どうも勇者と魔王の兄です。~クラスメイトの女子二人が勇者と魔王の生まれ変わりで、俺を好きすぎる~

やなぎもち

Lv.1 スライムるーぷ

001 エッチなスライムは好きです。


「好きだよん。君のことを食べちゃいたいぐらいにね」

「……ありがとう、でも食べられるのは困るな。もう少し生きていたい」

「だって君からは、おいしそうな匂いがするんだもん。もう我慢できないよ、あーん」

「うわー、助けてぇーーーー」

「パクッ。もぐもぐもぐ、うー、おいひー!」


 そう言って諏訪すわは口に入れたグミを嬉しそうに咀嚼そしゃくする。

 彼女のショートボブが楽しそうに弾む。ついでに発育の良い胸も。

 グミは黄色の星型。おそらくレモン味だろう。

 突然、諏訪がグミに話しかけたので、ノリでグミの気持ちを俺が代弁していた。

 ここは放課後の教室。俺と諏訪しか今はいない。つまり二人きりだ。


「で、この手紙は、何なんだ?」


 俺は一枚の紙を取り出す。紙には『放課後、教室で』と書かれている。

 丸みを帯びた女子っぽい手書きの文字だ。

 手紙にしたがって俺は放課後の教室に残った。

 クラスメイト達が帰って、最後に残ったのが俺と諏訪。

 つまり手紙を書いたのは、必然的に諏訪ということになる。


「うわっ! すごい! あたしが書いたってヨク分かったね!

 上野うえのちゃんって、もしかして名探偵だったりするのん?」

「教室には、俺達しか残ってないだろう。

 俺が選べる選択肢は、諏訪しかないんだよ。

 まあ、書いた奴がここにはいないって可能性もあったけど」


 俺がそういうと諏訪は、教室をキョロキョロと見回した。


「ホントだ! あたし達しか残ってない!」

「反応を見る限り、この手紙を書いたのは諏訪で間違いないんだよな?」

「うん! 大正解! 賞品として、このグミをプレゼントしまーす!」


 そう言って諏訪は、緑の丸いグミを手に取る。

 おそらくメロン味のグミ。


「はい、あーんして。はい、あーん」

「……あーん」


 俺は諏訪に催促されて、口を大きく開ける。

 口の中にメロンの風味が広がった。


「指、舐められちゃった。えへへ」

「あ、わりぃ。唾液が付いちゃったな。ティッシュかなんかで拭いてくれ」


 諏訪は俺の言葉を無視して、舐められた指をじーっと見つめている。

 そしてパクッと指を自分の口に入れた。


「おいっ、何してんだよ」

「ん? 上野ちゃんが、どんな味なのか気になっちゃって」

「味なんてしないだろ」

「ううん。とーっても甘いよん。メロンみたいな味がする」

「それは、メロン味のグミをその指で持っていたからだろ。

 俺にくれたグミがメロン味だったし」

「違うよ。ちゃんとメロンの味だもん! ほらっ、上野ちゃんも舐めてみてよ」


 そう言って諏訪は唾液の付いた指を俺に差し出す。

 その指に付いていた俺の唾液は舐めとられ、代わりに諏訪の唾液に置き換わっている。

 相手の唾液を舐めて味を確認する。どんなシチュエーションだっつーの。

 恋人同士でもかなりハードルの高いプレイなのは間違いない。

 ちなみに、俺と諏訪はただのクラスメイトだ。

 決して、恋人ではない。

 まあ、諏訪は可愛いし、恋人になってくれるなら素直に嬉しいが。


「いや、確認をしなくても分かる。

 俺の口の中には、いつも味のしない唾液が溢れてるから。

 それに、その指にはもう俺の唾液はついてないだろ?」

「そっか! 自分で自分の味は分からないんだ!

