第3話「死んでも明日はやってきた」
「ついてきなさい」
小声で、囁かれる。ぞくり、と背筋が震えた。耳は弱いんですよ......村長。
シリアスなトーンだったが、あまり緊張感が持てない。引きこもり生活が培った現実逃避スキルだろうか?
ぐんまーさんたちは、村長に手で制されその場に留まる。軍隊を彷彿とさせるほどに、かなり統率が取れた動きだ。
......村長の人望がよほど篤いのか。もしくは......ここまで統率をとる必要に駆られているのか。
密林の深くへと進んでゆく。
木々が風に揺れ、森全体がざわめく。時折フクロウのような鳴き声もする。
夜の森では頼もしいはずの月光が、やけに冷たく感じられる。
そういえば月もあるんだな......とか思っていると、円状にひらけた場所へ出た。
“墓地だ”と、一目でわかったのは、無数の十字架が並んでいたからではなく。
村長が、すすり泣いていたからだ。
宗教に詳しいわけでもない。考察は後回しだ。
一礼して、墓の間を通る。土葬というやつだろうか。
少し盛り上がった土のなかに死体があると思うと、現代日本の小綺麗にされた墓地しか知らないおれは、家族の墓参りの時よりもよほど神妙になれた。......死に近づくほど、人は人を悼めるのかもしれない。
村長が墓の一つから戻ってくる。
「すまないね、遅くなってしまって」
「......いえ」
「いろいろと疑問もあるだろう。だがそれを話す前に......」
「ーーーー君には一度、死んでほしい」
「......へ?」
身構えようとした意識に、動作が追い付く頃には。村長の小柄な体はおれのふところにあって。
一瞬、何かが月明かりを鋭く反射した。その眩さに、閉じたおれの目蓋はどうしてかもう上がらず。
「事後承諾になるであろうことは、申し訳ない。なんせ相手は神......気まぐれにルールを......破られても......」
村長の言葉が遠のいてゆく。
意識が遠のいてゆく。
痛みが遠のいてゆく。
命が、生が、遠のいてゆく。
それでも明日は......残酷なほど確かに......。
ーーーーやってきた。自称“神”まで引き連れて。
「何年、いや何百年ぶりかな......。転移、転生、転移、転生......忙しかった時期も、もう遠い」
「おはよう、青年。朝でも昼でもないよ。もちろん、夜でもね」
「......」
「君はまだ......生きなくちゃいけない。つまり、死ななくちゃいけない。だから...」
「その前に、ひとついいですか?」
訊ねた、間髪入れずに。
抱きしめた、返事も待たずに。
「久しぶり、明日香」
「ああ......久しぶり。とりあえず苦しいから、......おいこら。御神体になにして」
思いっきり殴打された。グーで。
流血と鼻水と嬉し涙で混沌とした顔面をぐしぐしと拭えば、積年の想いを込めた台詞を放つ。
「もうタイホされてもいいかなって......」
気の利いた言葉など出てはくれなかった。
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