-57度 しんりのスエオ

「お、俺のこと無視すんなよオッサン!」


 アテウマもとい、イトエモが叫ぶ。

 ここは男として惚れた女を連れ去られる訳にはいかないのである。


「オレがオッサンについて行くのは勝手だろ!

 ……親にも売られたんだし。」


 そう言ってうつむくエトワール。

 予想外にオトワールを傷つけてしまったイトエモは、さっきまでの威勢を無くし固まってしまった。


「別におではオトワールを連れ去るつもりなんてねえべ。

 ついて来たいならついて来ればいいし、残りたければ残ればいいべ。

 おではくぅるになるための旅をしているんだべ。

 オトワールは自分の目標のために生きればいいべ。」


 至極真っ当な事を言うスエオである。

 青春爆発のイトエモなど完全に相手にしていない。


「じゃあオレはオッサンについていくよ。

 イトエモには関係ないだろ!」


 オトワール的にはご飯をくれる大人なのである。

 ついていった方が生き延びる確率が高ければその道を選ぶしかないのだ。


「オッサンが子供を連れ去ってるって衛兵に言うぞ!

 そうすればオッサンは牢屋行きなんだからな!」


 衛兵の怖さをよくわかっているイトエモだからこその発言である。

 正直男としてはカッコ悪いが、ここはプライドを捨ててでも引き留める場面じゃなかろうか。


「オッサンオッサンって言うけんど、おではこう見えても十三歳だべよ?」



「「えっ?」」



 驚きの二人であった。

 魔道具で見た目はうさんくさいオッサンになっているが、実際は成人になりたての十三歳のスエオである。

 例えコメントでネタバレしていようとも、スエオは十三歳なのである。


「ど、どう見てもオッサンじゃないか!」


 意地でも食い下がるイトエモ。

 しかし二人ともスエオが実はオークだということは知っていた。

 もちろんオークの年齢が人間には判断付かないことも。

 ちなみにオトワールもイトエモも十二歳の少年少女である。

 作者はロリコンでもショタコンでもない。

 作者はロリコンでもショタコンでもない。


「み、見た目がそう見えるなら衛兵も捕まえてくれるさ!」


 そう叫びなんとか引き留めようとするイトエモに、スエオもうすうすとオトワールの事が好きなんじゃないかなどと思いつつ、「くぅるなおでが恋愛に首を突っ込むのは間違ってるべ。」とか思っていた。


「オトワールもついてくるのは構わないけんど、よく考えてからにするべ。

 おでの旅は決まった目標も生活の安全もないべよ。」


 どちらかと言うと、イトエモの味方のような発言をしているにも関わらずスエオはイトエモに睨まれていた。

 そんな不安定な旅に連れていくのかと言わんばかりである。


「準備出来たよ。

 オッサン……スエオ、行こう。」


 年齢が判明した為、オッサン呼びは流石に変だと思ったのか名前呼びになったオトワール。

 その姿にショックを受けたイトエモは、泣きながら走り去っていった。


「もう大丈夫ならいくべ。

 戻るわけにはいかないし、他に温泉のある街はあるべかなあ……」


 完全に下調べ不足である。

 行先も決まってないまま出発しようとしていたスエオの前に、とある男が現れた。


「ちょっとそこまで来てくれるかな?

 二人はどんな関係なのか教えてくれる?」


 その男は衛兵だった。

 そして、無駄に仕事の早いイトエモが後ろでニヤついていた。

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