第11話 北の聖女(実名)
≪北エリア 始原都市ヘロポネソス≫-始まりの街ミュケ 冒険者ギルド
アイシャの奢りで夕飯を食べ終えた俺は、ギルドに行きテーブルを1つ借りて、いつもの仕事を始める。
クエスト達成報告をしに帰って来たプレイヤーから薬草を受け取り流れるようにポーションへと錬成していくのだ。
「はい!集めた薬草はこっちに下さ~い。ポーションに変えますよ~」
ポーション製作は錬金術師以外のクラスの場合だと成功確率は50%に設定されている。
対して、錬金術師の成功率は100%である。他にも神官の成功率は100%だが、それ以外に錬金術師にはオンリーワンの
「俺は錬金術師だからポーション製作は等価交換だよ~」
本来、ポーションを製作するには薬草が2つ必要となっている。これは、神官も例外ではない。
だが、錬金術師の回復ポーション製作は、他のクラスと異なり薬草1本で作れるようになっている。
「グレイく~ん。今日もお願い」
「はいはい。何個でも何十個でもどうぞ~そういえば、今日は何のクエスト受けたんですか?」
「今日?そうね~今日は――――――」
当たり前の事だが、毎日やっていると自然と解放戦線のプレイヤーとも話すようになってくる。
内容といっても今日はこんなモンスターと戦ったとか、森の中に光るモンスターがいた、といった報告のようなものだ。
ポーション製作代は、街のNPCが経営する薬屋と違って、タダなのでプレイヤー達がお代替わりに話してくれているのだろう。
毎日、街の中でクエスト続きの俺には、情報収集も出来てレベルも上がるので一挙両得である。
何人かと話し終えて、俺もギルドの端にあるテーブルで休憩をしていると1つのパーティーが帰ってくる。その中にいた見覚えのあるピンク色の髪の子が俺に気づくとこちらに走って来た。
彼女は、俺の前に来ると緊張した面持ちで話しかけてきた。
「あ、あの!この前は、ありがとうございました!」
女の子は、その言葉の後、深々と頭を下げる。
その子は、前にシンと俺がゲームの進路を教えたエルフ神官の子だった。
「やぁ、君も解放戦線に参加してたんだ」
「そうなんです、初心者の私でも皆さん受け入れてくれて‥‥ってそうじゃなくて、前からお礼を言おうとしてたんですけど、中々言い出すタイミングがなくて‥お礼を言うのが遅くなってしまいました。ごめんなさい!」
むしろ、よく初日に会っただけの俺のことを覚えてくれていたものだ。
「いやーこんな状況だし仕方ないだろ。むしろよく俺のこと覚えてたね」
実際、俺は近く来た彼女を見るまで当時の事がすっぽりと頭から抜けていた。
「あの時、唯一私に声をかけてくれましたから…」
それを聞いて、俺は心から安心した。あの時、色々教えてたのはシンだが、最初に勇気出して声をかけたのは間違いじゃなかったのだ。
彼女の暖かな微笑みを見た俺は、そう確信した。
(良かった‥元気そうで)
そんなことを考えていると、後ろの方から彼女のパーティメンバーがやってくる。
その内の弓使いの女性プレイヤーが確認するかのように聞いてくる。
「あなたが『
なんだ、聖女って。もうこの子そんな二つ名ついてるのか。
困惑していると、聖女と呼ばれた神官の子が、弓使いに向かって慌てて訂正する。
「違います!
聞いている身としては、その二つの違いがさっぱり分からない。
俺はマリアと言った神官の子のステータスが、気になり見せてもらう。
『名前:聖女』
と書かれていた。
(‥‥‥‥何これ‥‥?)
困惑していると、マリアが顔を赤くして抗議する。
「だから違うんです!こういうゲームするの初めてで、本名をそのまま入れちゃって‥‥後で、皆さんに聞いて、普通本名は使わないって知ったんです!なのに、皆さん『せいじょ』としか呼んでくれなくて‥‥」
「えっ‥‥本名‥‥本名!?芸名でもセカンドネームでもなくて『
「あ‥‥はい」
聞いている弓使いは、微笑しながら、せいじょと呼ぶようになった経緯を説明し始める。
「だって、この子初心者と思えないくらいスキルのCT管理が上手いんだもの。名前と相まって聖女感が物凄い溢れてるのよ」
マリアのパーティメンバー達もそれに賛同するかのように頷く。マリアの顔は、耳まで真っ赤になって、手で顔を覆って隠している。
俺は、かける言葉に迷いつつも一度名前の件は忘れることにした。
「えーと、その、なんだ。初めてなんだし名前の件は、仕方ないって。気にすんなマリア。それに、色々教えたのは俺じゃなくて、シンの方だ」
「シンさんにも、今日会えたら、お礼を言おうと思っていました。でも今日は、見かけなくて。」
「あいつ今日は、新しく発見されたダンジョン探索に、行っているはずだけど‥やけに遅いな」
そう言っていると、冒険者ギルドの扉が開いて、1人のプレイヤーが入って来た。
そのプレイヤーを見た者を口を閉ざし、一人また一人と静まることでギルド内は静寂に包まれる。俺も何があったのかと覗きに行くと、中心に居たのは前に見た時とは異なり、欠けたり破れたりした装備と刀身が根元から折れた柄だけの剣を持つシンであった。
彼は少し前に零影を圧倒した実績もあり、それを知っているからこそプレイヤー達は、彼の姿に息を吞む。
「シン‥?他の皆は?」
アイシャが声をかけて気づいたが、シン以外のプレイヤーは一向にギルドへ入ってこない。
その場に居たライオットがダンジョン内で何があったか聞こうとする前に、ズタボロのシンが言葉を放った。
「僕以外‥‥全員死んだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます