-60度 秒殺のスエオ

「貴様などが城に入れると思うべらっ」


 城に入って二秒でフラグ回収である。

 現れたのは樽貴族のプレモだ。

 早速頭を地面に叩きつけて、口から泡を吹いていた。

 神速で泡を吹かせるスエオ、まさに神泡!プレモだけに!


「……頭を地面に叩きつけましたが、これで許していただけますか?」


 ちゃっかりしている衛兵さん。

 さすが怪しいと思えばスラムの子供の声にも耳を傾ける、まさに出来る男である。


「自分でやったんじゃねえし、しかも謝ってもお願いしてもいねえべよ。

 そもそも城から追い出そうとしてたみたいだべ。

 これは追加でおでこに【エール樽】って入れ墨しなきゃゆるせねえだ。」


 許さないのは当然だとしても、さらに辛辣しんらつな条件を追加するスエオだった。

 そんなスエオに、衛兵は顔を引きつらせつつも案内を続けるのだった。


「お、オレなんかがこんな所入っていいのかな?」


 同じく別の意味で顔が引きつっているオトワール。

 スエオに買ってもらったので、ボロボロの布きれからは卒業したものの、王城にふさわしい服装かと言われると違うだろう。


「おでが文句は言わせねえだよ。

 呼んでるのはあっちだべ、わざわざこっちが向こうに会わせる必要はねえべよ。

 我らが魂は汚れなき高みにありて、世俗の汚れを衣にまといても、その輝きは失われず光を放つであろう。」


 スエオの言葉に顔を赤くしてうつむくオトワール。

 厨二病語なのにちょっとだけキュンとしちゃったらしい。

 これはクールだったんじゃないかとニヤニヤするスエオであったが、意味の通じてない衛兵や周囲の人は反応に困っていた。


「あー……、あれだ。

 これから謁見なんだが、その時はだベだべ言うしゃべり方の方でお願いしたい。

 さっきのも我々には意味が理解できないのだ。」


 厨二病語は不評であった。

 なんだか毎回ノス〇ラダムスの予言っぽくなってしまう事に悩む作者にも不評だった。

 そしてスエオはかっこいいと思っていたのに、オトワール以外には通じない事にショックを受けていた。

 今更である。

 ちなみに図書館のリスンは毎日のように聞かされていたのだが、そもそも理解する気も無く聞き流していたのだった。


「だっ……だベだべ……」


 オトワールはだべだべと言う表現がツボに入っていたようだ。

 こうして少し緊張のほぐれたオトワールに、それならまあいいかと気を取り直すスエオだった。




 簡単に奥まで行けないように入り組んだ通路を通り、重厚な両開きの扉の前へとたどり着いた。

 両サイドには豪華な甲冑の衛兵がいる。

 彼らは王族の近衛らしい。

 城の入り口は普通の衛兵が立っており、中に入ってすぐの広間までは調度品もそこまで贅沢な物とは言えなかった。

 しかし徐々に品や格式の高い、値段も高そうな物へと変わっていったのは、おそらく奥に来る人ほど高位な人間だからなのだろう。


「ここがこの城の最奥、謁見の間だ。」


 スエオは何一つ気付いていなかったが、オトワールのビクビクがセンサーのように大きくなっていた。

 意外とオトワールには審美眼があるのかも知れない。


「入るぞ。」


 重厚な扉がゆっくりと開いていく。

 スエオとオトワールが中に入ると、キューコン公爵を含む複数人の貴族が横に、正面には王様らしき人物がいた。


「……豚風情が…」


 誰かがそう呟いたのがはっきりと聞こえた。


「胸くそ悪い、帰るべ。」


 聞こえた瞬間、謁見の間に一歩入っただけで外に出るスエオ。

 ある意味秒殺だった。

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