-67度 激励のスエオ
「なして可愛いと意地悪されるんだべか?」
両親がいたとはいえ、一応はスラムで揉まれてきたオトワールとは違い、スエオはまだ純粋な部分が多かったようである。
素直に質問するスエオを、まるで勇者を見るような目で見つめるオトワール。
「きっと私が可愛いくて愛されるから、みんなが嫉妬しちゃうの。
可愛い私が、足が痛くて歩けないって言ったら誰もおんぶしてくれなくて……
置いていっちゃうのよ?酷いと思わない?」
図々しいにもほどがあるその発言に、開いた口がふさがらないオトワール。
作者の描写力がしょぼいせいで、イマイチピンと来ないかもしれないが、ここは森の中である。
森の中で川のそば、もちろん獣やモンスターが水を飲みに来るのもこの川だ。
このまま放置されればこの少女は間違いなくどちらかに食い殺されるであろう。
「いや、普通歩けないとか言う足手まといは置いて帰るだろ。
正直ずっとここに居たら獣かモンスターに食い殺されるんじゃないのか?」
おそらくは子供だけで宝石の原石を拾いに来たのかもしれない。
普段からこんな感じであれば、この少女が呆れられて見捨てられたのもしょうがないのだろう。
「そんな!あなたたちみたいに醜い人ならともかく、美しい私が見捨てられるなんて世界の損失だわ!」
両手を広げ、顔は斜め上を向き、まるで芝居のように声を上げる少女。
足の痛みはどこへやら、まるでスポットライトを浴びているかのようである。
どこをどうすれば田舎の村娘がここまで勘違いできるのか。
それは、昔一度この村を通過した貴族の子供に、その容姿を誉められて口説かれたのが原因だ。
所詮子供のお遊び、お互いとっくに忘れているが娘の両親は忘れていなかった。
玉の輿に乗れる、貴族の正室は無理でも側室にはなれるかも。
そう期待した両親に蝶よ花よと甘やかされ、わがままを聞いてもらうのが当たり前になってしまっていた。
「……そこまででもねえべよ?」
スエオもオトワールもそんな事情を知るわけが無い。
ストレートに否定するスエオに、苦笑するオトワール、そして雷を受けたかのように白目をむいて固まる少女。
まるでスエオが恐ろしい子のようである。
「第一自分で努力しねえ奴が美しいわけが無いべ。」
美しさとは無縁どころか対極にいるはずのスエオが、何やら語りだした。
鏡を見て言えと言うツッコミは今回受け付けない。
「宝石だって磨かなきゃ綺麗にはならねえだ。
例え石ころでも、こうやって一生懸命磨けば……立派な宝石になるだよ。」
おもむろに川原の石を握りしめ、宝石研磨の魔法を使うスエオ。
どう見ても普通の石だったはずだが、スエオの手のひらにはほぼ同じサイズの美しく磨かれたトパーズが乗っていた。
「そんな、どう見ても普通の石ころだったのに……」
オトワールはひやひやしていた。
この少女が普通の石ころだと思ったのは間違いではない。
スエオが拾った石は、実際に間違いなく普通の石ころだったのだ。
しかし、少女は何やら思う事があったのかもしれない。
立ち上がるとスエオに一礼をし、村の方へと帰って行った。
「騙すような真似して良かったのかなぁ……」
磨けば普通の石ころのように見える物も、トパーズへと化ける。
逆に言えば磨かれなければ宝石は石ころと大差ないのだ。
スエオの反則魔法でそう誤解した少女は、心を入れ替えて家族の手伝いなどを頑張った。
村の仕事の手伝いを進んでやるようになった彼女は、家事に育児、教育に農業と様々な事を極めていった。
最終的にメイドとして貴族の家にやとわれ、そこで昔出合った貴族と再会。
それから始まる山あり谷ありのラブストーリーはまた別の話である。
スエオ関係しないし。
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