第14話 女神、村娘の素質に歓喜する

 作り笑いをするのに疲れたローラの目元は、次第に吊り上がり気味にピクピクと痙攣けいれんしそうだった。


「ローラ、休憩するかい?」


 うんざりし始めたローラの顔色に気が付いたダリルが声を掛ける。


「お父様、大丈夫ですわ」

「そうか、次から村の人たちになるから気楽にしていいぞ」


 ダリルも貴族相手に疲れた様子でいた。それでも、貴族の順番が終わり、村人たちの順番となることで少し表情が晴れていく。


「貴族も平民も関係ないですわ。才能ある子を見つけなければならないの」

「そうか、でもあまり無理をしないでくれよ。疲れたらいつでも休憩していいからな」

「はい、お父様。ありがとうございます」


 ――そのときがついに来た。


「お初にお目にかかります、ローラ様。私は、カールと申します。ここテレサ村でパン屋を営んでおります。こちらが娘のミリアで御座います」

「ミリアです。ローラ様、この度はおめでとうございます」


(おーなんじゃこりゃ! メロンか? スイカか? 将来はきっとそうなるのかしらね。年のころは、同じような感じだけど、この差はいったい何かしら?)


 思わず自分の胸に手を当てて確かめてしまう。


 すると、ダリルがいぶかしむ。


「ローラ?」


(ん? はいはいはい、ごめんなさい。現実逃避してました――)


 慌ててローラは、視線を上にあげる。


 ローラの眼前に居るミリアは、主張する双丘の他に、少し尖った耳をしている。神眼によると、ハーフエルフのようだった。ウッドエルフには金髪が多いのだが、父親のカールに似たのか一般的な帝国人と同じ栗色の髪で、それを腰の辺りまで伸ばしている。


「ミリア、ありがとう。それでどうかしら、わたくしの騎士団に入ってくれるかしら」

「えっ、宜しいのですか!」


 ローラの唐突な誘いに、森を思わせる深い緑色の瞳を驚いたように見開き、嬉しそうに身体の前で手の平を合わせて指を組んだ。ミリアは、騎士団に誘われるとは思っていなかったような反応だ。


 それも当然である。


 今まで挨拶を済ませた貴族の子息、息女に対して本当に挨拶程度で、騎士団に誘う素振りすら見せなかった。周りも挨拶が一通り終わってから、その話になるのかと勘違いしているに違いない。


「ほーう、この子がそうなのか?」

「はい、お父様。やっと見つけました」


 ローラは、ミリアの潜在能力の高さに歓喜し、満面の笑みである。


 【名前】ミリア

 【年齢】七歳

 【種族】エルフ族(混血種:ウッドエルフ系ヒューマン)

 【魔力】F ⇒ (A めちゃくちゃ多い)

 【耐久】G ⇒ (A めちゃくちゃ強い)


「もし、魔獣と戦うのに抵抗が無ければですわ。のちほどゆっくりと話をしましょう」

「はいっ」


 花を咲かせたような笑顔で答えたミリアは、不自然なリズムを刻んだ足取りで会場の隅の方へと戻っていく。スキップしたいのを我慢しようとしてし切れなかったようだ。


 ミリアのあとは、立て続けにローラが満足できる潜在能力を有した子供たちに巡り合えた。道具屋の娘であるティビーと、鍛冶屋の娘であるユリアに騎士団加入の依頼をすることにした。


 【名前】ティビー

 【年齢】七歳

 【種族】ヒューマン

 【体力】F ⇒ (B ふつうに多い)

 【魔力】F ⇒ (A めちゃくちゃ多い)

 【耐久】G ⇒ (B ふつうに強い)


 ティビーは、潜在能力Aランクが一つだけだが、潜在能力Bランクが二つある。


(腕力もCだから、騎士としてもやっていけるけど、魔法士としてやっていった方が良いかしらね)


 今後の育成計画が楽しみになり、ローラがほくそ笑む。


 【名前】ユリア

 【年齢】七歳

 【種族】ヒューマン

 【体力】F ⇒ (A めちゃくちゃ多い)

 【腕力】E ⇒ (A めちゃくちゃ強い)

 【耐久】G ⇒ (B ふつうに強い)


 ユリアは、なんと潜在能力Aランクが二つあり、Bランクも一つある。


(体力と腕力が高いから完全に前衛職向きね。本当は、身体強化の魔法と合わせて鍛えたいところだけれど、魔力の量が少ないのが残念だわ)


 戦士タイプのステータスに少し残念に思ったが、やりようはある。


(足りない部分は、魔力操作を訓練して補うしかないかしら)


 ユリアもまた、ローラを十二分に満足させる素質の高さだった。


 それ以降、その三人ほど優秀な子供が現れることはなかった。


「お父様、もういいですわ」


 一通り全員と顔を合わせ、言葉を交わし、最低限の対応は済ませた。貴族の子供たちは、ミリアたちが騎士団に誘われたことを知り、リベンジするように何度もローラの元を訪れていたのだ。一瞬、ラインを下げようかとも考えたローラだったが、結局それはしなかった。


 下心が見え見えなのよ! と、つまりはそういうことだ。


「思ったより少ないが、いいのかい?」


 ダリルの問いに、ローラがうんざりしたように首を左右に振った。


「思ったよりポンコツばかりだったわね」

「なに?」

「いいえ、何でもないです、お父様」


(いっけねー、つい本音が漏れちゃった。べつに聞かれても構わないけど、できるだけ可愛くて清楚な娘を演じないとっ)


 散々やらかしておきながら、ローラは子供らしさを演じきれていると思い込んでいる。ふつうであれば、そんなものを通らない。ただ単に、ダリルがポンコツなだけだった。


「それにしても、ジェラルド卿は残念だったな」

「はい、でも仕方のないことですわ」


 ミリアたち三人以外に、潜在能力Aランクの子供たちがいなかったため、熊獣人のベルマン伯爵の息子であるジェラルドに再び声を掛けた。が、テレサに引っ越して来てもらう訳にもいかず、今回は断られてしまったのだ。


 他のへっぽこたちと同様に、ガイスト辺境伯の息子であるガストーネが執拗に入団を希望してきた。


 当然、丁重にお断りさせてもらった。


 やはり、持つべきものは親バカである。入団の目的が、明らかにローラであったことから、ダリルもガストーネの参加を認めなかったのであった。

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