第15話 精々、あがくんだなぁ~!
カチャカチャ…ッターン!
「ふう、エクセルを打つのも楽じゃないぜ…」
俺は、額の汗を拭った。
「よぉ~月形ァ~」
「つ、恒山…先輩…」
彼の名は恒山 秋彦。デキると噂の先輩だ。
「どうも最近、異世界転生で調子乗ってるんだってぇ~?」
「そ、そんな。調子に乗ってるなんて」
彼の高圧的な態度は、はっきり言って苦手だ。
「業績もイイらしいじゃねェか~」
「ぼ、ぼちぼちです…」
「そんなオイシイ仕事をよォ~、独り占めは、良くないよなァ~!」
彼は、手にしたコンバットナイフをベロリと舐めた。
「独り占めだなんて、僕は…」
「そう思うだろォ?なあ皆~!」
「「「そうだそうだー!」」」
彼の取り巻きのモヒカン頭たちが合わせる。
「てな訳でよォ、その異世界転生、俺が頂くとするぜェ~!」
「そんな!これは、俺が!いやあの僕が、今まで色々とリサーチをして…」
「なんだァ?文句あるってのかァ?!」
「いやその」
「よ~し、じゃあこうしようぜ」
「?!」
「お互いに一回ずつ異世界転生しその内容を部長にプレゼンし、どちらがより異世界転生を理解しているか見てもらうってのはどォだぁ~?」
「な、なんだってー!」
「期限は三日後だ!精々、あがくんだなぁ~!ヒャーヒャッヒャッヒャ!」
「「「ヒャーヒャッヒャッヒャ!」」」
「上長印をもらうのを忘れるなよ!じゃあな!」
「く…なんて、なんて事だ…これ以上、残業はしたくないのにッ!」
そして決戦となる三日後…。
そこには、やつれ果てボロボロになった恒山先輩の姿があった。
「うむ。ではさっそく始めようかの。のう人事部長?」
「そうですな、総務部長。いかがですかな、経理部長?」
「結構ですな」
「よし、ここに異世界転生プレゼン大会を開始する!」
鳴り響くドラの音と共に、コロシアム会議室の床から大スクリーンがせり上がる。
「これは…!」「高さ20メートルはあるぞ!」「け、経費はどこから出ているんだ!」
会場の一般社員達がざわめく。
「このほうが、盛り上がるじゃろう」
確かに、これくらいの方が気合が入るってもんだ。
例え相手が恒山先輩だろうと、俺は負けない!
「先攻、恒山秋彦!」
またもドラの音が鳴り響く。
「あ、あの、では、はじめます…」
今日の恒山先輩は、いつもと打って変わって気弱な態度だ。
「す、スクリーンをご覧ください…」
その画面に映し出されたものは…。
「て、テキストべた打ちだとー?!」「やだ何年目なの?!」
会場が騒然となる。
「あ、あの、それでなんか魔法みたいなのがバァーって」
先輩はしどろもどろだ。
「それで聖なる?みたいな?女の人とかいて…」
ざわざわ…
「…なんでか、そうなってて…ここも、辻褄が合わないんですが、その…」
「もうよい!そこまで!!」
総務部長の声で、先輩のターンは終わった。
「後攻、月形賢一郎!」
ついに、俺の出番だ!
「えーでは、こちらをご覧ください」
くらえ、俺の、必殺!!
「見てあれを!」「パワーポイント?!」「あ、アニメーションまでしているだと?!」
これもまた、会場が騒然となる。
「パワー…ポイント、だとぉ…」
先輩は、俺のプレゼンを見て腰を抜かしたらしい。
「…と、いう訳で、如何に初期スキルを活かすかが…」
次々に繰り出される俺のパワポテクに、観客は恍惚とした表情だ。
「…決まりましたな」
「…そのようですな」
勝負は、俺の圧勝だった。
「教えてくれ…俺の…何が悪かったんだ…」
「プレゼン向けパワポ術…と言いたいが、実はそうじゃない」
「なん…だと…?」
俺はニヤリと笑う。
「確か、先輩が好きな作家は司馬遼太郎と京極夏彦だ」
「そ、それがどうした!」
「つまりアンタは、歴史考証が好きってことさ!」
「そっそれだけで?!」
「他にもある。世界設定のしっかりした硬派な漫画しか読まないと、言っていなかったか?!」
「なッ!」
「その分だと、ロクに萌えアニメも見ていないんじゃァ、ないのか?」
「たっ確かに…俺はアニメは…攻殻しか…認めない…」
「それがアンタの敗因さ!」
「そんな…」
「その点俺は、萌え美少女ゲームまでこよなく愛す…」
「…ゲームは…俺には…シヴィライゼーションしか…」
「そんなんじゃ、異世界のノリと勢いに、ついていけはしないぜ…」
俺は、クールに立ち去った。
そうして、勝負の幕は降りたのだった…。
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