第2部 扉の向こうは理想郷《1》
ふん♪ ふん♪ ふん♪ 鼻歌まじりに、とてとてと長い廊下を歩いています。
ドアを見つければ手を伸ばし、もちろん届かないけどね! 後ろにいるキャメリアが開けてくれるからいいのー。
お祖父様とお祖母様がクンルダント領に行って三日目、一日目は一階と半地下を探検。
一階は広間や玄関ホール、画廊や食堂、厨房、図書室など。
半地下は
その隣にはトルキーソの身の回りの世話をする、専属の
そのほか、毎日交代で
二日目は二階と三階の探検。
二階は執務室やお祖父様、お祖母様、お母様のお部屋や客室を見て、三階はいないから使われてないけど、
ちなみに、私の部屋は三階です。あとはちょっと頑張って屋根裏部屋の女中頭のスリジエの個室と、メイドが毎日交代でお泊まりする相部屋を見せてもらった。
二階と三階には使われてない部屋も多いから、そこはまだ見てない。前世ではTVでしか見たことがなかったカントリー・ハウス、大変勉強になりましたとも。
今日はね、メイドさん達の寮を見せてもらって、
三階建ての寮や畑は庭の大きな木々が並んだ奥にあるから、お屋敷の窓からは見えにくくなってます。大勢のメイドさんが棲むにしてはこぢんまりした感じがある。
ドアを開けると左右に別れた廊下があって、右手にお風呂場や洗面所やトイレ、左手にミニキッチンと居間。
二階は上級メイドの二人部屋が四つ、三階はそのほかのメイド達の四人部屋が四つ。どの部屋もそれほど大きくはない。でもほかのお屋敷のメイドさん達に比べたら、格段にいい待遇なんだって。
そして、やって来ました!
お馬さんは基本大人しく優しい生き物、大きな体とは対照的に臆病で敏感、人が優しく接してあげないと人に敵意を持ってしまうかもしれない。でも、信頼関係を築けていれば大丈夫。
どんなお馬さんがいるかなー。
「ふぉぉぉ!!」
思わず叫んでしまったのは仕方がない。だ、だってね、
大きな真っ黒な青毛の馬体に、長い
「しゅてき!!」
私は思わず一人でとてとてと歩いて行きました。
お馬さんはこちらに向かって耳を立て、じっと見つめています。
「はちめまちて、ぐうなでしゅ」
ペコリとお馬さんにお辞儀をすると、お馬さんはこちらに顔を近づけてきました。私は右手をお馬の顔に近づけます。
「お、お嬢様!」
「たいちょうぶでしゅ」
お馬さんを驚かせるような大きな声を出してはいけません。キャメリアに声をかけて、あらためてお馬さんのお鼻にタッチ。
「ふぉ! ぷにぷに〜」
前世でもお馬さんのお鼻のぷにぷに感、好きだったんだよね。癒される〜。
「お嬢様は、大きな馬が怖くはありませんか」
「にゃい! おうみゃさん、かあいい」
「乗ってみますかな」
「のゆ!」
六頭いるお馬さんの中から、とくにおとなしいという8歳のニーガを外に出してもらって、その背中に乗せてもらいます。
前世では子供が乗る時、鞍に持ち手がついたような物があったけど、もちろんここにはありません。でも、ちょっとしたカゴのようなものがあって、その上に乗りました。
ニーガはベトゥーロが曳いてくれて、私はカゴの上から、にーがいいこー、と声をかけます。馬体が大きいので、安定感は抜群です。
前世では観光地の
お馬さんは乗っている人の気持ちを感じることができると言われています。いいこー、可愛い、大好きーの気持ちをいっぱい込めて乗らせてもらいました!
お馬さん見学のあとは、畑近くの寮を見せてもらいます。いうなれば、こちらは男子寮です。
玄関を入ると左右に廊下があって、右手に居間とミニキッチン、洗面所、お風呂場、トイレ。左手にメイドさん達の二人部屋よりも大きい
二階も、メイドさん達の4人部屋よりも大きい
厩番のベトゥーロと御者のアガトと造園係のシィリンゴは、街にあるお家から通っているそうです。
昼食とお昼寝をはさんで、やってきました畑。色々な葉っぱが土から出ています。造園係のシィリンゴが、一つ一つ教えてくれます。この畑は錬金術で作られた肥料を使っているとかで、とても良い野菜が育つんだそう。すごいね、錬金術で肥料まで作れるんだ。
来月にはじゃがいもがいっぱい収穫できるんだって、楽しみ。
ここでは、粉ふきいもやじゃがバターみたいにして食べるんだって。粉ふきいもにじゃがバター、美味しいよね♪
でももっとほかの料理も食べさせてあげたい。じゃがいもかぁ、前世ではほかにどんな料理があったかな。
う〜んポテトサラダとか、作れるかな? 茹でて野菜を入れてマヨネーズを、あっマヨネーズがない。
コロッケ、醤油で味付けして、あっ醤油……あるのかな?
肉じゃが、これも醤油…。肉巻き…、あれ、これも醤油……。もしかして、何にも作れない?
よくラノベの異世界転生話で、色々な料理や石鹸とか化粧水とか作って、領地の発展とか孤児院経営とかしてるよね。でも私、何かできる?
マヨネーズ、作ったことない…。醤油、作れるわけもわない……。
ホットケーキとか、ホットケーキミックスしか使ったことない…。ホットケーキミックスの作り方、わかるわけない……。
唐揚げ、味付けに醤油いるし…。石鹸、自分で作ったことないよ…。
化粧水、手作りなんてしたこともない……。せっかくオリーブの木があるのに。
「ふぇ…」
私、役立たず……。
前世の記憶があるのに、ラノベみたいにできない。なんで……。
私、とんだポンコツだ……。なんでラノベみたいに自分が役にたてるって思ってたんだろう。領地の復興に役立てるかも、 なんて……。
「ふぇぇぇ……」
「お嬢様、どうなさった」
「お嬢様!」
シィリンゴとキャメリアが、びっくりしてこちらを見てる。うん、わかってるんだけどね、役に立たないって悲しい気持ちになったら、この身体につられちゃって。
ごめんね、二人は何も悪くないよ。でも、我慢できないんだ。泣いちゃう、泣いちゃうよ。
「うっ…、うっ…、わぁーーーん」
畑の真ん中で本格的に泣き始めた私を抱き上げて、キャメリアはお屋敷に戻りました。
「まぁ、どうしたの」
お母様はびっくりして駆け寄って来ました。さぁいらっしゃい、と私を抱き上げます。そしてゆらゆらと私を揺らしながら、抱き締めてくれました。
「悲しいことがあったの」
ふぇぇ、と泣きながら首をふります。
違うよ、ただ自分がポンコツだと思っただけだよ。
「ぐぅな、ふぇ、ぽんこちゅ」
「まぁまぁ、私の可愛いグルナがポンコツだなんて。どうしてそんなことを思ったの。グルナはすごいのよ、物を大切にできて、優しくて賢くて、ドレス作りだってお手伝いできるわ。お母様の何より大切な、可愛いグルナよ。」
いいこ、いいこ、と言いながら、お母様は私が泣きつかれて眠るまで、優しく抱き締めてあやしてくれました。
ごめんねお母様、心配かけて。明日はいつも通り元気なグルナに戻るから、今だけ泣かせてね……。
********
一口メモ
エスペラント語→日本語
ベトゥーロ→白樺
アガト→めのう
シィリンゴ→ライラック
ニーガ→黒
フランス語→日本語
スリジエ→桜
キャメリア→椿
次回投稿は一日遅れて28日か29日が目標です。
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