいた。
ちょうど王都についたばかりのお世話係さんだそうだ。
「はじめまして。冒険者見習のエリカです」
「同じくデュオ『霧の淡雪』のアンナと申します」
ヒロインさんは不思議な顔で私たちを見ていたけれど、ハッとして頭を大きく下げた。
「レスティです。今日からモデスト様のお世話をさせていただきます。王都のこと、色々教えてください」
「モデストさんのご親戚でいらっしゃるとか。この度は遠くから王都へようこそ。こちらの生活に慣れるまでお手伝いさせていただきますわ」
ヴィタリさんの本名は『ヴィタリ・モデスト』と言うらしい。
モデスト男爵の四男坊で、好き勝手王都でしているとか。
二人がリフォームが終わったことを報告すると、入院が二日ほど伸びたと教えられた。
レスティさんはしばらく一人で生活することになるらしい。
「それではお家にお連れしますね。ご近所やお店もご案内します」
「お家をご覧になって、必要な物を教えていただけばご購入のお手伝いもいたします」
よろしくお願いしますと頭を下げるレスティさんは可愛らしくて、これから小さな恋物語が始まると思うと二人はドキドキを隠せなかった。
◎
その日の午後。
王宮の皇太子執務室。
ファーとライがオフィシャルな仕事をこなしている時。
コトンという音と共にお庭番が現れた。
「直接ご報告申し上げることをお許し下さい」
「許す」
ライが書類を処理する手を止める事無く聞く。
「妃殿下方が拉致されました」
「 ?! 」
ファーとライはハッと顔を見合わせる。
「拉致したのは
そこには他国では大手と言われる人買い商人の関係者も出入りしているという。
「アンナたちを売り飛ばすつもりなのですか ! 」
ライはダンっと机を叩き唇を噛む。
「ファー、動きますよ」
「ああ、エリカを奴隷として売り飛ばすなど許さない」
じきに動くとは思っていたが、まさかあの二人を狙うとは考えなかった。
皇太子とその側近は
それと会わせて総裁の裏の仕事と、なぜ皇太子妃を自分の手の者にしようとしたか。
そして総裁自身の出自を改めて調べ直すよう指示した。
◎
「まさか拉致されるとは思わなかったわね」
「あたしたちなんか攫ってどうするのかしら」
「それを言ったら私みたいな田舎娘なんて身代金も取れません」
無理やり連れ込まれた家の地下には、かなり広めの地下牢があった。
レスティさんをヴィタリさんの家に案内しようとしたところ、突然現れた男たちに縛り上げられここまで運ばれたのだ。
静かな生活を望むヴィタリさんの家が民家街の外れにあったこともあり、口をふさがれ袋に詰め込まれてグルグル巻きにされても、近隣の住人に気づかれることはなかった。
「それにしても、お二人ともご実家に帰られたのではないですか」
毎朝食材を届けてくれた王宮侍女さんが聞く。
三人は担当の侍女さん四名と同じ牢に入れられている。
絵にかいたような牢屋だが、女性に配慮してかお手洗いだけは布で囲われている。
「どちらかが皇太子妃に決まったから、発表までご家族と過ごされると聞いたのですが」
「まあ、そんな話になっていたのですか」
担当を外された彼女たちは、貴族のお屋敷に支援に行くことを命じられた。
侍女部屋に案内すると言われて、ついていったらこの牢に放り込まれたという。
「隣の牢の方たちは、攫われた女の子を助けようとしてここに連れて来られたそうですよ」
「あ、やっぱり ? 」
思っていた通りの展開に、エリカは呆れかえる。
「どうせここの住人は秘密の協力者だとか言われて騙されたのね」
「何で知ってるんだ」
お隣の牢から声がかかる。
「知ってるわけないじゃない。口封じするならそんな感じでやるんじゃないかなって思ったの」
「まさか
「俺たちを知っているのか ?! 」
そりゃあねえとエリカたちは言う。
「あたしたちを捕まえに来てたじゃない。一度帰ってくれたから、見られたくない物を隠すことができたわ」
「あ、あの時の娘たちか。見られたくない物 ? なんか怪しい物でもあそこで作っていたのか」
「いやですわ、女の子が殿方に見られたくない物なんて決まっているじゃありませんか」
下着とか下着とか下着とか下着とか。
家探しされて男性の手で触られたりとか絶対嫌だ。
「それより、あんたたちはあそこからどうやって逃げ出したんだ。王城のどの門も通った跡がなかった。俺たちは御所以外の王城中を全部探したんだぞ」
「うふふ、なーいーしょっ ! 」
少女たちはクスクスと笑いあう。
「おい、静かにしろ。うるさいぞ」
「あ、おにーさん。あたしたち、一つお願いがあるんだけど」
強面の牢番にエリカがにこやかに話しかける。
「なんだ。逃がしてくれとかは聞かないぞ」
「うーん、それも素敵なんだけど、もう少し切実なお願いかな ? 」
コソコソと二人で話し合っていたエリカとアンナは、せーので声を揃えて行った。
「「待遇改善を要求します !! 」」
◎
皇太子執務室では救出作戦と
お庭番たちは監禁場所の屋敷を囲み、攫われた者たちが移動されないように屋台や瓦版の記者、酔っ払いの真似事をしている。
「屋敷の様子はどうだ。何か動きはあるか」
「特にありません。ただ地下室の空気穴からは、時々楽し気な笑い声が、聞こえてきます」
「笑い声 ? なんだ、それは」
ファーとライが怪訝な顔をする。
◎
「おにーさん、そろそろバケツの水を変えて来て」
「新しい雑巾もお願いしますわ。もうポロポロ」
男たち二人が少女たちが地下室でさぞや恐ろしい目にあっていると心配しているその時、拉致被害者の娘たち一同はせっせと掃除に励んでいた。
何やらベトベトする床に壁。
こんなところで過ごすのはどうしても我慢できない。
箒にはたき、バケツに雑巾とタワシを差し入れさせ、ただいま生活改善の真っ最中だ。
「今夜は気持ちよく眠れそうですわね」
「あ、お夕飯作っちゃいました ? まだならあたしたちが作りますよ。お昼ご飯まずかったし」
「毛布を人数分いただけるかしら。こんな冷たい床で寝ていたら、体調を崩してしまいますわ」
次から次へと出る要求に見張りの男がアタフタしている。
「お前ら攫われてきてこれから売られるんだぞ。その意味がわかってるんだろうな」
「ええ、ですから自分の商品価値は上げておきたいんですのよ。その方がそちら様もたすかりますでしょ ? 」
「それでご飯、作っていいですかー。自慢じゃないけど料理の腕は悪くないですよ。美味しいもの作りますよ」
どこにいてもブレないエリカとアンナだった。
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