第6話 魔境で2番目におかしい奴

 ≪北エリア 始原都市ヘロポネソス≫-始まりの街ミュケ 冒険者ギルド前


 デスゲームアナウンスから一時間程たった頃。町中パニックの中、俺はシンとこの冒険者ギルドに訪れていた。

 一時間の間2人で話し合った結論は、『このゲームのクリアに関わる』である。

 話し合いの時、最初の方はまともに考えられず妹の紫音の事しか頭になかった。


「紫音の奴‥始めてないよな‥やめてくれ‥それだけは」

「落ち着いてグレイ。もし、紫音ちゃんがいるなら連絡できるはず。名前とかIDとか聞いてないの?」

「他の友達と遊ぶせいか教えてくれなかったんだよ‥あ、でも確か‥南の方から始めるって言ってた」


 現実での記憶を頼りに思い出すと、彼女は南大陸から始めると夕食の時言っていた。

 なので、この世界にいるならと何が何でも会いたいと思い、連絡手段を探し始める。


「通話機能‥使えない。フレンド登録‥名前も分からん。掲示板チャット! でも、個人を見つけるには難しい‥」


 メニュー画面をよく見ると、連絡手段に関するほとんどの機能が未実装扱いとなっている。

 おそらく連絡が取れないと言っていたプレイヤーはこれの事を言っていたのであろう。


 それを見た俺がパニックになっていた時にシンが、思いついたことを口にする。


「あの管理者が言っていた試練の報酬で解禁されたりするかもしれないよ」

「確かにな‥管理者がAIならそれも可能か」


 現状他の確認手段もないため、とりあえず試練を探すことが目標となった。

 それを見つけ出すことが最優先であるとして、今やるべき事はRPGの常套手段、レベル上げである。

 この世界ではクエスト報酬にもレベル上げに必要な経験値が入るため、こうして2人でクエストを受けに来たわけである。

 ギルドに入ると同じ考えのプレイヤー達が徒党を組んで集まっている。


 俺たちがギルドに入った事に気づいたプレイヤーの内1人がこっちに向かって声をかけてきた。

 彼は歳が俺たちと同じくらいに見える剣士(ソードマン)の男性プレイヤーだった。


「君たちもクラン『解放戦線』志望か?クランと言ってもまだクラン機能は解禁されてないから自称だが」


 多分ゲームクリア目的のプレイヤー達が集まるだろう。それに対しシンが答える。


「そうです。僕達もこのゲームをクリアしようと思って来ました」


 それを聞いた剣士は、品定めをするかのように見始める。


「解放戦線志望者には、ステータスを確認させてもらっているんだ。見せてもらうよ?」


 彼は確認を取ると、俺とシンのステータスを見始める。


「金髪の子は俺と同じ剣士で、もう片方は錬金術師(アルケミスト)か。金髪の子は是非参加してくれ。ただし、そっちの灰色の髪の子は参加させられない」


 シンはそれを聞いて、真っ先に反論した。


「なんでですか!今は人が1人でも必要な時でしょう!」


「だからこそだ。今は安全なレベリング方法が見つかっていない。そんな時にクリアする意志があるプレイヤー全てをむやみに序盤で危険な目には合わせられない。現状、戦闘職でこの世界を少しずつ開拓していくのが一番いいんだ」


 2人の口論が続く中、話を聞いていた俺は、シンでなく向こうの言い分に納得していた。

 きっとシンは、俺が紫音を探したい事を知っているから解放戦線に入れたいのだろう。

 それに対し彼らから見たら俺は、妹を必死で探す兄でなく1人の生産職だ。

 むしろ危険だと心配してくれているのだ。


 俺は自分から攻略には参加しない事を伝えようとすると、ギルドの奥で話を見守っていた赤い髪の女性プレイヤーが声を挟んだ。


「ライオット、その錬金術師の子を参加させて」


 シンと口論中のライオットと呼ばれたプレイヤーは、振り返り理由を問う。


「なぜですリーダー。生産職クラスは戦闘職に比べ、ステータスも低いですし、特に錬金術師は攻撃スキルすら見つかってないじゃないですか」


 そうなのだ。俺もステータスを見て驚いたがこの錬金術師というクラスはスキルツリーに攻撃系統のスキルが一切載っていない。全部調合関係である。


 それを聞いた彼女は、呆れながら、彼の質問に答えた。


「別に、討伐系のクエストをやらせないだけでいいでしょ。そもそも質の良いポーション作れるの錬金術師だけなのよ。解放戦線に入ろうとしている錬金術師なんて、今はこいつしかいないんだから入らせとけばいいのよ。私たちが手に入れた薬草とか全部こいつにポーション作らせ続ければ、こっちはNPC経由でポーション製作してお金かけずに済むし、こいつはレベル上げできるしwin-winの関係でしょ」


(なんか、俺の扱い雑じゃないか?というかこの女性、どっかで見たことある)


 ライオットは、渋々納得したようである。


「分かった。2人とも参加してくれ。ただし、君は討伐系クエストをうけるなよ」


「分かっていますよ。改めてまして俺は、グレイ。よろしく」


「さっきは、感情的になってすみませんでした。シンです。よろしくお願いします」


「この解放戦線のサブリーダーをやっているライオットだ。よろしくな」


 俺たちが、握手しているのを見ていた赤髪の女性は、ニヤニヤと笑いながらこっちを見ていた。やっぱりこいつを知っている気がする。気になって名前を見ようとするとシンが、


「あ、グレイ。あの人MBOランカーの『敗者』さんだよ」


「ハイシャじゃないわよ!アイシャ、ア・イ・シ・ャ!」


「あぁ、『永遠の敗北者ルーザー』さんか。どうりで見覚えがあるわけだ」


「あんた達、わざとでしょ!グレイ、あんた追い出すわよ!」

「ごめん、ごめん。なんかこのやり取りMBOでよくやってたなって思って」


 因みに、アイシャとはMBOのチーム戦イベントの度に組む仲でプレイヤーランキング2位の凄い人なのだが、シン相手の勝率が何故か0%と俺よりも低いため、プレイヤー間で敗者さんと呼ぶのが愛称となっていた。そのため、俺もシンもよくからかっていた。

 さっきまで気付かなかったのは、彼女がMBOで使っていたアバターと今のアバターが少し異なっていたからだろう。


 アイシャは、諦めたようにため息を吐くと俺とシンへ指示を出す。


「はぁ、もういいわよ。とりあえずシンは、パーティ組んで連携確認してから討伐系クエスト受けて。それからグレイは、お使い系の雑用クエストでもやって時間つぶしてなさい」


 今後の方針も決まったため、俺は、雑用クエストを受け一通りこなした後、シンと合流して宿に向かった。帰り道で俺は、シンに気になっていたことを聞く。


「シン、お前あれがアイシャってよく気づいたな」


「見た目は、ちょっと違うけど顔とか話し方はそれっぽかったし、決め手は僕たちを見た時に、僅かにだけど瞳孔が開いたからだよ」







 やっぱこいつおかしい。

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