VET!!
小葉
1.解剖の諏訪先生
出席カードは行き渡りましたか? 授業の終わりに解剖学教室の室員が集めますので、忘れずに渡してください。
では、そろそろ授業を始めましょう。眠いですか? 月曜の一限目に、よりによって解剖学ですもんね。残念ながらカリキュラムは変更できません。お気の毒なことです。
さて、皆さんとお会いするのは二年生の解剖実習以来でしょうか。早いもので、皆さんももう五年生。すでに進路を決めている人もいれば、まだ悩んでいる人もいるでしょう。しかし、国家試験は待ってくれません。六年生は卒業論文に卒業試験、就職活動と多忙ですからね。今のうちから少しずつ準備を進めていきましょう。今から覚えてもどうせ忘れる? いやいや、皆さん、忘れることを恐れてはいけませんよ。大事なのは反復です。覚え、忘れ、また覚えるを繰り返すことで、知識は抜けにくくなるものです。皆さんの脳は、定年間際の僕なんかよりずっとお若いんですから。
そうは言っても、皆さんにとって解剖学はあまり面白みを感じない学問かもしれませんね。二年生の授業や実習に苦戦した方も多いでしょう。やれ
さあ、今日はウォーミングアップがてら、文字通り頭からざっくりとおさらいしてみましょう。
まずは、歯です。皆さん、ご自身の歯を数えてみたことはありますか? 人間の歯は二十八本、親知らずを合わせると三十二本あります。牛の歯もやはり三十二本あるのですが、特徴的なのは前歯、つまり
それから、
さて、口のなかで咀嚼した食べ物は、ぐぐぐっと食道を通り、胃へ入ります。皆さんご存じのとおり、牛やヤギなどの偶蹄類には胃が四つあります。このうち、我々ヒトの胃と同じように胃液を分泌するのは第四胃だけ。では、一から三胃はなにをしているのでしょうか。
もっとも大きな第一胃、すなわちルーメンですね、焼き肉でいうところのミノです。ルーメンには多種多様な微生物がおり、牛の食べる餌を発酵分解して栄養に変えるわけです。ご実家が牛農家の方ならよくご存じでしょうが、この第一胃内にいる微生物たちは非常に繊細でして、牛の食べる飼料の量や質によって、その数や種類の構成は大きく変動してしまいます。僕の友人で「牛飼いは微生物飼いだ」とおっしゃられた酪農家の方がいましたが、粗飼料や濃厚飼料をバランスよく給与しなければ、さまざまな病気が誘発されてしまいます。ただ草を与えていればいい、というわけではないんですね。まぁ、そのあたりのお話は内科の先生にお任せするとしましょう。
次に、第二胃です。第二胃は反芻の役割を担いますが、特徴的なのはなんといってもこのハチの巣のような内壁ですね。焼き肉屋でも見た目の通りハチノスと呼ばれています。ところで皆さん、東中野においしいモツの店があるのをご存じですか? モツというと独特の生臭さが苦手な方もいるでしょうが、この店のモツは臭みがなく、適度に脂がのって実にジューシー。とろとろのモツ煮も絶品ですが、サクサクの豚モツのから揚げにレモンをひと絞り、と、これがまた非常に旨い。気の早い話ですが、今年度の解剖学教室の卒業生追いだしコンパはちょっと足を伸ばしてこの店にしたらどうかしら、なんてね。ふふ、笑ってますね金成さん、ぜひ検討してください。
えーっと、なんの話をしてたんだっけ。ああ、第二胃までいきましたね。第三胃は、一胃で発酵分解した食べ物をより細かく分解し、第四胃に運搬しています。焼き肉でいえばセンマイですね。そうだ、焼き肉の話に戻りますが、吉祥寺にこれまたおいしい焼き鳥の店があるんですよ。僕はここの砂肝が好きでね。あのコリコリとした食感にネギ塩ダレなんかをからめるとなんとも言えません。なぜこの話をするかと言うと、牛は胃が四つですが、鳥は二つの胃、すなわち
どうです、だんだん解剖学を思いだしてきましたか。今年も五月から二年生が解剖実習をやりますからね。五年生の皆さんも、解剖を復習したいという方はぜひお手伝いに来てください。とくに今年は、五年生の室員がふたりしかいなくて準備が大変なんです。全出席したら金成さんが焼き鳥屋に連れていってくれるそうですよ。うふふ、冗談、冗談。ちゃんと
さて、どんどん進みましょうね。次は、小腸のお話です。
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