第18話 雷獄のサジット part【FINAL】

 三人を見送った俺が一人でシャームと戦い始めて早数十分が過ぎていた。避けることに集中していたので幸運にも被弾はまだない。しかし…


「パターンは分かってきたけど正直しんどい…」


 ここまで何度か攻撃を見てきて分かったのはシャームが使用するスキルの順番は一定周期で行われている事と、それぞれのスキルの特徴だ。

 彼はスキル1の範囲攻撃からスキル2の単体攻撃最後にスキル3の洗脳攻撃を使うとスキル2、スキル1の順で戻る。そして、再びスキルループする。


「受けられそうなのがスキル1くらいだから慎重に立ち回ってるけどそろそろ集中力が切れてきた…」


 そのスキル1の雷撃も連続ヒットすれば死ぬ可能性は高い。


「はぁはぁ…しんど…」


「第二の矢」


「これは一点集中攻撃…ローリング回避!」


 次は、洗脳状態にする矢だが今度こそ当たる可能性は高い。


「避け切れるか…?」


 刻一刻とその時が来るのを待っていると、背後から誰かの声が聞こえてくる。


「エンチャントアメジスト『ヴァイオファランクス』」


「スキル『烈風衝』」


 聞き覚えのある声と共に、紫紺の槍と大地を裂く衝撃波が俺の背後から両脇を掠めてシャームに向かっていく。

 攻撃を受けて仰け反るシャームを見て俺はすぐ様後ろを振り返ると、待ちに待った援軍がやって来る。


「姐さんとクラリス!?てことは……」


「お待たせしましたーグレイさん。全員復活です」


 シャームは、洗脳状態の解けている二人を見て理解出来ずに固まっていた。


「何故……第三の矢を…」


 その言葉に対して、一人の少女が彼の前に出て言い放つ。


「貴方がどれだけ強力な呪いをかけても私の祈りには届きません!」


 そんなマリアを見た俺の感想はというと。


「少し見ない間に随分大人になってない?」


 もはや目つきが違う。あの数十分でマリアに何が起きたのか俺には知る由もないが、ただ一つ言えるのは、もう洗脳魔法には苦しむ必要がないってことだ。

 それに四人が俺の隣に並んで立ってくれるだけで、この戦いに希望が見えてくる。


 それぞれが武器を構える中、クラリスはアンナに一つ提案する。


「ねぇ、貴女。本体をあれから分離できる?」


「勿論よ!グレイ、フウロ懐かしのあれ行くわよ!」


「あれか!?姐さんあんた人じゃねぇよ!」


「ラジャーでーす。グレイさんは、私の後ろでー」


「行くわよ!3年前のイベで使った作戦『三重槍』」


 リミアを先頭に縦一直線で突っ込む俺たちに向けてシャームは、隊列を掻き乱す為の一撃を放つ。


「第三の矢、」


「一弾目フウロ!」


「受けます!屍は超えて下さい!」


 先程見たその矢は、触れた対象から正気を一定時間奪うスキル。対するリミアの行動はわざと受けて盾となる。実際死にはしない攻撃だが咄嗟にその判断をするあたり流石としか言えない。

 矢を受けたリミアが、前に倒れるとそれを跳び越えた俺がシャームに向かい突撃する。


「!第二の矢」


「二弾目グレイ!」


「道は必ず作る!気にせず真っ直ぐ進んで!」


 俺は、前に飛び出してアンタレスからスキルを放つ。シャームの矢に対して僅かに下の位置を飛ぶ俺の矢はやがて交わり、シャームの矢の軌道を上に逸らす事に成功する。同時に自分の身体も前向きに倒して、ギリギリの所で矢の軌道から外れる。


 そして、第三弾。三重槍は、前二人の犠牲によって守られ攻撃のみに集中した三弾目が渾身の一打を叩くという聞こえを良くしただけの神風特攻にくかべ。しかし、シャームのような直線攻撃しかなく、かつ攻撃ごとにインターバルのある相手なら必ず届く。


「貴様ッ!だいい…」


 シャームが矢を引ききる前に、アンナは懐に入り込む。


「あたしの娘を泣かした罪、重いわよ『破衝拳』!」


 矢を持った手目掛けて全力で撃たれたスキルは、シャームの手から本体である矢座を分離させる。空中で回転する矢は、ある場所を狙って弾き飛ばされていた。

 彼女が狙った場所は手を繋ぎ矢を見上げる二人のエルフがいた。右側に立つ少女は宝石の散りばめられたガントレットを装着し矢に向けて構えている。対して、左側に立つ少年が突き出すのは小さく紅く輝く宝石がバラバラと埋め込まれたガントレット。


