母親の死のショックで、島太郎は ふた月以上も学校に通うことができませんでした。



 島太郎は、時折 自分の腕時計に語りかけます。

 その腕時計は、母親の形見。

 島太郎が中学校に入学した時に、母親からプレゼントされたものです。


 そしてそれは、父親から 母親に、結婚の記念としてプレゼントされたものでもありました


「島太郎。この時計は、お父さんとお母さんの思い出の こもったものなの。

 お父さんは今は大きな会社をたくさん経営しているけど、お母さんと結婚した時は普通のサラリーマンだったの。

 お父さん 一生懸命働いて、この時計を買ってくれたのよ。 

 あなたも、結婚する時には この時計を相手の人にプレゼントするのよ」


 そう言って微笑ほほえみながら、島太郎の腕に時計をはめてくれたことを 思い出すのです。


 

「ねえ、ねえ母さん。俺、これから どうなっていくんだろう?  人間嫌いがひどくなる一方だよ。

 結婚なんて無理かもしれない。

 母さんごめんよ。この時計、贈れる人が見つからないかもしれないよ」



 ひとしきり腕時計に語りかけながら涙して、いつの間にか眠りにつくのです。




 そんなある夜のこと、島太郎の夢の中に母親が現れ優しくさとしてくれたのです。



「島太郎、安心しなさい。大丈夫ですよ。きっと心優しい、素敵なお相手に巡り会えますよ。それまでに、あなたの人間不信、人間嫌いを 少しずつでも治していきましょうね。

 あなたのまわりにいる人たちにも、あなたのことを わかってくれる人がいるはずです。勇気を出して、自分から人に話かけるのですよ」



 そう言うと夢の中の母親は、優しい笑みを残して消えていきました。



『……そうだ、明日から また 学校に行こう。仲間や友達をたくさん作ろう……』


 夢から醒めた島太郎は、意を決したのでした。




 

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