第4部 理想郷のお姉さん《3》

「クーちゃ〜ん」


 うまやに来て、クーちゃんに癒しを求めていますよ。クーちゃんのお顔にぎゅーっと抱きついて、その額に自分の小さな頬をスリスリ♪ クーちゃんは私と同じ2歳と言っても、馬の1歳は人の4歳に換算するなんて言われることもあるから、実際年上なのですよ。でも、同い年生まれだからね!

 厩の中は前世で見た一部屋一部屋壁で区切られた個室と似てる。だけどちゃんとした扉はついてなくて、個室の前に何本かの角材を通して、部屋から出られないけどお隣さんどうし、いつでも顔を合わせられる感じ。

 私が馬房へやの前をとてとてと通り過ぎると、フリージアン達が顔を出して“どーしたのー、ひとりー”って言うふうに挨拶してくれる。お馬達は臆病だけど、幼児にはとっても優しいのだ! そう、とっても優しいの〜♪ ここ、大事なとこだからね!


「ニーガ」


 とニーガの名を呼べば、“なに”とばかりに顔を近付けてくれる。私は癒しのプニプニのお鼻をタッチさせてもらいながら


「おちいしゃまと、キャメリア、いっちょにくゆ。どーしようー」


 と愚痴ぐちる。ロココスタイルのお祖父様とキャメリアが100均? ないない、どーしようー。お姉さんに相談しなくちゃ。









 翌日、お祖父様とキャメリアを連れて向こうの世界へ。


『おはよーごじゃいましゅ、おねえしゃん!』


 挨拶大事! と言うことで、今日も元気に挨拶しますとも!


『オハヨウ』

『オハヨーゴザイマス』


 お祖父様とキャメリアも、ちゃんと日本語で挨拶してお家の中へ。お姉さんに、グルナと向こうのお店に行こう争奪戦の話をすると


『そうよね、大事なお嬢様を一人で異世界には出せないわよね。しかも、グルナちゃん小さいし』


 と言って、うんうんと頷いていた。そしてお祖父様とキャメリアを見て


『う〜んお祖父様の方は、そうね、うちの叔父さんの服なら入るかも。叔父さんはね、学生時代バスケ部で活躍してたんだ。普通の人よりは大きかったから、着れるんじゃないかしら。キャメリアちゃんは、私が昔着てた服を着てみようか』


 って言ってくれて、服を探しに行ってくれました。申し訳ないです、お姉さん!

 ちなみに、お姉さんは27歳で独身だそうですよ。私のメイドのキャメリアは18歳です。

 今は台所にあるテーブルの椅子に座って、お茶とわらび餅をいただきながら待っていますよ。小さなお口をあ〜んと開けて、プルプルのわらび餅を一つ。あぁ〜わらび餅、うまうまですー♪


「これ、とっても美味しいですね」

「あい! わらびもち、おいちぃ。ぐうな、わしゃんぼん、しゅき」


 普通のわらび餅も美味しいけど、和三盆を使ったわらび餅はまた別格。うまうまなのですよ! 和三盆、あちらの世界でも作れないかなー。


「グルナ、これはなんだい」


 お茶とわらび餅を美味しくいただいたお祖父様は、物珍しそうに台所を見て回っていた。


「でんちれんじでしゅ」

「料理に使うのかな」

「あい、あたちゃめたり、おーぶんで、おかち、やいちゃりできましゅ」

「んんー」


 お祖父様は右手を顎の下にあて、何やら難しい顔をして考えています。


「おちいしゃま、にゃにかあゆ」

「似ているのだよ、ダンジョンから発見された錬金術の箱と」

「ほへ?」


 何それ、錬金術の箱ってなんなの。


「おちいしゃま、はこ、にゃに」

「形はコレにそっくりでね。箱の中に調べたい物を入れると、それがどんな物でできているとか、この成分は領地の何と近いとか、この電子レンジとやらのボタンがある所に文字が出てくるんだよ」


 何、その成分分析器みたいなやつ。しかも電子レンジにそっくりとか、そんなことあるのかな?

