第12話 ユートピア国際映画祭 サイド:RUSSIA
ヒューガがシンと念願の再会を果たした頃。
日本サーバーを除く他のサーバーでは、時に歓喜の声が時に落胆の嘆きが至る所で生まれていた。
《
第3位の動画はそれまでの動画とは一線を引く内容だった。
相手は友愛のうみへび座と蟹座。そこに多くのプレイヤーが集っているのに、たった一人に
渦中のプレイヤーは二対一の状況を鼻で笑って立ち回り、手に握った巨大な斧でうみへび座の首を全て引き裂き、蟹座の甲羅を叩き割る。
周りのプレイヤー達は戦い終えた彼を讃えるように
それを一言で表すなら『絶対の皇帝』。
逆らう魔物は絶対的な力で薙ぎ払う。
「第3位、
しかし、RUSサーバーではユノにより発表された順位には罵声と落胆の嵐が運営へと向かっていた。
その結果に誰も納得していないのである。
それは、今回の点数をたった一人で稼ぎ切ったサーバー最強プレイヤー『ロマノフ』ですら例外ではない。
「3位、3位だと?。しかも…あぁクソがっ! まだ名前が出てないのはあの女くらいか」
このロマノフというプレイヤー、身長140センチにも満たない小柄な男だった。
ただし幼いわけではなく、顔立ちは整い垢抜けた青年だった。
彼は赤と茶色のガウンを着込み、宝石や金銀などの豪華な装飾が施された玉座にふんぞりかえって座り、使用人らしきプレイヤーを数名侍らせていた。
「日本の詐欺動画は蹴落とされて当然だ。あいつらとは地力が違うからな」
ここでロマノフの言う日本の詐欺動画とは、アルテシアこと通称『姫』が主体となって撮影した採点方法の裏を突いた魔境プレゼンツのアイドルライブである。
ロマノフは元MBOプレイヤーのため、グレイやシン、当然アルテシアも知っている。
しかし、彼からすれば友人と言うほど仲が良いのはシンのみ。他は知り合い程度。
「なのに、3位ってことはだ。上にオレ以上のが2つもあるのを認めなきゃいけない…ニコラ!」
ニコラと呼ばれた使用人らしき少年は、背筋をピンと伸ばした。
「何故…いや誰だと思う?」
「一人はサーシャ・ワーグナーです。もう一人は…シンを除くと分かりません」
剣呑な雰囲気の中、ニコラは淡々と自身の考えを述べた。
「
ロマノフは苛立ちを募らせる。それを助長するかのようにユノから第2位が発表された。
「第2位、
その動画映像には紫紺のさそり座に立ち向かうサーシャとドナ。二人の姉妹が華麗に立ち回り傷一つ負うことなく決着をつける一部始終が映されていた。
それを観たロマノフの怒りは遂に臨界点を突破した。
「クソっ…何で、何でオレ以外に負けてんだサーシャ!!」
彼が怒鳴り散らす原因は、自分が負けたことでは無かった。
「この勝負は実力と運が重要だ。日本のシンは運が無かった。アメリカのサーシャは運があった。そんなのは一目瞭然なんだ、敵が違うからな」
バトルフィルムコンテストの性質上、後半に用意されたボスの方が倍率が高い。加えて、加点対象には連携要素が存在したため、ほぼソロのロマノフには厳しい要素が多い。それでも彼はソロの方が稼げると判断して強行した。
「だから運で負けたんだ。シンは投稿時期からして本命だが足を引っ張られて失敗した。だから運で勝てた。これが最大限譲歩できる理由」
先程からロマノフが納得してないのは、自分とサーシャの上がいたこと。
そんな彼に使用人らしきプレイヤーの一人が進言する。
「
それは他のサーバーの本命らしきバトルフィルムが出揃っているため、消去法から導き出された言葉だった。
だが、それを聞いたロマノフは不気味な程静かになり、小さな声で呟いた。
「…無い、天地がひっくり返ってもそれは無い」
「「無い?」」
「無いんだよ。理由は言うのも癪に触る」
ロマノフの発言の意図を汲めたのは、その場の使用人たちの中で二人だけ。
ニコラともう一人、ニコラの姉マルファンである。
二人の姉弟は現実のロマノフの幼馴染であり、最も付き合いが長い。
そんな彼等の内、姉のマルファンはロマノフが苛立つ問題の答えに想像がついていた。
「でもねロマノフ、まだ候補はいたはずよ。技量と運を兼ね備えた
「マルファン、そんな奴……」
そんな奴いない、と言いかけたロマノフの口が塞ぐ。脳裏に浮かんだのは、一人の日本人。
「……嫌だ。アレはお前達が買いかぶりしているだけだ」
その言い方でニコラもピンとくる。
「あぁJPNサーバーの彼…ですね。確かに8位の動画に一切映っていなかった」
「言うなニコラ! 聞いてない、オレは聞いてないからな!」
自らの耳を塞いでいたロマノフの両腕をマルファンは力任せに引き離し、画面の方へと身体を向けさせる。
「全く、あの子が関わると駄々っ子になって…ほら、結果が発表されますよ」
捻るように仰反るロマノフだが、修正にニコラも加わり2人がかりで向きを固定される。
「ニ、ニコラ…お前もか」
「諦めて下さいロマノフ。君だって無名に負けるよりマシでしょう?」
「ぐっ…ぐぬぬ……はぁ」
その言葉で流石に観念したのかロマノフは大きな溜め息と共に力を抜いて視聴することにした。
「分かった。それなら1位の面を拝んでやろうじゃないか」
ようやくロマノフが納得したところでタイミング良くユノから第1位が発表された。
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