第1部 理想郷のダンジョン《3》

今回は、ちょっとダンジョンの説明っぽくなってます。


********


「キャッ♪ キャッ♪」


 私は手と足をパタパタさせて、喜んでいますとも! 楽しー♪

 こう見えて私は、“たかいたかい” が大好きなのだ! 今までは、私をたかいたかいしてくれるのはお祖父様だけだったけど、このダンジョンマスターのお部屋には、私をたかいたかいしてくる彼がいるのだ!

 そう、アメリカグマくらいの大きさの、水色のクマさん。実際のクマさんと違って、ぬいぐるみみたいにふかふかのクマさんなのです! 可愛いー♪

 そして、その水色のクマさんの後ろには行列が。何の行列かって、それはね! 私と遊ぶ行列なんだよー♪ このダンジョンにいる魔物さん達は、小さいものが大好き何だって。

 私2歳、まだ小さいからね!


 ダンジョンに住む魔物は二種類あるそうで、一つは森や地上に住む動物がダンジョンに入って、ダンジョン内の魔素を長く吸うことによって魔物になるタイプ。もう一つは、ダンジョン内の魔素が塊となって動物なんかの姿を持つタイプ。

 魔素が動物の姿を持つタイプは、巨大化し高い知能を持つことがある。いわゆる、ドラゴンやグリフォン、フェニックスやフェンリルなど、ファンタジー小説に出てくる生き物がそうなんだって。

 ちなみに、地上の動物が魔物になった場合でも、長らく魔素を吸い続けると適正のある物は進化して、ファンタジーな生き物になることがあるんだって。

 今いるこのダンジョンには、二種類以上の生き物が混在しています。

 地上の動物から魔物になった、狼・熊・羊・豹・狐・兎・ふくろう・鷲・鷹、魔素からできたスライム・ユニコーン・マンドラゴ・カーバンクル、そして……。

 そう、二度見どころか三度見しちゃったあの浮遊物。見た目は1歳半くらい、キラキラの金髪のウェーブ、大きな青い瞳、そして、真っ白な翼。そう、翼ですよ!

 翼の生えたエンジェルです! なんでやねん!! ダンジョンマスターいわく、この世界の生き物ではないそうです。いったい、何処から連れてきたー!!

 この世界、基本地上の動物は魔物になってダンジョンでも暮らして行けるけど、ダンジョンの生き物が地上に出て暮らしていくことはほぼできないらしい。なぜなら、魔素がなくなればその姿を保つことができなくなるから。

 ダンジョンの魔物が地上に出て生きていられるのは、一日〜三日くらいまで。でもごくごくまれに地上に適正のある物が現れる。それが、ドラゴンとかグリフォンの伝説に繋がっているらしい。それ以外の魔物は、だいたい冒険者達に討伐されるらしいよ。不思議な所だよ、ダンジョン。


「ホー」


 目の前に、珊瑚のエンジェルスキンのような色合いの梟が。わぁー、丸っこくてフワッフワッですー。すーごーいー、そーっと撫でてみると


「ふぉ!」


 素晴らしい手触りです。うっとりしますー♪ あぁー、手がかってににぎにぎ。


 おっと、話をもどして。ダンジョンマスターの話だと、ダンジョンにはこの世界のすべてのチートがつまっている。ダンジョンの核と言うものは、強さのみを求める生き物らしく、大きなダンジョンを作り、数多くの強い魔物を生み出し、人間達が欲しがる金銀財宝を餌に、より多くの人間の欲望をすいとり、さらに力をます。

 だが、力をためすぎると、ダンジョンの核はその力に耐えきれず消滅してしまうらしい。だから、加減が難しいそうなのだ。大きなダンジョンや強い魔物を生み出すことで力を使い、ダンジョンに入ってきた人間の欲望から巨大な力を得る。それを繰り返し、いかに巨大なダンジョンになり力を持つか。それがダンジョンの核のすべてだとか。

 そこには人間のためだとか、この世界のだめだとかは存在しない。ダンジョンのドロップ品や宝箱の中身で世界がどうなろうが、そんなことは核の知ったことではない。

 ただ、ごく稀に強さに興味のない核や、世界のことを考える核が出現する。その多くが前世の記憶を持つ転生者らしい。

 かく言うこのダンジョンマスターもその1核。生まれたのは、ここから遠い森の中。日本人らしく平和を愛す核は、あまり強さに対する執着もなく、ダンジョンを大きくすると言う望みもなかった。だが、何かに力を使わなければ、力ばかりがたまり、たまった力に耐えきれず消滅してしまう。人間の欲望がなくても、ダンジョンは魔素を吐き出し続けるものなのだから。

 だから彼は、その力のほとんどを異世界ぜんせのせかいから商品を取り寄せることに使っていたらしい。ダンジョンマスター、異世界から物を召還できるのか。何、そのチート。


 おぉー、今私の目の前には、金色に輝くユニコーンさんがいらっしゃいますよ!


「あはる、てけ?」


 私はユニコーンさんを見つめながら、コテンと首を傾ける。それを見て、目の前のユニコーンさんも首を傾けます。


「グルナ、よくアハルテケ知ってるな」

「あい! ぐうな、おうみゃさん、しゅき」


 私の答えに、そうかそうかと頷くダンジョンマスター。アハルテケとは、メタリックな毛色を持つ、“黄金の馬” と呼ばれるお馬さんのことですよ。ぜひお鼻ターッチと、撫で撫でさせて下さいませ!


