『ご安全に』

 の唱和を終えた作業員たちは、それぞれ作業に移ります。


 一人残された島太郎に 鮃太が手招きをします。


 鮃太の脇に社長。ふたりの前に進んだ島太郎に鮃太が言います。


「いくつか言いたいことがあるが、一度に言うとわけがわからなくなるから今は三つだけ言う。

 この三つをいつも心がけろ。


 まず、今日今から俺は あんちゃんのことを『島太郎』と呼び捨てにする。

 今まで島太郎は ここのお客さま扱いだった。

 でも今から、島太郎は凸凹水産の正式な従業員だ。

 さらに、もっとも下っ端の『走り回り』と呼ばれる雑用係になる。まあ、走り回りと言っても最初は走り回るどころではないがな。


 とにかく、一番下っ端だということは忘れるな!」


「そして、作業中は俺を『かしら』と呼んでくれ。

 船の上では俺は『漁労長ぎょろうちょう』という役に就く。船の上での作業の責任者だな。

 使い分けは面倒だが、寮では『寮長』 対外的には『副社長』だ。


 他の役職者や仲間は追い追い紹介する。


 もう一度言うぞ。

 島太郎はもっとも下っ端だ。

 自分のことは『わたし』と言っておけ。



「次に言いたいのは、ここにいる凸凹水産の従業員は仕事中は みんな仲間だ。友達じゃない──ということだ。


 仲間と友達。

 今は この違いが分からないだろうが、もしこの会社に何年かいるのなら いずれ『ああ、こういうことか』と分かる日がくる。


 漁に出たら分かるだろうが、海の上では命がけだ。

 実際 過去に何人か死んだり行方不明になっている仲間もいる。


 利害関係で繋がっているだけの友達じゃない。

 お互いの命や生活を守りあっている仲間だ。


 いずれ分かる。いずれ分かる時がくる……』



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