 そんな二人に向けて彼女は指を指す。


「それじゃあ止めよろしく、おまけの第四弾!」


「いくよ義姉さん!『宝石獣の武器庫カーバンクルコレクション』ルビーロッド」


「ええ、この世から完全に消してあげる。『女神の宝石箱アプロディコレクション全能の籠手ゼノ・ガントレット、エンチャントルビー」


「「重ね詠唱デュアル、英雄魔法『コロナブラスター』」」


 二つの業火は、矢を正確に捉えて命中し、二倍の火力で焼き尽くす。


「消えされ!」


 ステータス弱体化を受けようとも二人なら本家と同格の威力を示すと互いに信じて放った炎は、残り半分もないシャーム本体の体力をゼロまでしっかり消しとばす。


「我は……シャー……ム……」


 それと同時に、依り代となっていたヨハンは解放され気を失って地面に倒れ伏す。

 二人の英雄魔法が撃ち終わり、全てが終わったかのような静寂に包まれる中、マリアは確認する。


「終わった…?終わったの…?」


「…うん。終わったよ。本当にありがとうね、助けてくれて」


「お母さん…」


 少しは関係がマシになった親子を見ていた俺にリミアが話しかけてくる。


「いやー良かったですねーもう一つの戦いも終わったみたいですしー」


「ああ、今回は胸を張って勝利したと言い切れるよ」


 この日、犠牲者ゼロで終えたシナリオクエストエルフ編は俺にとって大熊座で成せなかった事を成し遂げられたと言い切れる戦いとなった。


「congratulation!!シナリオクエストエルフ編E『雷獄のサジット』をクリアしました。シナリオクエストエルフ編が全て終了しました」


「クエスト参加者全員に称号が配布されます」

「クエストMVP:アンナ」

「全シナリオ参加者:グレイ、聖女、リミア、アンナ」

「全シナリオ参加者に称号が配布されます」


 俺は、流れるアナウンスとメッセージよりも今ここに全員が笑って立っている事が嬉しくて仕方なかった。


 翌日、俺たちはアンナ姐さんの目的地であるゴルディオンに行く為に、里を出ることになった。

 俺たちが、宿としていた民家から出ようとすると、外でクラリスとタオが待っていた。


「やぁ!プレイヤーの諸君。矢座の討伐お疲れ様!」


 クラリスは、会社とかにいそうな上司みたいに話しかけてくる。


「どうしたの?もう俺たち里出るよ?ああオベロンを持ってきてくれたのか、ありがとう」


「あれ?今のスルー?いやいや普通、え?とか、ん?とかならない?ほら、そこの三人みたいにさぁ!」


 ふと、振り返ると三人はクラリスの言葉の後口をあんぐりと開けていた。

 そういえば、今クラリスはプレイヤーと言った。まぁそんな事言うNPCだってゲームによっては…いやAIだとおかしいか。


「んーこう言うとわかりやすい?デスゲームに巻き込まれて災難だね。後輩」


「あーそれか。タオがβテスターってわかったあたりでクラリスもかなーって思ってた。因みに記憶はいつから?」


「なんでスルー?ま、いいや。質問に答えるなら…んー多分最初から?死んだと思ったら里にいて気づいたら女王やってた。そう言えばユノの第二次アップデートを見たな。あの辺りかも」


