第4部 理想郷のお姉さん《1》
「むみゅ〜」
な、なんで! 雑草が抜けないってどういうことー!
今日は工場に来て、畑作りのお手伝いですよ。
街の中央広場での催しごとのあと、お婆さん達もこっちに引っ越して来て、子供達との生活もうまくいっているようですね。
今日は皆で、アルボとマーロ達が家庭菜園程度に作っていた畑を広げて、収穫アップを目指すのです!
「ふみゅ〜」
私は畑の予定地に座り込んで、雑草を抜いています! じゃなくて、雑草を抜こうと両手でしっかりつかんで、せーので引っ張ってます。
だーけーどー、
この辺では雑草ってほとんど見ないんだけど、畑の一角に雑草があったから引っ張ってるの。なのに、抜けないー。
「にゃんで、もっかい。うにゃ〜!」
足を踏ん張って、手に力を入れて、抜くのよー!
「ほ、ほぇ〜!!」
「お嬢様、何やってるんですか」
雑草は抜けず、一人後ろにコロコロと転がる私。にゃんで、いや何で。転がる私のそばにやって来たぺルルが、
「さぁ、お遊びはここまでですよー。あっちに行ってましょうね」
と、私を抱っこして移動して行く。えぇー、待ってー、私遊んでないよー! 雑草を抜くのよー、と右手を伸ばしたけどだめだった。なぜだ、解せぬ。
その後、クンルダント領から帰って来たシェーヌとエラーブルと一瞬にドレスを数日がかりで完成させ、またシェーヌとエラーブルはクンルダント領に戻って行きました。
この後のご本人様との細かな微調整はシェーヌとエラーブルがして、納品までしてくれるそうです。皆、お疲れ様!
ドレス完成後はこちらへ来て初めての、まったり2歳児生活を堪能しました!
ペルルもハウスメイドの仕事を終え、めでたく
そして、初めてこちらに来てから24日目の今日、2人して固まってます。
なぜかって、それはね、私達の目の前にパステルカラーの
もう、言葉も忘れて立ち尽くしますとも。ペルルと繋いでた手を無意識に放して、とてとてと玄関に向かって歩いて行く。
「お、お嬢様」
ペルルの声にビクッとして振り返る。不安そうな素振りのペルルに
「た、たいちょうぶ」
異世界人怖くないよ、たぶん。と、私と一緒に玄関の前まで来てもらう。
ぎゅーうと両手を握って玄関を見る。
ペルル、と言ってチャイムを指差すと、ペルルの指が震えながらチャイムを押すのがわかった。私も震えててるからね! ペルル。
ピンポーン♪と軽やかな音をたてチャイムがなった。
『はーい』
聞こえたのは女の人の声。
肩がビクッと震え、パタパタとスリッパの音がして息を飲む。
スリッパから何かに履き替える音がして、がらがらと玄関の引戸が横にスライドした。
あぁ〜、日本人だ。かっての自分と同じ日本人。
じっーと見つめるその人の顔は驚きにみちあふれ、目の前のペルルを見つめ固まってる。そうだよね、山の中の家でチャイムが鳴って玄関開けたら外国人のメイドさんが立ってるって、何! だよね。
『えっ……と……』
言葉が出てこない目の前のお姉さん。
『あ、あの』
私は思いきって、声をかけてみた。お姉さんは一瞬ビックリしたみたいだけど、ずっとペルルを見てて私に気づいてくれない。
お姉さん、ペルルじゃなくてこっち!
『あの。おねえしゃん、こっち』
私はその場で手をパタパタさせながら、ぴょんぴょん跳びはねてみた。
お姉さん、こっちなのー。下よ、下。気がついてー。
ピョコピョコしてたら、下を見たお姉さんと目があった。お姉さんは
『に、日本語』
と、呟いた。
そーだよね、見るからに外国人の幼子がネイティブな日本語喋ってたらビックリするよねー。
そこで私はちょっと考えて、こう言ってみる。
『おねえしゃん、りゃのべはしゅきでしゅか?』
『ん、りゃのべ? しゅき?』
むむむ、
はっきり言えてないけどね、しょぼん……。
『えっ……と、ラノベかな?』
しょぼんとした私に気がついたお姉さんが、なんとか幼児語を理解してくれました!
