閑話SS 凛はたくさん応援がしたい

 ※多忙につき、リハビリのつもりで書きました。

 体育祭の前日談になります。



 ◇◇◇



 いつも通りに過ごす家での時間。

 俺は日課となっている勉強をしていた。


 体育祭に向けた特訓があってもこの日課は崩していない。

 まぁ、崩すも何も家に帰ると流れるように机で勉強をする……それが当たり前のようになっていた。


 まぁ、習慣化の賜物だろう。

 当たり前となれば、最早呼吸と同じ。


 ――と言うのは、単なるかっこつけ。

 実際は、凛の徹底した管理による強制力のお陰でしかない。

 そういうのがなければ、俺みたいにだらしなくて流されやすい人間がここまで習慣化することはないだろう。

 普通だったら三日坊主もいい所である。


 だから、本当に有難い話なんだよね。

 今の生活は……。


 そんなことを考えながらペンを走らせていると、夕飯の支度を終えた凛が布やうちわなどをとり出して、何かを作り始めた。


 ……何を作ってるんだ?

 鼻歌まじりに上機嫌——そんな姿を見せられたらどうしても気になってしまう。

 俺の勉強に対する集中力は、一瞬にして途切れてしまった。



「えーっと……凛は何を作ってるんだ?」


「あ、ごめんなさい。勉強の邪魔になってしまいましたね」


「いや、まぁ……ちょうどひと息いれようかなと思ってたからいいよ。それで何を――」



 俺は凛の手元に視線を移す。

 すると、見たくないものが目に飛び込んできた。


 体育祭ってイベントごとだからまさかとは思っていたけど……。

 顔が自然と引き攣り『ハハハ……』と渇いた笑いが口から漏れ出た。


 そんな俺を凛は不思議そうな顔をして見つめてくる。



「何って、見ての通りですが……。そんな引きつった表情をして、何かおかしなことありますか?」


「いや、おかしい所しかないんだけど。何を大量に作ってるんだ?


「翔和くんを応援するための道具です」


「道具……? “翔和”って書いてあるそれか?」


「ふふっ。よくぞ聞いてくれました」



 凛はそう言うと既に出来上がっていた『応援するための道具』を俺に見せつけるように突き出してきた。

 その顔はなんだか得意気で、やや興奮気味である。


 ってか、顔が近い……。



「これは翔和くんのうちわですっ! わかりやすくアピール出来るように用意しました~。“私の推し!”と書かれているのがポイントですね」


「書かれてるだけじゃなくて、写真まで貼ってあるけどな」


「いいですよね~」


「そっか……んで、それは?」


「これは翔和くんのカッコイイ場面で使う予定の“はぁ~(語彙力)”うちわです。他にも色々と用意しましたよ。“こっち向いて!”とかも勿論ありますから、ご安心ください」


「なるほど。それは安心だ」



 俺はこくこくと納得したように頷く。

 にこにこと笑う凛をしり目に俺は大きく息を吸い、ゆっくりと吐いた。


 さて――



「なんだよこれっ!?!?」


「んにゃっ!?」



 俺のツッコミに驚いた凛が猫みたいな悲鳴を上げる。

 それから不服を訴えるような視線を向けてきた。



「アイドルのコンサートじゃないんだから、そんなのを持って体育祭に参加したら目立ち過ぎるだろ!」


「応援は気づいて欲しいですからね。全力アピールは当然のことですっ」


「いらんわッ!! ってか、そんなことをしなくても気づくって。それに凛がそんな応援したら軽くどころか、かなり騒ぎになる……」


「私は気にしません」


「いやいや、少しぐらい気にしようよ」


「やっ」


「そんな駄々っ子みたいな態度をとるなよ」



 頬を膨らまし上目遣いで俺を見る。

 無駄に可愛いな、おい。

 最近は自分の可愛さを武器にし始めてるから、精神的に刺さることが多いんだよ。


 俺は嘆息し、誤魔化すために咳払いをする。

 それから頭を掻きながら口を開いた。



「ってか、学校に不要物を持ち込んだら先生に没収されるんじゃないか?」


「あ……」


「その顔、今頃気づいたのか優等生……」



 俺の指摘に「しまった」という表情で凛は固まってしまった。

 凛は、夢中になり過ぎるとすぐに周りが見えなくなるからなぁ~。

 ちゃんと見ておかないと危ないよな、ほんと。



「ま、とりあえず気づいてくれてよかったよ。作ってくれた気持ちだけは嬉しいからさ。だから、今回は使うことを諦めて—―」


「甘いですね翔和くん」


「は? 甘い??」


「そうです。私はもとより壁が大きいほど燃えるタイプなんですよ。なので、『無理』や『諦めろ』と言われたら意地でも引きたくなくなります」


「えー……」


「ふっふっふ~。翔和くんは私を見くびっていますね。だてに猪突猛進と言われてないですよ。壁があるなら強行突破で突き破るのみですッ!!」


「胸を張って言うことかそれ」



 凛は自己主張の強い胸を張り、ドヤ顔でこちらを見てくる。

 何故、そこまで勝ち誇っているかわからないが……。


 まぁ暴走し過ぎてトラブルになるのも不味いし、釘を刺しとくぐらいしておこう。



「凛が一生懸命なのはいいけど、周りが見えなくなるのは気をつけろよ? 出る杭は打たれるって言うしなぁ。ただでさえ、凛は目立つんだから反感を買っても知らないぞ」


「大丈夫です。だって—―」


「だって?」


「いくら反感を買ったって、一緒にいて欲しいただ一人が私の味方ですから」



 凛はそう言うと、俺の腕にぎゅっと抱き着き「えへへ~」と可愛らしい声をあげた。

 頬を掻き、俺はぶっきら棒に「…………反感を買わないところを考えろよな」とだけ呟く。



「ともあれ、先生を説得する必要はありますね。翔和くんの横断幕をお蔵入りにするわけにはいきませんから……。ふふっ。燃えてきました。負けられない戦いは体育祭前から始まっているということなんですねッ!!!」


「はぁ……ったく。ほどほどにな」



 やる気満々な様子の凛を見て、俺は思わず苦笑した。


 我が強くて押しが強くて、何事にも一生懸命な彼女。

 少々——いや、かなり強引なところがあるけど……でも、その強引さに救われたのも事実。


 そう思うと、一生懸命に応援の道具を作る凛の姿に自然と笑みが零れたのだった。



 でもな、凛。

 流石に『翔和くんLOVE』は恥ずかし過ぎて死ぬからやめてくれ……ッ!!!

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