睡眠薬を飲むたび、異世界にとばされる話

よるの

プロローグ

『プロローグ』


昔からおれは、精神的に弱かった。

 だからいくらでも、ずるくなれた。それはもしかしたら、強さと呼ばれるものなのかもしれない。だからある意味でおれは強かった。――こんな、退屈でありきたりな自分語りを、臆面も無くするくらいには。

 ……それでもおれは、弱者でいたかった。

 弱いままで、まるで被害者みたいな面をして、ずるくても、きたなくても、強いものに勝ちたいと思っていた。

 

 おれは、学校が嫌いだった。いや……今でも、嫌いだ。

 勉強ができなかったわけでも、運動音痴だったわけでもない。ただ、友達はいなかった。

 ある日の学校帰り。コンビニの前に座り込んで、ポテチを食い散らかしながら談笑する同級生たちを見かけた。なんともいえない気分で自宅へ帰る途中、近所のやつらが集まって、バスケに興じていた。ボールの跳ねる音がいちいち不快だったから、さっさと玄関の鍵を開けて家にこもった。      

 誰もいないリビングでぼんやりしていると、無性にさびしくなって、本当に不快なのはボールの跳ねる音なんかではないのだと気づいた。

 次の日。親が棚に隠していた、用途のよくわからない財布から金を盗み、名前くらいしか知らないクラスメイトたちに玩具や菓子を奢った。彼らはとてもインスタントに、仲良くしてくれた。まるで友達ができたみたいで、しばらくの間、その行為に熱中した。

 おかげで親の財布から勝手に消える紙幣の数は増えていき、とある休日、おれはそんな不可思議な現象について両親に呼び出された。

 どんな罰が待っているかと震えながら父親の部屋をノックしたが、結局、ただただ蔑まれただけだった。いつもは殴ってくるくせに、こんなときは殴ってすらくれないのか、と。そんなときですらおれは被害者ぶっていた。そうでもしないと、自尊心を保てなかった。

 その日から、インスタントな友達ごっこはできなくなった。

 それで……最後に訂正する。

 ひとりだけ、こんな人間の汚さを体現したみたいなやつにも、短い間だったけれど、友達みたいなやつがいた。

 名前は、名瀬明日香。その頃のおれは、今日も昨日も好きではなかったから、明日を冠した彼女の名前が好きだった。

 女の子なのに黒いランドセルを背負うその姿は、整った容姿と相まって、彼女をすこし現実離れさせて見せた。そして、成績がいいとか言う意味ではなく、――確かに成績もよかったが――とても、賢い少女だった。

 ただ、その少女は、みずから命を捨ててしまった。

 ――小学校生活、最後の夏だった。


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