一〇六.『「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気』を読んで

 前回に引き続いてのヤマト関連本です。

 こちらは西崎先代Pの生涯全体について描かれています。それは、金にまつわる修羅場、それに巻き込まれた人たちの苦闘から、彼の私生活に至るまで。

 その人生の色々な所に嘘が潜み、どれが真実なのかも分からない。闇が深い、そういう言葉がまず浮かんできます。しかし同時に、その闇が光り輝くようにも見えてくるのです。身近にいたらと考えるだに怖ろしいですけれどね。 


 名家とまでは言いがたいけれど相応に裕福な家で生まれ、音楽の司会業からこのエンタメ業界に足を踏み入れた西崎P。

 手塚治虫に取り入り、ワンサ君の企画を立ち上げた彼が目指したのはディズニーを超えるミュージカルアニメ。

 それは商業的にはうまくいきませんでしたが、続いてそれとは正反対とも思える、『アニメで壮大なSFをやる』という企画で動き始めます。

 それがヤマトになり、「さらば」で空前の大ヒットとなる訳ですが、絶頂を経験した彼はシリーズがじり貧になると共に金の問題で苦しむ。そしてその苦しみの尻を人に押し付けていく姿。

 金に無頓着な人が多いアニメの業界では、音楽司会業の頃からヤクザと付き合ってきた彼に太刀打ちできる人はほとんどいませんでした。

 同時に映像作品にほぼ無知な(最初絵コンテが読めなかったそうです)彼が興行の勘で繰り出す言葉に衝撃を受けた人も。富野監督ですが。


 石原慎太郎議員(そして都知事)との親交をヤマト復活につなげようとする奮闘。しかしそれがきっかけとなって逮捕へ。

 シャバに戻り復活編の企画を進めながら、旧シリーズを作っていた頃の事を「あの頃は楽しかったなあ」と涙を落とす、それもまた光を放つ闇でもありましょう。


 また、西崎Pの養子である彰司Pもまた、音楽業界の人間であったことはある種の因縁というべきでしょうか。一方で実の子たちからはヤマトの権利の相続を拒否されるなど、家族の縁の薄い人でもありました。まあご自分が家族を大切にされた気配がないので、致し方ない所でもありますが。



 余談ですが西崎P(初代)、「メーテルリンクの青い鳥」の時に、「これがヒットしなければアニメをやめる」と言っていた記憶がありました。

 が、そんなにヒットした感じも無いのにヤマト3が立ち上がり、その時にも「これがヒットしなければ来年の映画は無い」という発言があり、かつ一年予定のシリーズは半年で打ち切られたのに完結編を作った(翌年ではなく三年後になりましたが)のにあきれてしまいました。

 が、後にジブリの鈴木Pが描いた本で徳間康快社長(映画プロデュースを自らも行う)といった人々の行いを知るにつれ、それが映画プロデューサーという人たちの行動なのだなと思うようになりました。もちろん犯罪行為は別ですがw


 ところでよそ様のブログでこの話題をコメントした時、実は海外セールスのおかげで『青い鳥』は大失敗ではなかったと教えていただきました。ありがとうございます。

 彼が若き日から(この頃まだ若いですが)目指していたミュージカルアニメが、それなりの成功を得ていた事は、なにか心を温かくしてくれるものが有ります。でもあの人はそれなりの成功では満足しなかったんでしょうけどね。


 更なる余談ですが、『青い鳥』のチルチルとミチルのデザインがちび古代進とちび森雪なのですが、キャラ原案が松本零士となっているので、はっきり許可をもらって二人を子供キャラにしたんですな。どんだけあの二人が好きなんですかw

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