 うん? じゃベーキングパウダーとか成分分析器に入れたら、領地でベーキングパウダーの代わりになる物が見つかる? マジですかー。


「おちいしゃま、ぺーきんぐぱうたー、いれゆ。ほっちょけーき、できゆ」

「そうか! 錬金術の箱に入れてみるか」

「あい!」


 そうこうしていると


『お待たせ〜』


 と、お姉さんが戻って来ました。お姉さんは両手に服を持って、さぁ着てみましょうか、と言った。


「どうだ、グルナ」

『ちんちくりん』

『グルナちゃん』

『あーい』


 おっといけない、スマイルでしゅ! じゃなくってスマイルです! 思ったことがそのまま言葉になって出ちゃったよ。

 ズボンの丈ちょっと短くないかなー、シャツもどうかなー。お祖父様、大きいからね!


『フリマアプリで探してみる』

『ためでしゅ! かようび、まにあわないでしゅ』

『じゃ、リサイクルショップに行ってこようか』

『たいちょうぶでしゅ。あれで、おーけーでしゅ』


 お姉さんにはチャイルドシートの件でも車を出してもらったのに、リサイクルショップにまで行ってもらったら、ガソリン代がたくさんかかってしまう。

 大丈夫、きっとお祖父様は気にしないー。たぶん……、きっと……。お買い物に行った時に余裕があれば、お洋服買うからねお祖父様。


「お嬢様、すうすうします。心もとないです」

「たいちょうぶ、にあう」


 確かにあちらの世界じゃ長いメイド服のワンピースに薄いパニエ、その下にドロワーズまではいているからね。でも今は下着とワンピースだけ。

 しかも、お姉さんのワンピースだから、お姉さんが着ればけっこう長いスート丈だけど、キャメリアが着ると膝下丈なんだよね。でも似合ってるからいいと思う。可愛い♪ お祖父様もキャメリアも長い髪は帽子で隠して、サングラスする? かえって変かな。

 お姉さんの話だと、観光地になってる天空の城の行き帰りに寄る外国の人も多いみたいだから、あまり気にしなくても大丈夫だと思うよ、って言ってた。


『うん、キャメリアちゃん似合ってる。いいわね。これで火曜日の準備はできたわね。グルナちゃんお金持ってきた』

『あい』


 私はポシェットから野菜の売り上げを取り出した。1000円札が数枚と500円が数枚あるけど、ほぼ100円。約一ヶ月で35200円の収入だったのー。

 これをレジで払うのはちょっと迷惑かなーと思う。レジに人がいっぱい並んでたら、小銭を数えてもらうだけでも時間がかかるからね!

 というわけで、お姉さんが両替してくれるけとになったの。でも


『おねえしゃん、こちぇに、たいへん、にゃい』


 と、聞いてみた。100円貯金とかしてたら別だけど、小銭って重いし迷惑にならなきゃいいけど。


『うん? 小銭。大丈夫、ATMで通帳に預け入れで入れるから』


 問題ないよーと言ってくれました。ありがとう、お姉さん!

 何買おうかなー。買う物メモっとく。あっ、この手じゃお絵かきくらいしかできなかったよ……、しょぼん。









 パチッと目が覚めましたとも! 今日は火曜日、向こうのお店に行く日ですよ! こちらに異世界転生して早二年、久しぶりの前世のです。ドキドキ、ワクワク、ですー♪

 朝からお祖父様は、グルナをしっかり見てて下さいね! と、お母様とお祖母様に言われていました。お母様、お祖母様、行って来ますねー。お土産買ってくるからね!


『おねえしゃーん、きたよ〜』

『じゃ、行きましょうか。車に乗って』

『あい!』


 早く! 早く! と、お祖父様の手を引いて、車の前までやって来ます。


「おちいしゃま、どあ、あけゆ」

「どうやって開けるんだい」

「しょこの、ちょっとでちゃとこ、ていれて、ひく」

「こうかい」


 お祖父様がドアを開けました。後部座席の真ん中にチャイルドシート。そのチャイルドシートを挟むように、左右にお祖父様とキャメリアが乗ります。

キャメリアは昨日乗ってみたので、私をチャイルドシートに乗せてくれて、自分も座ってシートベルトをしめます。お祖父様にもシートベルトをしてもらいますよ。


「おちいしゃま、ちーとべるちょ、すゆ」


 キャメリアがお祖父様に手本を見せ、初シートベルト体験です。

 皆、出発の準備は調いましたね! 出発しますよ! いざ


「しゅぱーちゅ!!」


 行ってきますー。





********


一口メモ


エスペラント語→日本語


ニーガ→黒



次回投稿は24日か25日が目標です。

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