第06話 女神、色々忘れて訓練に勤しむ
ローラはラルフの言葉にドキッとした。
それもそのはずで、ローラは自分のステータスに納得がいっていない。
【名前】ローラ・フォン・フォックスマン。
【種族】ヒューマン(堕ちた女神)
【体力】 G(めちゃくちゃ少ない)
【魔力】 G(めちゃくちゃ少ない)
【腕力】 G(めちゃくちゃ弱い)
【耐久】 G(めちゃくちゃ弱い)
【身体操作】G(めちゃくちゃ下手)
【魔力操作】S(神)
【スキル】 神眼。
【ギフト】 未開放。
『転生したから種族がヒューマンなのは、わかるけどさー。いやっ、わたしとしては、憑依のつもりだからそれも納得いかないけど……てか! カッコ書きの、「堕ちた女神」ってなによ! せめて、元女神とかでしょうが!』
ステータスを確認したときに人知れず、そんな突っ込みを入れていた。
ただそれも、マイペースなローラは、
『まあ、さっさと神に戻ればいいのよね』
と数年が経過したことでそれをすっかり気にしなくなっていた。が、神界からの連絡がないことと結び付けて嫌なことを思い出していた。
冥王ディース――それは、遡ること約九〇〇年。
ローラが降り立ったファンタズムという世界は、そもそも六柱の神々によって管理されていた。その中の一柱である、「向上と堕落の神ディース」が、邪神へと
(いえ、まだよ! わたしは、邪神なんかじゃない……わよ? そ、それに土地神だっているんだから人界にいるだけじゃ問題にならないはず……)
ブルブルっと顔を左右に振りローラは必死に否定する。ローラが挙動不審になっていると、ラルフがいつの間にか復活しており、次なる訓練の説明を始めていた。
「それでは、どれくらいの力で飛べばどれくらいの距離を飛べるか、今度は目を瞑って繰り返してみてください」
(そ、そうよね。わたしは、愛と戦の女神ローラよ! 争いを無くそうとしてるんだから、わたしは!)
ローラは人知れず言い訳をし、ラルフの指示通り、意欲的に訓練に励むことにした。
跳躍を三〇分ほど繰り返していると、大体思い通りの距離を飛べるようになってきた。その間も、ダリルは片時もローラの傍を離れず、
「いいぞっ、さすがだっ」
などと、一々煩かった。
(あんた、仮にもテレサ村の領主なんだから民のために働きなさいよ)
ローラの訓練を行う条件がダリルの立ち合いなのだから仕方がない。ローラは、それを理解しつつ、納得はしていない。そんなダリルを横目で見て嘆息したローラは、それ以降、身体操作の訓練を黙々と続ける。
そのころになると、いつの間にかモーラとテイラーも修練場に来ており、ラルフと剣の型稽古をしていた。そんな二人の指導をしていたラルフが、ローラの様子を確認しに戻って来る。
相当集中していたようだ。ラルフに声を掛けられるまで、ローラは気が付かなかった。
「ローラ様、それ位で良いでしょう。感覚的にはいかがですか?」
「あっ、うん、おもったとおりのばしょにとべるようになったわ」
ローラが自信満々に答える。
(ふふ、最初はてこずったけど、要は魔力操作と同じじゃない)
既にコツを掴んだローラは、ドヤ顔だった。
ローラの様子に口元を
「さすがで御座います。それでは次の段階に移りましょう」
「はい!」
「良い返事です。それでは、この修練場を疲れない程度の速度で一周してください。それからダリル様――」
声を掛けられると思っていなかったのか、
「おお、なんだ?」
とダリルは、ビクッとなった。いや、居眠りをしていた。あれだけローラのことが心配だと言っておきながらも、睡魔には勝てなかったようだ。訓練開始の時間が早すぎた――という訳ではない。今日のために一睡もせず、徹夜で政務を行ったせいなのである。
が、
(なによ! 徹夜までして居眠りするくらいなら、立ち合いするなんて言い出さなければいいのに、本当にバカね……これでわたしが見直すとか考えていたら大間違いよ!)
ローラは、事情を知っていたが、冷めた視線を向ける。
過保護かもしれないが、本当に良い父親なのだが――
――バカ親の毛があるところが、ローラは気に食わなかったのである。
「申し訳ございません。懐中時計でローラ様が一周するのにかかる時間を計ってください」
ラルフも、当然、事情を知っているようで、申し訳なさそうにお願いしてる。
「ん? 時間だな。わかった」
ここまでの説明でラルフの意図を理解できなかったローラは、既にダリルのことなど気にしていない。時間を計って何をするのかしら、と今はラルフを見上げている。
「それではローラ様。一周する時間をご自身の間隔で覚え、休憩のあとに同じ時間で一周できるように走ってみてください。先程の跳躍は瞬発力で、今度のは継続戦闘力の訓練になります」
「けいぞく、せんとうりょく?」
ラルフの説明を最後まで真剣に聞いたが、結局、意味がわからず、ローラが小首を傾げてその言葉を繰り返す。
「継続戦闘力とは、その言葉の通りで、どれくらいの力でどれだけ戦い続けられるかを計るものですね。これは基礎体力の向上と、ペース配分を学んでもらいます」
(ほへー、さっきの跳躍もそうだったけど、中々実践的な訓練じゃないの。初日だからあまり期待はしていなかったけど、ラルフは意外に指導能力が高そうだわ。うふふ、これなら魔王討伐も近いかしら)
この短時間の訓練で身体操作の向上をローラは自覚していた。確かに近付いているのは確かだった。だがしかし、近付いたと言っても一ミリ程度だろう。
つまり、魔王討伐は全然近くない。
転生してからこの五年間、ヒューマンの脆弱性を嫌というほど実感しているにも拘らず、性格はそう簡単に変わるものではない。ローラの適当な感覚は、相も変わらず健在だった。
そもそもローラは、戦女神とも呼ばれるほどにその分野が得意なはずだ。ステータスが低すぎることが影響しているかどうかは定かではない。
が、これだけは言える。
ヒューマンであるラルフからの指導に感心し、楽しくなってしまったローラの頭は、見た目通りの五歳児の幼女に過ぎなかったのである。
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