第11話 どっちを応援しますか?
「翔和くんはクラス同士が対戦することになった時、クラスと私どっちを応援しますか?」
いつも通り昼食を四人でとっていたら、凛が突然そんなことを聞いてきた。
何故、こんな質問が飛んできたのかいまいちわからないが……。
あれかな?
『私と仕事、どっちが大事なの!?』的な質問か??
まぁ、でもこんな質問に対する回答は決まっていて――
「凛を応援するけど」
俺は迷うことなく、そう即答した。
その言葉に、俺以外が何故か苦笑する。
「翔和~? 俺としてはそういう発言が素直に出るのは嬉しいけどよー。考え方が安易だぜぇ」
「……常盤木君の姿勢は好感が持てる。私は、支持するけど?」
「いやいや、ダメだって。つーか、琴音は情に弱いなぁ~。ま、琴音が俺を応援するのは構わないだろうけど、翔和は気を付けた方がいいかもなぁ~」
「えっと。ダメって、応援ぐらいは自由じゃないか? 誰が何しようが勝手だと思うんだけど」
「ふふっ。翔和くんの気持ちは嬉しいですが、それはダメですよ? 自由であると同時に不自由でもあるんですから」
「……うん?」
俺は首を傾げ、思考を巡らせる。
……藤さんは俺の意見に賛成なのは、おそらく自分も健一を応援したいからだろう。
それは俺も同じ気持ちで可能であれば、凛を応援したいと思っていた。
だから藤さんがよくて、俺がダメな理由が分からない……。
凛と健一のことだから、きっと意味があるんだと思うけど。
「翔和くん、よく考えてみてください。スポーツ祭はクラスごとに盛り上がる行事ですよね?」
「確かに、すでに大いに盛り上がってるなぁ。健一が煽ってるし……」
「ははっ! それで士気が高まった方がいいからなぁ。やるからには何事も一番を目指したい気持ちでやってっからさ! 試合は始まる前から、始まってるんだぜぇ~」
「勝つために意識作りをしてるってことか」
「おう! そういうことだぜッ! だからこそ、翔和の行動は難しいんだけどな……」
「チームの意識作りの中……つまりは団体行動をする時に、違う行動をしていれば禍根を残す要因になりますからね」
「そういうこと……か」
理解したよ。
確かに、今の俺って悪い意味で目立っているからな……。
それは自分でもわかってる。
今までの悪い噂が消えていない中、勝手な行動をしていれば印象の悪さが加速するだろうから……それを二人は懸念しているんだろう。
藤さんが応援する分には、“彼氏を応援している美少女”ってだけだが、俺の場合は“リア神様の腰巾着で調子に乗ってる”としか思われない。
はぁぁ……学校生活って難しいな。
俺はため息をつき、肩を落とす。
健一が俺の肩をポンポンと叩き頷いてくる。
はぁ、同情が心に染みるんだけど……。
「ま、翔和はこういったことを含めて勉強だな!」
「気苦労が絶えないんだな……学生って」
「言い方がじじ臭いぞー。悲しい話ではあるが、人によるところではあるんだよなぁ~」
「そうですね……。私とF組ではないクラスとの対戦で、第三者である翔和くんが応援するの分には問題ないとは思いますけど」
「じゃあ、そうするかー」
「ただ、これも時と場合によりますが……」
「なんか、色々と難しいんだなぁ。クソゲー並みの縛りプレイをしている気分だよ」
「空気を読むってことは、生活をしてゆく上で必須なことですからね。特に、翔和くんは、今までのことがありますから余計にです」
「ははは……耳が痛い」
空気を読むか……。
何もせず、干渉しないのが空気を読むことって思ってたけど、そんな簡単なことじゃないんだなぁ。
自分の思った通りに行動するだけでは駄目って言うのが難しい。
出来れば、何も考えずに応援したかった……。
俺が凛を見ると、なんだか寂しそうな表情をしていた。
「うまくタイミングを見つけていくから……」
「無理しなくて大丈夫ですよ。翔和くんは、翔和くんがやらないといけないことを全うしてください」
「そう……だな。そうしないと今はダメだもんな……」
凛に言われ、俺は改めて自分の立場を自覚した。
信頼回復と、今後の為……それは絶対に必要なことだ。
「私は翔和くんの応援を受けているF組を見て……闘争心を掻き立ててパワーアップを図りますから」
「…………はい?」
「嫉妬の炎を燃やして『翔和くんに応援されてずるい! 私も同じクラスが良かった!!』という思いを力に……っ!!」
「言ってることがアレな感じだけど……なんか、いつも通りの凛で安心したよ」
俺は思わず苦笑した。
やっぱり、彼女のためにもいつか並んで笑えるようにも頑張らないとな。
改めて、そう思うよ。
「いやー、毎回思うけど。凛には勉強以外のことも教わってる気がするな」
「ふふっ。私に出来るのは、翔和くんの足りない部分を補うことだけですからね」
「俺も何かできればいいんだけど……」
「私は翔和くんの成長と変化が見れて嬉しいので十分ですよ?」
「じゃあ、しっかり吸収して頑張っていかないとなぁ~。師匠が不甲斐ないとか思われたら嫌だし」
「では翔和くんは師匠を敬わなくてはですね」
「いや、だからってそれは違くない? 師匠を撫でるとかおかしいだろ」
「私は撫でられるのが好きなので問題なしです!」
俺の肩に頭を乗せ、「えへへ」と可愛らしい声を出す。
チラリとそちらを見ると目が合い、微笑んできた。
そして、微かに聞こえるぐらい小さな声で囁いてくる。
「……表立っては応援できなくても、心では応援してくれると嬉しいです」
「ああ、勿論だよ」
俺がそう返事をすると、満足そうな表情をして体重を預けてきた。
「……健一。あの二人、私たちがいること忘れてない?」
「ははっ。完璧、二人だけの世界だよな~。まぁ、あの空気感は壊したくないし、放っておこうぜ。恋愛観察のテレビみてぇだし」
「……そうかも、でもずるい。後で私も……」
「若宮もそうだが、琴音もぶれねーな」
健一達から生温かい視線を感じつつ、俺は残りの時間を過ごすことになった。
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