第2章
第1部 理想郷のダンジョン《1》
「かーみ、きーろ」
ルン♪ルン♪と、手に持ったクレヨンで髪をぬりぬり。
「お嬢様、上手ですね」
「あい!」
片手をあげて、ふん!と胸をはって答えましたとも! うん、我ながらいいできでなの〜。
「うちの姪っ子なんて、こんなに綺麗に塗れませんよ」
「めいっこ、なんちゃい」
「3歳になったばかりですよ」
「ふぉ! どーきゅーちぇー」
初めての、歳の近い子の存在です。思わず、目をキラキラ、両手をパタパタさせて、目の前のお兄さんを見つめました。
「お嬢様、お願いします。向こうのお店に連れてって下さい!」
ふかふかの
「だめでしゅ」
話が変わったので、マージェさんから机の上のぬりえに目線を戻して、再びぬりぬり〜♪ あっ、ここちょっとぬれてないけど、まぁいいか。
「何でですか〜」
しぶといですね、マージェさん。さっきから、向こうの世界に連れてってくれ攻撃の連続ですよ。
「おかね、ないでしゅ」
「そんな〜」
私は今、お屋敷の自分の部屋で、ぬりえの真っ最中でしゅ! あ、違った。“ぬりえの真っ最中です!”
初めて向こうの世界へ行ってから二ヶ月と少しが過ぎ、向こうの世界は梅雨入りしてしまいました。
梅雨入りのため、山の中腹を通る車も少なくなり、雨の中わざわざ車を降りて野菜を買って行く人も少なく、売り上げは伸びません。だから、雨の日はお野菜置いてないの。
梅雨の間のお野菜売りはあきらめて、今は夏に向けて英気を養うのです!
とは言え、梅雨入りする前に、お母様とお祖母様、そしてトルキーソを連れて、お姉さんと一緒に向こうのお店を回りましたよ。
お姉さんにマットレス代を返して、お金は少なくなったけど、前回買えなかった物や皆の役に立ちそうな物、領地に役立ちそうな物を買いました。お母様もお祖母様もトルキーソも、初異世界に大満足のようでした。
「どれちゅ、あおー。あっ!」
勢いよくぬり過ぎて、ドレスから青色がはみ出しちゃった……。私は、ぷ〜っと頬を膨らませました。2歳にしては、綺麗にぬれてたのにー。
「はい、お嬢様。修正テープです」
100均で買ったぬりえを広げて、色鉛筆は使いずらそうだから、クレヨンを使ってぬってるんだけど、時々はみ出すのよね。はみ出した青色のクレヨンを、キャメリアが修正テープでなかったことにしてくれます。わ〜い、修正テープ♪
「お嬢様、お願いします」
「むみゅ」
向こうの世界の品物すべてが珍しく、寝る間も惜しんで研究に没頭したらしいマージェさん。マットレスの一部を切り取って箱に入れた後、残ったマットレスに寝てみたらその虜になったそうで、即行で同じような物を作りあげ持ってきてくれた。
見た目はよく似てるけど、耐久性とかもろもろは使ってみないとわからないから、今はお祖父様が使ってみてるところ。
そして今日は、お祖母様とお母様の分のマットレスを持ってきてくれたらしい。
でもね、ベッドのサイズ違うからね! まずベッドを作らないといけないよね? 私は、王都の祖父母のベッドしか持ってなかったから、お祖父様とお祖母様の部屋でそれぞれベッドを出して置いたけど、お母様は客室のベッドを持ってきて使うんだって。
「まっちょれしゅ、にあった、べっちょ、いゆ」
私は、コテンと首を傾けて考える。
やっぱり、マットレスのサイズにあったベッドが必要だよね。すのこベッドなら10000円前後、収納付きベッドなら25000円前後、二段ベッドなら30000円から、って言うところかなぁ。
あぁー、お金がたりない。しょぼん……。隅っこで丸くなりたいよ。
「お嬢様」
おっと、いけない! かなりしょぼんと、背中を丸めていたらしい。キャメリアが心配していますよ。
「たいじょーぶ」
そう、大丈夫大丈夫。何事も、簡単にはいかないものさ。レジン液の試作品だって、二度に渡って持ってきてもらったけど、どうしても黄変してダメなの。