ここはもうはっきり言うしかないでしょう。私は右手の人差し指をビシッ!とお姉さんに向け、左手を腰にあて胸を張って言いましたとも。
『いしぇかいてんしぇなのでしゅ、おねえしゃん!』
お姉さんはまた一瞬固まったあと
『いしぇかい……? てんしぇ……?』
うん〜と、腕を組んで目を閉じて考えてる。
『異世界、転生』
『あい! そうでしゅ!』
飛び上がって喜ぶ私を見て、よかった、と言うとハッとして
『えぇー、異世界転生!!』
と、叫んだ。
それからはもう、
信じられない、と言うお姉さんの手を引いて物置の中に入り、そして向こうの納屋へ。
納屋の外の光景にお姉さんは言葉も忘れて、これでもかってくらいに目を見開いて立ちすくんでた。
『家の物置が、異世界と繋がってたなんて……』
私達は今、お姉さんのお家の居間に座り、お茶をいただいてます。
あぁー久しぶりの緑茶、美味しいー♪
一口飲んではその美味しさに、身体が自然と横にルンルンと揺れちゃいますよ! 一度飲んだら緑茶が恋しくて、忘れられなくなるよね。
向こうの世界じゃ緑茶なんて無いから、困っちゃうなー。
『そっかー、グルナちゃん頑張ってるんだ。いいよ、私協力する。でもすごいね、すでにお野菜売って稼いでるなんて。で、行きたい所ってどこ』
私はお姉さんと外に出て、向こうの山の下にある看板を指差した。
『100均』
『あい』
そう、こちらの世界へ来てすぐにあの看板を見て、必ずあそこに行くと心に決めたんだ。
100均、あそこならわずかな金額でも買える物がある。だから、すぐに野菜を売ってお金を稼ごうと決めた。
何か、向こうの世界で役にたちそうな物を買うために。
私には100均が、希望の光に見えた。100均に行く、そして買い物をする。それが今の私の目標なの!
無事にお姉さんに説明を終え、またお家の中へ戻ります。
お姉さんの話によると、あの100均は最近できたお店で、近くにホームセンターとスーパーもあるらしい。ホームセンターにスーパーですよ! その名前を聞くだけでも、気分はアゲアゲです〜♪
なんでも、この山のお隣の山の上に城跡があるらしいんだけど、そこがある一定の条件になると天空の城みたいになるらしく、インスタで一気に世界中に広まって、国内外から沢山のお客さんが来るようになったんだって。
あぁ、私の前世でもそういう所があった。
そのため
あの看板から少し行った所に、100均はあるんだって。
この山中にけっこう車が通るのも、整備された新しい直通の道路ではなく、山の風景を楽しみながら旅をしたい人達が、天空の城の行き帰りにここを通っているんだそう。
こっちには道の駅とかがないらしく、お土産感覚で農家さん達が道の端に置いている野菜を買って行く人も多いんだって。
私が毎日置いているお野菜も、きっとそんな人達が買ってくれているんだわ。ありがとー、おかげで助かってます!
『じゃ、100均まで行くには……。そうね、グルナちゃんの服とチャイルドシートが必要ね』
『ほ……ぇ……』
一瞬、意味がわからずコテンと首を傾けた私だったけど、その意味がわかった瞬間、ガーンと何かとてつもなく重い物が落ちて来たような気がした。そして
「ふぇ……」
『えぇー! グルナちゃん、どうしたね!』
『ちゃいるどちぃーと、ちゃかい。ぐうな、おかねにゃい』
そう口にしたとたん、涙がポロリとこぼれ落ちた。
「お嬢様、どうしたんですか」
ペルルが私を抱き上げて、顔をのぞきこむ。ペルルは日本語がわからないから、話の内容はわからないもんね。
その横であわてふためくお姉さん。ごめんねお姉さん、幼児は泣きはじめると止まらないのです。
「ふぇぇぇ……」
『グルナちゃん、大丈夫。なんとか探すから。えぇーと、こう言う時はフリマアプリ、それとも地元の掲示板』
こうして私は、初めて会ったお姉さんをそうそうにあわててさせるのだった。
********
「○○」→異世界語
『○○』→日本語
次回投稿は18日か19日が目標です。
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