-61度 きずくスエオ
「なあ、本当に帰って良かったのか?」
既にここは街の外、街道を行くスエオの背に問いかけるオトワール。
もう王都ははるか後ろ、スエオの目でも見えなくなった。
スエオは不機嫌そうに眉間と鼻に皺を寄せたまま歩いている。
「あんな茶番付き合っていられないべ。
あのままおでを貴族にでもするつもりだったなら、なおさらお断りだべ。」
そう。
あの場で暴言が吐かれた後、繰り広げられたのは三文芝居のような物だった。
※※※※※
「誰だ今スエオ殿を豚呼ばわりした奴はっ!!」
激高し立ち上がる王様。
さっとうつむき、視線を下に固定する貴族たち。
一部の動揺が酷い貴族は実行犯とその派閥なのだろう。
「スエオ殿、どうか許してくれ。
必ず犯人を見つけ出し、王の客人を侮辱したとして縛り首にしよう。
そしてその者が治める土地をスエオ殿の領地として──「そいつだべ。」」
スエオが指さした先にいるのはプレモ派閥の男爵だった。
王はスエオが適当に指さしたのかと思ったが、派閥や男爵の顔色を考えると本当に彼が発言したのかもしれない。
「縛り首にするって言ったべ。はやくやるべ。やらないならおでがその首はね飛ばすべよ?」
真顔でそう続けるスエオに、王は焦った。
確かに犯人が見つからないと、そのままスエオを飼い殺しにしようとしていた。
あれだけの魚人を簡単に個で追い払うオークなど、決して戦うわけにはいかない。
王は、既にスエオに無礼を働いたプレモを犠牲にしてでも飼い殺しにしようとしていたのだ。
「ま、待ってくれ。
その者はちゃんとこちらで取り調べをし、真実を見極めてから……」
ここでスエオに爵位と領土を与える決断が出来れば話は違ったのかもしれない。
しかし、そんな決断が出来る王ではなかった。
「さ、とっとと帰るべ。
どうせこの王は約束なんて守らねえだ。」
決断できない王を見限り、とっとと帰るスエオ。
もはや誰にもそれを止める事は出来なかった。
※※※※※
「まあ、確かにあれは俺も酷い演技だと思うけどさ。
スエオが最近、前みたいに優しくなくなってきた気がして……
それがクールってやつなんだとしたら、ちょっと寂しいかなって。」
そうつぶやくオトワールにスエオは頭を殴られたような衝撃を受けた。
スエオが目指していたのは、クールはクールでも優しいクールだ。
確かにあの対応はカッコよかったのかもしれない。
しかし、あれは優しいとは言えないのではないか。
オトワールの言葉に、自分がクールを見失っていたのではないかと気付いたスエオであった。
「た、確かにそうだべ。
素じゃないとしても、あれは感じが悪かったべなあ……。」
頬をかきながらそうつぶやくスエオに、オトワールは前の優しさを感じ取り微笑んだ。
これからひとまずは温泉旅行なのだ。
楽しい旅路の始まりが、下手をすれば追われかねない出発になってしまった。
でもこれなら大丈夫、そう根拠のない確信を持ったオトワールだった。
「それなら、この程度に抑えておくべ。」
そうスエオが言ったと思ったら、後ろへ向けて腕を振った。
つられてオトワールが後ろを振り向くと、背後に5mほどの巨大な壁が築かれていた。
左右を見渡しても途切れているように見えない、とてつもない壁だった。
「これで王都からついて来てたやつは追ってこれないべ。」
あっけらかんと言うスエオに、この先の旅が不安になってきたオトワールだった。
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