100均で買ったウサギのビーズをコーティングして、陽当たりのいいベランダに放置しておくと、二日で黄変。四日目には、ピンク色だったウサギの色までなくなって白色に。白くなったウサギに、黄変したコーティングだけが残ったよ。これじゃ売り物にならない。
編み機はけっこう早くできたけど、手作業で職人さんに作ってもらってたら、いったい売値はいくらなのよって言う高額商品になっちゃうよ。見本で渡した編み機は108円なのに。これじゃ庶民には程遠く、手がだせない。
一カ月たっても、マットレス以外はまったくうまく行ってない。道のりは長いのだ。
なんかいい方法ないなー。私は机に肘をつき、広げた両手の手のひらに頬を乗せ考える。う〜ん。
「お嬢様、幼児なのに難しい顔をしてますよ」
「ちかたない。よのなか、むちゅかちぃ、の」
そう思うなら、難しい顔にならないように何とかしておくれ。
「お嬢様、あと少しで完成ですよ」
そうだった。あと少しでぬりえは完成なのです。キャメリアに “あい” と答え、またぬりぬり。
「どうして青色なんですか。ちょっと地味じゃないですか?」
ちつれい、いや失礼な! マージェさん、
「できまちた!」
できたー♪と声をあげ、両手でぬりえを持ってキャメリアに見せれば
「お上手です、お嬢様」
と、誉めてくれました。やったー♪
そして、窓の近くにある飾り棚の上に置いてあったコルクボードに、白と赤のお花の押しピンで飾ってくれました。押しピンが花の形なのが可愛い〜♪
ふふ〜ん、ぬりえのできと可愛い押しピンのついたコルクボードを見て、ご満悦なのです!
「なんですか、これ」
「こりゅく、ぼーど。べんり、なの」
「この間持ってこられた商品の中には、ありませんでしたよ」
うっ? これもあった方がいい? 領地の役に立つかな。
「まちゃ、こんど、かう」
「その時は、ぜひ連れてって下さい!」
えぇ〜、じゃ考えときます。だけど次は、
「グルナ」
部屋の扉が開いて、お祖父様が入ってきましたよ。
「おちぃしゃま!」
私はとてとて扉まで行き、お祖父様の足にしがみつきました。“よしよし” と頭を撫でて、私を抱き上げてくれるお祖父様。
「ここにいたのか、マージェ」
「はい。お嬢様に認めてもらわないと、向こうのお店には連れて行ってもらえませんからね」
ハッハハと笑って、“そうか”とお祖父様は言いました。
「マージェ、お前も昼食を一緒に食べて行くか。今日はグルナのオススメだそうだ。グルナのオススメは、どれも美味しいからな」
「あい!」
両手をあげて、今日のは
「きょーは、ちょくぱんの、あちゅやき、たまご、ちゃんどいっち、にゃの!」
もう、一生懸命になって言いきりましたとも!
そーなんですよ! 先週、一斤の食パン型と卵焼きフライパンを手にいれたんですよ!
食パンも厚焼き玉子もこちらにはない料理だから、料理長をお姉さんのお家に連れてって、3人でパソコンをガン見。料理サイトで手順と焼き方を映像で見て、その日のうちに料理長が作ってみて、そこから試行錯誤。昨日やっと、そこそこ料理長が納得できるものが完成しました。
お姉さんにも食べてもらったけど、“美味しい! お店の味だよ!” って言ってくれました。今日のお昼は、食パンの厚焼き玉子のサンドイッチとカツサンドなのだ。
「あちゅやき、たまご、かちゅ、ちゃんど、うまうま♪ おいちぃ、なの♪」
もう嬉しくって、ニッコリしちゃう。
「そんなに、ですか。ぜひご一緒させて下さい!」
いーよー、美味しいものは皆で食べよう。
「そうだグルナ。明日向こうのお姉さんに、こちらにこれるか聞いてくれるか。一緒に行ってもらいたい所がある」
「おねえしゃん、いっちょ。どこ、いくの」
「あぁ、一緒にダンジョンに行って欲しいんだ」
あっ、ダンジョンね。はい、明日お姉さんに聞いてみます。
んん……。
えぇーー!! ダンジョンーーー!!
********
一口メモ
エスペラント語→日本語
マージェ→魔導師
次回投稿は15日か16日が目標です。
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