1-7

勇者ロイガーには四人の仲間が居た。


大斧を自在に振るう豪腕無双の戦士トゥルク

あらゆる戦場を愛馬と共に駆け抜ける騎士ラギル

不敗神話を築いた闘技場のチャンピオンエイル

金貨千枚で雇われた不死身の傭兵ゴーダン


硬い絆で結ばれた五人は力を合わせ魔王と戦い、これを打ち倒した。

そう、確かに倒したのだ。彼が滅び行く魔王に手を貸さなければロイガーが再び旅立つ事は無かっただろう。彼が裏切らなければカタールとアニヨンが旅立つ事もなかったであろう。


「騎士ラギル……」


草影に伏せたまま、何処かで様子を伺っているであろう人類の裏切者の名を舌に乗せた。

カタールは何故ラギルが裏切ったのかを知らない。ロイガーがアニヨンに言付けた中には彼がカタール達を襲う可能性についても言及してはいたが、その背景までは説明する時間がなかったのだろう。どちらにしても今の二人にとって重要な事はただ一つ、命を狙う相手が二人に増えたという事実だけであった。


「こ、降伏したらかわりに魔族と戦ってくれたり……しないよね……」


「兄貴の仲間なら戦ってくれたかもしんないけど、『仲間だった』だからな……」


先程の一撃を避けられたのは奇跡に他ならない。仮にも魔王を倒したメンバーの一人に、勇者の弟とはいえただの農民が敵う筈がない。だからといってこのまま伏せているだけでは何も解決しない、どころか魔族とラギルが合流するのを待っているのと同じである。


「逃……げぇぇぇ!」


逃げるぞと口にする代わりにカタールの口は苦痛の悲鳴を挙げていた。暗がりを切り裂いて飛来して一本の槍が、狙いを過たずカタールの脚を縫い止めていた。


「カタール・タキシスとアニヨン・タキシスだな。よくこんな森に逃げ込んだものだ……ロイガーの入れ知恵なんだろうが、まぁよくここまで来れたものだと誉めておこう」


草木を掻き分けて人影が近付いた。銀の具足に身を包んだブロンドの男こそ勇者を、人類を裏切った卑夫ラギル・アンダイであった。


「あぁ、アニヨン婦人。その槍は抜かない方が良いですよ、傷口から血が止まらなくなりますからね。まぁ私はどちらかでいいんですが」


地面に磔にされた脚を引き抜こうとするアニヨンを制し、完全に抵抗を諦めさせる為の言葉を紡ぐ


「抵抗するならどちらかで結構ですが、素直に私に従って戴けますか?」


アニヨンは目元に涙を浮かべながら俯き、カタールは痛み故か不甲斐なさ故か歯を食い縛り、せめてもの抵抗にとラギルを睨め付け。


紫電が疾った。


「抵抗は無駄だ、降伏も許されん」


舞い散る落ち葉が焼かれて薄暗い森を照らす灯火になり、森の奥から現れた真白い異形が照らし出される。


「コプリスヌの眷属よ、菌族の掟の下……汝を処断する」


魔族の視線はまっすぐにラギルを捕らえていた。

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