第64話 なぜか、リア充達とプールに行くことになったんだが ①


 ——気の狂ったような暑さ。


 ジリジリと音が聞こえそうなぐらい、プールサイドから熱気が湯気のように沸いてきている。

 見ているだけで、こちらの血液が沸騰し蒸発してしまいそうだ。


 ……この天気、インドア派にはきついなぁ。


 燦々と降り注ぐ太陽の光に手をかざし目を細める。

 そして、すぐ近くでわいわい騒ぐ若者たちを見てため息をついた。


 いかにもエンジョイ勢って感じで、俺と雰囲気がまるで違う。

 まさに人生を謳歌している青春真っ盛りっていう連中だ。


 まぁ、俺の横にはそれよりも謳歌しているエンジョイ勢……いや、人生の勝ち組がいるわけだが……。



「翔和は色白で細っそりしてんな〜。羨ましいぜ!」


「どこが、羨ましいんだよ……。単純に男らしくねぇってことじゃないか……」



 健一は高身長に筋肉質。

 整った身体が男子の目から見ても素晴らしいと思える。

 頭の先から、足先まで残念に思えるところが何1つない。絵に描いたようなイケメンである。



「そうか? 筋肉質じゃなくて細身も好きって言う奴は結構いるぜ?」


「細身って言えば聞こえはいいが、俺の場合はただ単に細いってだけだからな? ひ弱って言ってもいいぐらいだ。だがら正直、需要はない……」


「俺的にはアリだ!」


「……あんまり嬉しくねー」



 そんな発言をするから、ホモだと勘違いされるじゃないのか?

 藤さんに後でしめられても知らないぞ……。



 つーか、


「……遅いなぁ。2人とも……」



 俺は女子更衣室の入口をぼんやりと眺める。

 さっきから他人は何人も出てくるが、凛と藤さんは中々出てこない。

 女子の着替えってこんなに掛かるのか?



「なぁ、健一。こんなことだったら、俺らもまだ更衣室にいた方が良かったんじゃないか? 速攻で着替えて、こんな炎天下の中で待ち続ける必要なんてないだろ……」


「甘いなぁ〜。氷菓子にハチミツを塗りたぐったぐらい甘いぜぇ〜」



 指を左右に振り「チッチッチ」と口で言う。

 ……なんだろう。

 この無性に腹が立つモーションは……。



「……どういうこと?」


「ま、考えてみろよ。ここはプール、そしてあんな感じの輩は、割と多くいるんだぜ?」



 健一が視線をさっきのエンジョイ勢に向け、俺に見るように促してきた。

 俺は促されるまま、そっちを見る。

 するとさっきの人たちが丁度、女性に声を掛けているところだった。



「……待ち合わせ?」


「アホかっ! よく見てみろって……、女の子の顔が微妙に引きつってるだろ?」


「あー、言われてみれば……。もしかして、ナンパ?」


「そーいうこと」


「いやー、よくやるね……あんなこと」



 自ら声を掛けて、断られて、自ら心を折る……。

 俺には到底出来そうにない。

 つか、俺が話し掛けたら「その顔でナンパ? いっぺん死んでみたら?」とか言われそうだ。



「つーわけで、俺らがやらなきゃいけないのは、どんなに女子が出るのが遅くても待ち続けて、嫌な思いをさせないことだ。イメージしにくいなら、琴音と若宮が更衣室から出てきた時、どうなるか想像してみろ」


「そうだな……」



 更衣室から出てくる美少女2人……。

 群がる男……周囲からの注目……。



「……軽く騒ぎになりそうだな」


「理解出来たようで」


「ああ……」


「だから、2人が出てきたらすぐに声を掛けるために目の前で待機してるってこと。せっかくのプールなのに、嫌な思いをさせたくないしな」


「さすがイケメン……」



 気遣いも完璧。

 見た目も完璧。

 健一からは見習うことしかない。


 2人が出てきた時に、健一が向かったら「あいつには敵わない」と周囲の男共も理解するだろう。


 これが“リア充ガード”か……。


 健一にスペックで勝てる奴じゃないと、声は掛けれないようなぁ。

 精々、羨望の眼差しを向けて、指を咥えて恨み言を言うぐらいだ。


 まぁ、俺じゃナンパ避けどころか“ナンパホイホイ”になりそうだけど……。

 勝てる要素しかないしね……。


 俺は横目で涼しい顔している健一を見る。

 健一は「そろそろか」と呟くと女子更衣室の出口付近に移動した。


 そこから出でくる女性たちは、健一を見ると顔を赤くし、少し立ち止まってしまう。

 中には「かっこいい……」と声を漏らして見惚れる奴もいた。



「……色目使わないで、健一」



 不服そうな声に反応するように、俺は視線を向けた。

 そこにいた藤は口を膨らませ、健一を責めるように見ている。


 藤の水着はワンピースタイプの物で、髪は可愛らしくお団子になっていた。



「そんなことねーって! 俺は、琴音しか興味ないからさ」


「……馬鹿」


「その水着、似合ってるな。新しいやつ?」


「……うん、そう。買ったの……」


「可愛いよ、琴音」


「……あり……がと……」



 そう言われた藤は耳を赤くし顔を伏せて、健一に近づく。

 そして、腕にくっつくように腕を絡ませた。


 ……俺は、何を見させられているんだろう?

 このラブラブっぷりに背中が痒くなる。


 俺と同じ気持ちなのか、さっきのエンジョイ勢もなんだか悔しそうだ。

 イケメンに美少女……完璧な構図だよな。

 あ、なんか1人は悔し泣きしてる……。

 わかるよ……その気持ち……ただ、無理なものは諦めなきゃ……。



「あの……翔和くん……」



 声が聞こえたと同時に手を握られる。

 2人を見ていてせいで、気がつかなかった。


 はっと振り返り、凛を見る。

 距離が近いせいで、視界に収まる部分がより強調されてしまった。


 水着姿は、お店で事前に見た。

 だから緊張することもないし、大丈夫だと思っていた。


 でも違う……。


 この前見た水着姿に、彼女の長いブロンドの髪をツインテールにし、それをくるりんぱとさせた髪型。

 そして、太陽の光が白い肌に降り注ぎ、反射したかのように眩しく見えてしまう。

 プールという特殊なステージが、水着の魅力をより際立たせていた。


 降臨された女神さま……破壊力、あり過ぎだろ……。


 その姿に周りの人を含め、俺も時を忘れたように見惚れてしまった。


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