 話はダンジョンマスターに戻りますが、ダンジョンではなく洞窟のような空間を作って、その奥でのほほ〜んと異世界の商品に囲まれて暮らしていたら、そこに傷だらけで逃げ込んできた狼がいたらしい。それが今、私の横にいる茜色の狼さん。

 この世界の狼は、白色や灰色や黒色が普通。でもこの狼さんは、毛色が違ったために群れから受け入れてもらえず、ずっと母狼と2匹で暮らしていたんだって。

 だがある日大型の動物に襲われ、母狼は子狼を庇って亡くなった。子狼は命こそ助かったがボロボロになり、この洞窟を見つけ逃げ込んできたのだ。

 自分の毛色が違ったばかりにお母さんが亡くなってしまったと泣く子狼を、ダンジョンマスターは迎え入れた。この子狼にとってさいわいだったのは、母狼の愛情をいっぱいに受けて育ったこと。

 少しだけ洞窟を大きくして、子狼に自分が生み出した食べ物を食べさせた。一ヶ月もすると、この子狼は立派な魔物になっていた。

 ただこの子狼、時折地上に出掛けては弱って動けなくなっている動物を咥えて帰ってくるのだ。そのすべてが生まれて間もない子供で、体のどこかが普通の動物と違っていた。

 毛色が違う、体の形が一部違う、そんな理由で親や群れから見捨てられ、弱りきった子供達。たくさんの愛情を受けて育ってきた子狼は、弱りきった子供を咥えて帰ってきては、種族を超え自分が母から受けたと同じ愛情で子供達と接していった。

 その結果、私の前に行列ができるほど魔物が増えていったのだった。


 そんな中、ひどい雨の日に人間達が雨宿りに洞窟に入ってきた。曽祖父達である。

 王都から、王に賜った領地に向かう途中雨に降られ、見つけた洞窟に駆け込んだのだ。この時、ダンジョンマスターや魔物達は初めて人間とあった。

 だが、彼らがこの人間達を敵視しなかったのは、その集団が古傷を持つ者が大半だったからだ。どこか、自分達に通じたものがあるようにも感じられた。

 だから、話がしてみたいと思ったのだ。ただ核としてしか存在していなかったダンジョンマスターは、この時初めて動物の姿をとった。それが、ハリネズミの姿だった。この雨は三日三晩続き、曽祖父とダンジョンマスターは様々な話をしたらしい。そしてダンジョンマスターは曽祖父について、曽祖父の領地になると言う土地に行くことにした。

 ダンジョンの核は生まれて250年くらいまでなら、誰かの力を借りれば移動することができる。核は巨大な力を持つため、それを悪用しようと思う者に捕まれば身の破滅となることもある。移動を頼む相手は、よく考えてなければならない。

 だがダンジョンマスターは、今いる土地にはなぜか愛着が持てなかった。だから、たまたま知り合ったこの男が治めることになる領地に行ってみたいと思った。

 そして曽祖父も、ダンジョンがあれば領地経営に役立つこともわかっていた。両方の利害が一致したのだ。ダンジョンマスターはチートな力で自分と魔物達を小型化し、ダンジョンの一部の土と一緒に運んでもらい、ここにたどり着いた。そしてこの地で、のんびりダンジョンマスター生活を送っているというわけだ。

 領地経営の手助けになるよう、曽祖父に錬金術の箱を渡したのもダンジョンマスターだ。ダンジョンマスターいわく、自分と曽祖父は戦友みたいなものらしい。ハリネズミだけど。

 お祖父様のことも、親戚の子供みたいなものだと言ってた。


「ふぉ!」


 私の目の前で、手のようなものを差し出す高麗人参こうらいにんじん、じゃなかったマンドラゴ。えぇーと握手?

 私も手を差しだしてみれば、その手をマンドラゴが両手でギュウと握ってくる。マンドラゴって、魔素の塊からできるんだから普通の形で良さそうなものなのに、ここで生まれたマンドラゴやユニコーンやスライムやカーバンクルは、皆毛色や形が普通とは違う。このダンジョンの特徴と言えば特徴だね。


「ふ、ふぉ、ぉぉぉ!」


 えぇー! 何コレー! どうなるのー!

 私の両横にやってきた二人の天使達が、私の手を持って、手を持って、浮くーーー!! 足元パタパタしていい? ダメ?

 大丈夫なの? 天使達、疲れていきなり手を離したりしない? 飽きて私をほっぽりだしたりしない?

 えっ、えっ、あ〜れ〜!! 落ーちーるー、天使達ーーー!!

 ジャンプしてきた豹が、パクっと私の服の後ろ側を咥えて、華麗に着地してくれました。


「ふ、ふぇ……。ふぇぇぇぇ……。」


 あーぁ、私の幼児の部分が怖かったみたい。お祖父様が忙いで抱き抱え、よしよししてくれます。うわーん、お祖父様ー! 私はお祖父様にギューと抱きついて天使を見ます。すると


「だめよ、天使ちゃん。翼のない子は飛べないんだからね!」


 と天使達は、お姉さんやダンジョンマスター、狼さんから教育的指導を受けています。

 きっと2歳児は、天使達には重かったんだよね。それに、自分達と同じようなサイズの幼児がきて、とっても嬉しかったんだよ、たぶん。だから、一緒に飛びたかったんだ。


「にゃかにゃおり、しょ」


 にゃかにゃおりになったけど、仲直りに一緒にお昼寝しよ。ほら、狼さんも伏せしてくれたよ。三人で一緒に狼さんにダイブしよう。せーの、おやすみー。



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次回投稿は21日か22日が目標です。

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