第3話 4月28日
「ミノリちゃんは平成が終わるってどう思う?」
凛さんはニコニコ笑いながら問いかけてきた。今質問してるのは私なんだけど、どうやらまだ答えてはくれないみたいだ。
「どうって……。特に何も。新しい元号になるんだなぁってだけで、平成が終わることへの寂しさとかセンチメンタルはあんまり感じないです」
「だよねぇ。私もそうなんだ」
凛さんはそこで言葉を途切れさせた。え、終わり?物足りない顔をしたのがバレたらしく、凛さんはニヤッと笑った。
「世間は平成を名残惜しがってるのに私だけイマイチ乗り切れてなくてしんどいなって思ったの。平成が終わると同時に、なにか自分に明確に関わるものが終わったら、すごく悲しくなれるでしょ?……あ、理解してないって顔してる。まぁ、なんとなくだよ。なんとなく」
「うーん……わかんないけど、わかりました。凛さんはセンチメンタルに浸りたいんですか?」
「そういうこと」
うーん、わからん。このひと変だな。
「凛さん、例えば私たちがすごく仲良くなったとして」
ちょっと考え込んでいた私が喋り出したので、凛さんは身を乗り出して私の話を聞いた。
「だとしても関係は終わりですか?」
「終わりです」
なんと無慈悲な。
「平成が終わっても友達ってそれただの友達じゃない?そもそも私たちがこうして出会うことはイレギュラーなことだし、別に多分大丈夫よ。私もあなたもお互いがいなくても生きていける」
「悲しいこと言うんですね…」
会話が途切れた時、見計らったかのように店員がコーヒーのお替りとカフェオレを運んできた。私と凛さんは軽くお辞儀をしてそれを受け取った。
「ところで凛さん、なんでボーイフレンドとかじゃないんですか?」
「え?」
「いや、なんというか。そういうのって平成だけの恋人とか、なんか、そっちのほうがロマンチックっていうか。よくありそうじゃないですか?」
「それはそうだけど、陳腐じゃない?二度と会えない恋人よりも、二度と会えない友人のほうが素敵だし、より悲劇的だと思うの」
分かるような分からないような。とにかく、凛さんは悲劇とロマンスと、それから人と違うことを愛する女性らしい。
「それで、ミノリちゃんはこの話受けてくれるの?」
「それはもちろんですよ」
断る理由はなかった。ちょうど面白いことがしたかったし、この人に付き合ってみるのもいいかもしれないと思った。凛さんは満足げな表情をしてコーヒーに口をつけた。
「それじゃ、明日の29日はお昼を一緒に食べて、放課後どこかに遊びに行きましょう」
「もちろんです。なにせ、私たちは親友ですからね」
おどけて言う私の腕を凛さんは軽く叩いてクスクスと笑った。
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