第7話 リア神は爆弾を投下する
「常盤木さんは、いつもバイトしているのですか?」
「まぁな」
俺は短く答え、目の前のポテトを1つ摘む。
相変わらず抑揚のない若宮の声だが、頰が少し緩んでいる気がする。
もしかしたら機嫌がいいのかもしれない。
だが、そんな若宮とは裏腹に俺の心中は穏やかではなかった。
何故か横並びで座る俺と若宮……。
それを見た周囲から、殺気に近い視線が送られ、さらには呪詛に近い言葉も聞こえる始末だ。
はぁ……。
ため息しか出てこない。
どうしてこうなったんだ?
——それは、バイトを開始して1時間頃
俺はテーブルを拭き、一杯になったゴミを捨てたりと店内を掃除していた。
そこまではいつも通りの何も変わらない光景。
そう、そこまでは……。
「いらっしゃいま……せ……」
来店した客に対して、明るい挨拶をしようとした店員の1人がその客を見て絶句した。
そのまま口がポカーンと開き、呆けてしまっている。
理由は単純、リア神が降臨されたのだ。
しかも、今日は土曜日ということもあり、私服姿のリア神だ。
ネイビーワンピースに白のカーディガンとシンプルな格好だが、とても似合っていて、高校生には思えない綺麗さがあった。
そのせいもあり、店に来た瞬間に周囲の視線を独占してしまったのだ。
中には、目が蕩けてハートマークになっていると思える男性もいたぐらいである。
控えめに言って、天使と表現しても差し支えないだろう。
さすがはリア神。
私服姿もリア充のお手本のようだ。
まぁ、ここまではよかったんだ。
彼女は最近よく来ているし、バイト内で話題に上がるぐらい有名になっていた。
それはあくまで“1人の客”としてだ。
最近よく送ってるとか、話すようになったとかは誰も知らなかった。
知られていてもおかしくなかったが、店内で若宮が話しかけてくることがなかったから、他のバイトの人も気がついてなかったのだろう。
だから、俺は油断していた。
今日も若宮は、俺に話しかけてくることはないと……。
しかし、俺の予想は外れーー
「おはようございます。常盤木さん。今日もバイトなのですね?」
と俺に話しかけてきたのだ。
「………………え?」
何が起こったか状況を掴めず、言葉が出てこなかった。
「ダメですよ。挨拶は基本の“基”です。されたのであれば返さないと。ですのでもう一度、おはようございます常盤木さん」
「ああ、おはよう……」
俺は反射的に挨拶を返す。
返事を確認した若宮は満足そうに微笑んだ。
「本日のバイト朝からだったのですね。えーっと、終わりは何時ですか?」
「18時の予定だけど」
「それは、丁度よかったです。私もそのぐらいに帰るのでいつものをお願いしても……」
「いやいや、18時なら大丈夫なんじゃ? 必要ないだろ」
「私の両親、心配性なんですよ。ですので——」
「そういうことならいいよ。大した手間でもないしな」
「ありがとうございます。では後ほど」
若宮はそう言い、最近の定位置となりつつある席へと歩いて行った。
俺はその姿を見送り掃除を再開しようとしたところ、
「「「常盤木……ちょっと集合」」」
と言われ、先輩達に連行される形で事務所に連れて行かれた。
そこで、俺はまるで取調べのように根掘り葉掘り聞かれた。
途中から何故か店長も参戦してるし……。
“いつもの”とは何か?
もしかして彼女か?
神のお名前は?
などなど……。
とりあえず答えづらいところは曖昧に答え、先輩達が落ち着くまで質問に答え続けたのであった。
解放されたのは、それから1時間ほど後である。
これはその時に先輩バイトから聞いた話なのだが……。
若宮に対して、不可侵条約的なものがあり誰も話しかけず、いるだけで、見てるだけで満足。
そんな存在にバイト内で昇華していたらしい。
さすがはリア神。
脱帽だよ、本当に。
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