第65話 なぜか、リア充達とプールに行くことになったんだが ②
「ぼーっとして、どうかしましたか? ……何かおかしな点でも……。あ、もしかして髪型ですか? 普段とは違うので違和感を感じますよね……」
「いや、それは全く感じないんだが……」
言えない。
見惚れてしまって言葉が出なかったなんて……。
不思議そうに小首傾げる凛からそっと目を逸らす。
「……そうですか? ですが、あの……」
「うん?」
「その……似合って……ますか?」
「ああ、えっと。そうだな。それは……ほら、周りの反応が物語ってるだろ」
「私は翔和くんに聞いてますよ?」
曇りがない澄んだ瞳が真っ直ぐに俺を見つめる。
それはまるで、何かを期待する犬のようにキラキラと輝いて見えた。
言葉に詰まる俺のすぐ近くで、健一と藤が成り行きを見守るように黙って佇んでいる。
俺が何かを言うのを待っているようだ。
「……似合ってるよ。普通に……痛っ!?」
「なんだその褒め方は! 嫌々言ってるみたいじゃねぇーか!! そこは普通『ダイヤモンドのように綺麗だね』とか言っとけ」
「それは……流石にどうかと思う……」
頭にチョップをくらい、頭を摩りながらイケメン野郎を睨む。
この馬鹿力……マジで痛いぞ……。
つか、俺に気の利いた言葉やキザな言葉を求めるなよ。
「なぁ〜、琴音もなんか言ってくれよー。この残念男に」
「……健一、見て。問題なさそう」
「うん?……あー、なるへそ」
「えへへ〜、『似合ってる』と言われちゃいましたぁ〜」
「……凛はポジティブシンキング。常盤木君の言葉なら問題ないみたい」
「恋する乙女はなんとやらって感じだな」
「……凛、可愛い」
頭を押さえてしゃがみ込む俺を無視するように会話をする2人。
色々と気になる会話は聞こえるが……。
……まぁとりあえず、問題なかったってことかな?
「さて、じゃあ行きますか! パラソルの場所は指定されてるし、早く荷物を置きに行こうぜ〜」
「……そうね。早く準備したいし」
俺は冷えたペットボトルを頭に当て立ち上がり、前を歩く健一について行こうとする。
すると途端、周囲からの視線が厳しくなったように感じた。
体感温度も心なしか下がった気もする。
あー、なるほど。
まぁ当たり前か……。
周囲の視線。
それは今まで何度も感じたことのある視線だ。
『何でお前がそこにいるの?』
『場違い甚だしいわ!』
『つり合わなくね?』
と言われているようである。
これはどこに行っても変わらない。
仕方ないことだ……。
単純に変えようがない事実だしな。
俺は内心諦めている。
だから、それは苦にもならないし、それを不快にも最早思うことはない。
ただ、それはあくまで俺だけだ。
巻き込まれた俺以外の人は不愉快に感じることだろう。
俺の周りにたまたまいたってだけで、その人物は奇異な目で見られ、火の粉が降りかかることになっしまう。
それは、俺にとっても不本意でしかない。
そいつが良い奴なのに関わった相手が俺のようなど底辺ってだけで、そいつの評価を下げてしまうことになるのは、単純に不快だ。
そして同時に……申し訳なく思う。
——だからいつもと同じ。
この視線を感じたら、さり気なく、何気なく、まるで空気のようにフェードアウトするだけだ。
俺は、3人と距離を置こうと——
「翔和くん! さぁ行きましょう!」
聞いたことのない凛の明るい声に少し驚き、「へ?」と間抜けな声を出してしまった。
まるで眠い相手を起こすような……そんな声だ。
耳元で呼ばれたわけではないのに……他の客でガヤガヤとする中、彼女の声だけがスーッと俺の耳に入ってくる。
彼女は少しむっとした表情で周囲を一瞥すると、俺の腕に絡んできて。
しかも、割と力強くだ。
俺の腕に彼女の肌が直に触れ、温かい熱とともに居心地の良い感触がダイレクト伝わってくる。
心が妙にざわついてなければ、鼻血を出していたかもしれない。
「えーっと……凛? ……何やってんの?」
「……なんだか」
「うん?」
「放って置いたら……フラフラとどこかに行ってしまいそうな気がしましたので。その……飛ばされないようにしています」
「いや、人はそう簡単に飛ばされないからな?」
「翔和くんなら……あり得ますから」
「俺、どんな風に見られてるんだよ……」
腕を解こうと軽く振るが、凛は頑なに離そうとしない。
はぁ、全く。
余計に視線が鋭くなったじゃねぇか。
疑念を抱いた視線から、殺意に変わってるし……。
「お〜い! 何やってんだぁ〜! イチャイチャしないで、早くこっちに来いよー!」
少し離れた所にあるパラソルから、健一が俺たちに向かって大きく手を振る。
その横で藤が小さく手招きをしていた。
俺は、ふぅと小さく息をはく。
「んじゃ、行くか……」
「はい」
「ちなみにこの腕を離すという選択肢は?」
「勿論ないです」
「ですよねー……」
相変わらずの凛の様子に苦笑する。
周囲からの視線は相変わらず冷たい。
だが、不思議と気持ちは温かかった。
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