 という事は、あの条件を出した時から記憶はあった事になる。まあやけに目線を送ったりわざと咳き込んだり変な女王だなって思ってたけど。


「タオ含めてこれで6人目か。案外沢山いるのかな」


「…え?私達以外もいるの?そりゃそうかー私より強い人居たしなあー」


 俺とクラリスが呑気に話していると、ようやく事態を飲み込み始めたリミアが会話に入ってくる。


「えーとクラリスさん達ってプレイヤーですか?」


「元ね。βテストで死んじゃったから今は違うと思うけど」


 何か納得したような彼女は次に俺の方を向く。


「ほおほお。それでグレイさんはーどこで会ったんですかー?」


「ミュケで一人。メトロイア来るまでに三人」


「グレイさーん、報連相って言葉知ってますー?」


 ……あ、これエレネから口止めされてたじゃん。

 完全に黙り込んでしまう少年Gを怖い笑顔で見つめるリミア。


「…他にこの事を知ってる人は?」


「シンとアイシャ…です」


「…そうですかーお嬢様がーあ、もういいですよー」


 随分とあっさり引いたな。まだユノの成り代わりを警戒しなきゃいけないのに…シャーム終わったから気が抜けてたな。


「そ・の・か・わ・り後でしっかりと説明してもらいますよー」


 話題をさっさと変えよう。姐さんとかマリアにまで対応してたらキリがない。


「じゃあさクラリスってルキフェル達と一緒に戦ってたんだろ。どっちが強いの?」


 こういう時に咄嗟に強さが気になってしまうのが、あの世界MBOにいた影響なんだろう。

 しかし、彼女の返答は俺の予想外であった。


「誰それ?私が死ぬ時までにそんな名前のプレイヤー聞いた事も無いよ?」


「…は?……ちょっと待て、クラリスの中でのβテスト最強はどんな奴だ?」


「どんなって、ねぇタオ君?」


「僕達の中で最強は、■■■だよ。彼はとにかく眼がずば抜けて優れてた。ああいうのを千里眼とか未来視って言うのかな。彼はプレイヤー全ての才能を見極めていたんだ」


 彼?エレネはどう見ても女性プレイヤー。ルキフェルも『彼女』と言っていた。なのに、二人はあたかも男性について話しているように見える。

 まさかと思い俺はエレネの外見について話すと。


「それが最強?全然違うんだけど。そもそもその子召喚士なんでしょ?あの人は錬金術師系の人だよ?」


 二人の最強βテスター。全く異なるプレイヤー層。食い違う二人の話は、どちらも嘘を付いているように見えなかった。何せ両方二人の証言で成り立っている思い出だ。


「質問なんだけど二人は現在時間で何時デスゲームに巻き込まれたかわかるか?」


「えーそんな事聞いてどうするの?私達が閉じ込められたのは2045年6月1日だよ?」


 ルキフェルは、2048年頃と言っていた。二人はその三年前に巻き込まれたと言う。

 つまり…このデスゲームのβテストは一回じゃない。少なくとも二回、いやそれ以上の可能性もある。


「どしたの?…いや、いいや。何となく今の反応で察したから。また今度聞きたい事が会ったら来て」


「悪い、そうする。頭の中で整理つかなくて」


 彼女から聞き出さないといけない事がまた一つ増えたと覚え、クラリスとタオに見送られる中、俺たちはポータルを使いメトロイアへと向かう。

 目的地は西エリア、獣人国家ゴルディオン。犯罪者達とシンのいる国だ何も起きない筈がない。


 リミアは、別れ際クラリスとタオに一つ質問していた。


「すみません、ご存知なかったら結構なんですが、ホミカというプレイヤーを知りませんか?名前だけで申し訳ないんですが」


「うーん、ごめん私は知らないなぁ。タオくんは?」


「すみません、記憶にないので僕は知り合いではないと思います。でも知り合いだったとしたら…その…」


「…いいんですよー居たら死んでたことになりますもんねーそれではー」


(グレイさんの顔からして複数回のテストはやはり実施されていた。あの子は5年前に、この件を任されていたから当時の参加者に会えれば…)


 一方ゴルディオンでは……


 街の一角に佇む古びたポーション屋に隠された秘密の部屋の中、ある一人の少女が青年達に別れを告げていた。


「…つまんない。私あっちにつく」


「まじかよ!?どうして!?」


 青年は、自分達から離れようとする少女を必死に引き止めようとしていた。そんな彼を楽しそうに見つめる同い年くらいの青年は、ある人物から送られたメッセージを確認していた。


「だってデッドマンの作戦だとシンと戦えない。それはつまんない」


「ははは、僕も君と戦いたいしその方がいいと思うよ。でも夜襲はやめてね」


「俺の国家支配計画はどうすんだ!?相手は卒業生だぞ!?」


「どうせ僕が勝つから大丈夫だって…多分」


「お前の技量は心配してねぇよ。問題は武器だバカ。あれ見ただろ!第一王女が使っていた銃。見間違えるわけがねぇ!ピジョンシリーズだ。あの人が居るんだよ!」


 デッドマンが簡単にこの国を手に入れられないのは、とある卒業生が原因だった。その人物が最も得意としていたのは銃製作。


「銃程度じゃ負けないよ。最もこの世界であれほど完成度の高い銃とそれをあそこまで使いこなす相手だから一筋縄でいきそうにないんだよね…」


「やっぱ無理じゃねーか!あ”あ”もうっ、人手が足りねえし、あの王女は何故か使いこなしてるし、この世界色々とおかし過ぎんだよ!」


 頭を抱えて苛立ち始めるデッドマンをミアは呑気に宥める。


「あせっちゃダメ…落ち着かないと…」


「ったく…落ち着いてるよ。はぁ…どいつもこいつもはみんな見た目だけの能無し第二王女腑抜けた野郎第一王子に寄ってくし、この世界も末だな。クリアの為に言いなりになる国王が欲しいっていう考えの奴はいねぇのかよ。デスゲームに推しもくそもあるか!」


「純粋に力でここまでの強敵がいると結構大変だね。まぁプレイヤー目線で勝つことには僕も賛成だから、今回は最後まで付き合うよ。ただし…」


「はいはい、この狐っ子にちゃんと権限は残しますよ。くそっ…あの人の所さえ潰せば国をとれるんだ。やるしかねえ」


 デッドマンは、隣で椅子に座って大人しくしている狐獣人の頭をわしゃわしゃと撫でて掴む。掴まれている方の修道服姿の獣人は、彼らの会話のことなどよりも自分がどうすべきかを自問自答していた。


「わたしはいったい何がしたいんだろう………」

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