俺の家に何故か学園の女神さまが入り浸っている件
紫ユウ
第①章 リア神とど底辺の始まり
第1話 リア神とDグループの出会い
“青春時代の思い出”
この命題が与えられたら、みんなはなんて答えるだろうか。
恋愛?
学業?
それとも親友と過ごした時間?
まぁ、きっと大半の人こんな青いことを言うだろう。
ちなみに俺はどれも当てはまらない。
恋愛?
年齢=彼女いない歴だけど何か?
学業?
毎日バイトばかりで留年の危機ですが?
親友?
そもそも友達って何?
とまぁ、こんな感じ。
とくに恋愛なんて有り得ない。
したくもない。
あんな気を遣う面倒くさい関係、こっちから願い下げだ。
これは僻みではなく本心。
素直な気持ちだ。
じゃあ最初の命題に答えるとしたら……。
強いて言うなら“アルバイト”ぐらいか。
それにしか時間かけてないし。
だから当然、部活動には参加していない。
学校が終わったら17時からのバイトに行く。
それが
「今日はミスったなぁ」
俺は信号待ちをしながら天を仰ぐ。
初夏の日差しがとても眩しい。
「はぁ……」
俺はため息を吐く。
定期テスト後の早帰りだったら、バイトを早めに入れれたのに。
あー、勿体ない。
俺はバイトが好きだ。
もちろん理不尽なこともある。
けど、時間を割けばそれなりに成果が得られるし、働いてゼロになることはない。
正確には成果ではなく、労働に見合った対価だけど。
つまりはWIN-WINな関係。
でもそんなドライな関係が心地よい。
学生なら、友人と遊んだりすればいいじゃないかと言う人もいるかもしれない。
バイトばっかりで、青春しないなんて勿体ないとも言われるかもしれない。
そんな奴に一言だけ言わせてくれ。
馬鹿野郎……。
そもそも、いかにも学生です。みたいな生活を送るのは、一部の特権階級の持主だけ。
その持主だけが、日々を謳歌し華やかに暮らしている。
俺のようなスクールカースト下位のCグループ、Dグループに所属している人間には、有り得ないことだ。
けど、俺自身が世間一般で言う「リア充になりたい」と思っていないから羨ましいとは思わないんだけどね。
なんとかその位置に行きたいとか、羨望の眼差しを向ける奴とかいるかもだけど、俺から言えることは——
諦めろ。
ただ、それだけ。
所詮はないもの強請り。
隣の芝生は青く見えるというだけ。
今、いる自分の状況に満足しとけよって感じ。
ちなみに俺は今の状況に満足している。
だから、スクールカースト上位に行きたいという向上心は、当然ながら持ち合わせていない。
まぁ絶対に有り得ないことだが、仮にAグループ入りの圏内にいたとしても、俺は今の生活を選ぶだろう。
あんな気を遣う、気苦労が絶えない生活を送りたくないしね。
うんうん。
「……うん?」
いつも通りの代わり映えのしない光景……の筈なのに。
俺は違和感を感じ首を傾げる
そして、一歩ずつそこへ近くにつれその違和感が確信へと変わっていった。
「……若宮凛」
腰まで伸びたブロンドの髪が風になびかれサラサラと揺れていた。
ベンチに腰掛けた彼女に木々から溢れる木漏れ日が、まるでスポットライトのように照れしている。
神々しいな、おい。
その存在を確認した俺の顔が自然と引き攣る。
なんであんなリア充の代表格のような存在がいるんだよ……。
ただ、クラスは違うし、そして入学してから1度も話したことはない。
きっと彼女は俺のことなんて知らないだろう。
けど、俺は知っている。
何故なら、若宮凛は学校の中で知らない人がいない程の超有名人だから。
入学式の時は、入試得点満点ということで新入生代表として壇上に上がり、そしてスポーツをやれば色々な部活から声がかかる。
その上、その目を惹く見た目と可愛さ……。
こいつ神に愛され過ぎだろ! と叫びたくなる程、全てを持ち合わせている。
文武両道。
容姿端麗。
才色兼備。
その言葉全てが彼女から生まれた言葉。
と言われても納得してしまうかもしれない。
俺とは違いSSSグループに属する究極のリア充……。
いや、並び立つものがいないワントップの輝かしい存在という方が正しい。
リア充の唯一神、つまりはリア
そんな有名人がなんでこんな、学校からこんな離れたところにいるんだよ……。
まぁ、俺には関係ないことだけどさ。
なんせ、住む次元が違い過ぎる。
俺はため息をはき、彼女の前を通り過ぎる。
『ぐぅ……』
彼女の目の前を過ぎたところで、微かに聞こえた情けない音を耳が拾う。
気のせい……?
『ぐぅぅぅ……』
「はぁ……」
今度は若宮さんのため息付きである。
これは気のせいじゃないだろう。
「どうして忘れてしまったのでしょうか……」
無視して立ち去ればいい。
だが、後ろ髪を引かれる思いを拭い切れない。
あーくそっ。
仕方ねぇ。
俺はバイト先に急いで行き、そしてそこで買った物を若宮の前に突き出した。
「これは……なんですか?」
「見てわかるだろ。ポテトだよ」
俺をチラッと見ると抑揚のない声で一言「結構です」と言った。
悲しい話だが、この反応は至極当然だ。
特に関わったことがない男に食べ物を突然渡される。
不審に思うのは当たり前のことだろう。
「何か裏があるんじゃないか」「毒?」とまぁ、そういう考えが浮かんでいるのかもしれない。
怪訝な目で俺を見た彼女。
ただ、あからさまな不快感を出さない辺り大人な対応だ。
馴れているとも言えなくもないが……。
まぁ、美少女である若宮にはこういったことが日常茶飯事なのだろう。
俺は若宮の座っている横にポテトが入った紙袋を置く。
そしてその中の食べ物を察知したように「ぐぅ」と再びお腹が鳴った。
耳を真っ赤に染めて、自分のお腹を押さえる若宮に思わず苦笑する。
「先に言っとくとお礼はいらん。ただのお節介で、なんとなく見て見ぬ振りをするのが嫌だっただけだ。それに、所詮は廃棄する奴だし……たまたま……そう、たまたま貰っただけだから気にする必要はない」
「たまたま……です、か」
「そっ」
「それにしては、まだ温かいようですが?」
「それは、たまたまよかったな。ま、とりあえず食べてくれ。いらなかったら悪いけど捨ててくれると助かる。んじゃ」
「あのっ!」
後ろで何かを話す若宮を尻目に、俺は足早にその場を去った。
元々、住む世界が違う人間。
これ以上関わる必要はないし、これ以降機会もないだろう。
ただまぁ、たまにやる人助けも悪くない。
俺はこの時、自分がしたことをその程度にしか考えていなかった。
そう、その程度にしか。
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