 じゃあ、あたしの味を確認してみてよん。何味なのかな?」

「…………」


 俺は差し出された指を前に固まる。

 生唾を飲み込むと同時、口内にあったグミも飲み込んでしまう。

 さてどうしたものか。

 目の前には、期待のまなざしを向ける諏訪がいる。

 断ったら、なんか可哀想というか、傷つけてしまうような気がする。

 それに美少女の唾液を舐められるなんて、ご褒美だろ! と一部の特殊な界隈から罵倒される可能性もある。

 ここは覚悟を決めるしかない。

 俺は差し出された諏訪の指を咥えて、舐めまわした。


「あはは、くすぐったいよ上野ちゃん。……それで何味かな?」

「……うーん、うっすらとレモン味だ」

「そっか、あたしはレモン味なんだ」


 なんだか諏訪は嬉しそうにしている。

 ちなみになぜレモン味なのかというと、ちょっと前に諏訪がレモン味のグミを食べていたからだ。

 顔が熱い。

 自分がやったことが、後から恥ずかしくなってきた。

 とりあえず、話を進めよう。


「最近、校舎内で生徒が行方不明になってるみたいだし。

 あんまり遅くまでいると、俺たちも先生に怒られる」

「それは怖いねー。神隠しって奴だねん」

「そ、俺達も神隠しに合わない内に帰ろう」


 俺はどこの部活にも入っていない。いわゆる帰宅部だ。

 諏訪もおそらく俺と同じ。

 部活をやっている姿が思い浮かばない。教室でもずっと寝てるし。

 もし入っていたとしても文化系だろう。


「……ねえ、上野ちゃんは、今好きな人いるのかな?」

「いや、特には……」

「あたしは、いるよ」


 諏訪が俺の目を正面から見つめてくる。

 なんだか目がキラキラしているような。

 あんまり長い間見つめあうのは、照れくさいので俺は視線を外した。


 ──ぴちゃ。


 どこからか水の垂れる音が聞こえた。

 雨漏りでもしてるのかと思ったが、昨日も今日も雨は降っていない。

 ……気のせいか。


「ほう、それは青春だな。俺に告白を手伝って欲しいのか?」

「うん、手を出して」


 俺は言われるままに手を出す。

 諏訪は俺の手を両手で掴み、顔を近づけ匂いを嗅ぐ。


「くんくん。やっぱり、良い匂いがする、とーってもあまい匂い」

「そ、そうか。別に香水とか付けてないぞ」

「前から思ってたんだけど、上野ちゃんって良い匂いするよね。 

 結城ゆうきちゃんと同じ、あまい匂い」


 結城ちゃんとは、同じクラスの結城紗瑠ゆうきしゃるのことだ。

 俺は男で、結城は女だ。

 俺と結城が同じ匂いというのは、どうにもピンと来ない。


 ──ぴちゃ。


 まただ。また水の滴る音。

 ふと視線を諏訪の足元に向けた。

 そこには水溜りが出来ていた。

 一瞬、諏訪が漏らしているのかと思ったが、そうではない。

 なぜなら、滴っている水が〝青色〟だからだ。

 オムツのCMでは、おしっこを青い液体で代用するが、人間が青いおしっこをするわけではない。


「好きだよん。君のことを食べちゃいたいぐらいにね」

「……ありがとう、でも食べられるのは困るな。もう少し生きていたい」


 これは告白なのだろうか?

 とりあえず、ちょっと前にした茶番と同じセリフを言う。

 だが、諏訪の様子が明らかにおかしい。

 目の焦点があっていないぐらいに、とろけている。

 口からは真っ青の唾液をドバドバと垂れ流してる。

 さらに顔がグニョグニョとまるで、ゼリーのように歪み出している。


「だって君からは、おいしそうな匂いがするんだもん。もう我慢できないよ、あーん」

「うわー、助けてぇーーーー」


 諏訪の手は真っ青な液体に塗れている。

 捕まれた俺は、振り切ることが出来ない。ベトベトして引っ付いてくる。

 諏訪の開いた口が、どこまでも大きく開いていく。

 顎は外れて、白い歯は青い粘液に変わる。

 綺麗な髪も、目も、鼻も、耳も、着ていた制服を残してすべてが青になる。

 もう人間ではない。

 粘液で出来た化け物。


 ──スライム。


 俺は、青いスライムに飲み込まれる。

 全身を包み込まれて呼吸が出来なくなり、意識がだんだんと遠のいていく。

 最近、校舎で生徒が行方不明になっているのって、もしかしてこれのことか。


 消え行く意識の中で、謎が判明して少し嬉しかった。

 誰かに、このことを伝えて、お前すげーなって言われたいが。

 どうにも叶いそうにない。もうすぐ俺は溶かされて、この世から消える。

 まあ、言ったところで、スライムが生徒を喰ってました。なんて誰も信じないだろう。

 ここは現実。ファンタジー世界ではないのだから。


 ──ああ、温かい。

 諏訪はスライムになってしまったが、スライムの中は人肌の温かさだ。

 まるで誰かに抱かれているようだ。安心感すらある。


 もうすぐ俺は逝く。そして昇天する。

 本来の意味ではなく、別の意味の方が嬉しいのだが仕方が無い。

 諦めて天国に逝こう。


 そう覚悟した時だった。

 誰かが教室に、勢い良く入ってきた。

 キュ! という床をゴムがこする音が聞こえた。


「はああああぁぁぁぁ!」


 女の叫び声と、同時に光が放たれた。

 俺を包んでいた温かいスライムが消えて、床に投げ出された。

 顔を上げると、そこには結城ゆうきが立っていた。

 手には光の剣を持っている。


 人間に戻った裸の諏訪から、光の玉が抜け出す。

 それを結城が光の剣で切り裂いた。

 俺はその光景を美しいと思った。

 まるで、絵画のワンシーンのような神々しさを感じた。

 だが、ひとまず御礼を言っておこう。


「……あ、ありがとう。助かったよ」

「あれ、もしかして記憶があるの? まいったなー」


 結城は顔を手を当てて、天を仰ぐ。

 いつの間にか手に持っていた光の剣が姿を消している。


「ま、いっか。とりあえず場所を変えるわよ。ついて来て」

「こいつらは、ほっといて良いのか?」


 俺は意識を失って倒れている諏訪達を見る。

 諏訪と二人の男女がいる。諏訪は裸だが、二人は制服を着ている。

 おそらく諏訪スライムに喰われた生徒だろう。

 消化はされずにスライムの一部になっていた。

 とりえず息はしているようなので、大丈夫そうだが。


「ちょっと上野! あんまり女の子の裸をみるんじゃないわよ。

 諏訪さんの胸が大きいからって、股間を大きくしないでよね」

「は? お前こそ、俺の股間をみてんじゃねーよ」

「そっちこそ、私の胸をジロジロ見てるじゃない」

「あ、それは胸だったのか。背中だと思ってたよ」

「……ひどい。気にしてるのに」


 威勢の良かった結城が突然、しおれる。

 少し言い過ぎた。助けてもらったのに。

 とりあえず謝ろう。


「すまん。貧乳も好きだぞ、俺は」

「そう、ありがとう。ってあんたに好かれても嬉しくないんだからね!」


 少しだけ顔を赤らめて嬉しそうにする結城。

 俺はスライムに食われていた生徒達をもう一度みる。

 なるべく諏訪に焦点を合わせないように。

 女の方は知らないが、男の方は見覚えがあった。

 たしか同じクラスの安藤あんどうだ。

 そういえば二、三日顔を見てなかった。


「それじゃ行くか、結城」

「え? 良いの? なにか気がかりがあったんじゃないの?」

「ああ、諏訪が裸だから、目を覚ました男子生徒に襲われるかもと思ったんだが大丈夫そうだ」

「そうなの?」

「同じクラスの安藤だったからな」

「安藤くんだと良いの?」

「安藤は熟女好きだから」

「そう、熟女好きなの。なら大丈夫ね。でも、このままだとちょっと可哀想かも」


 そう言って結城は落ちていた制服を拾って、諏訪にそっと掛けた。

 動けはすぐに落ちてしまうだろうが、丸出しよりは多少マシだ。


「それじゃ、三人が目を覚ます前に行きましょ」

「ああ」


 俺は最後にもう一度、諏訪に目をやる。

 それにしてもデカイ。俺はメロン味のグミを思い出す。

 制服を掛けれらて見えないが、ナイスな横乳だ。

 俺と結城は、颯爽と教室を出て行った。

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