-56度 しんかのスエオ2

「我が魂は永遠の氷獄へと囚われ、その身に冷気を纏った。

 次は我が肉体を過去に在りし地の温もりへと誘わん。」


※訳※

 これでおでもくぅるになったべ。

 次は前にいた温泉みたいな所へ行きてぇなあ。


 もう末期のスエオであった。

 クールというか厨二病をこじらせ、もはや何を言ってるのか意味不明である。


「温泉かぁ、オレ行ったこと無いんだよね。」


 ……予想外に通じる人間がいた。

 作者が失踪している間もスエオのそばに居続けたオトワールである。

 恩を返すつもりが、なんだかんだ世話になり続けているのだ。

 主に食料的な意味で。

 なぜか食事は味付きのワイルドボアが多く、段々と女の子らしい肉付きになってきたオトワールだが、最近は太らないように自制していた。


 そんな生活を続けていたものの、スエオのレベルアップする厨二病を見守り続けた結果、オトワールはスエオの厨二病語を解読できるようになっていた。


「我に技を授けし力と共に、炎を宿す水の加護を得た日は伝説となった。」


 そう斜め上を見上げながらつぶやくスエオ。

 焦点も合っていないようで、うさんくさいオッサンからただの危ない人に進化したようだった。

 本人的には神化しつつあるのかも知れない。


「オッサンの師匠と会ったのも温泉だったの?

 って言うかオッサンの師匠ってどんな人なんだ?

 なんだかハチャメチャな印象なんだけど…」


 このスエオの厨二病語を理解し、普通に会話するオトワール。

 周囲はこの二人を奇妙な目で見ていた。

 唯一まともになったのは、スエオのなまりだけである。


「全知全能、不可能を可能に、矛盾を矛盾にしない人(?)だったベ。」


 ……すぐ戻っちゃうけど。


「オッサンのしゃべり方が戻るくらいすごい人なのか……

 オレもその人に教われば強くなれるかな?」


 別の角度から理解してしまうオトワール。

 そんなくだらない話をしながらも、当たり前のように旅支度を進める二人だった。

 ……当たり前のようにオトワールもついて行くらしい。



「お、オトワールを連れていくな!!」


 そんなところへ青春大爆発。

 スラム仲間の男の子がスエオへ猛抗議だ。

 最初はオトワールの事を男女とか言ってたくせに、今では素直になれない小学生のような有様である。

 スエオの餌付けでガリガリから魅力的になっていくオトワールを見て、寝取られたような感覚に枕を濡らしたのだ。

 もちろん健全なこの小説性描写タグ無しとヘタレなスエオ童貞のタッグには、そんな浮いた話の欠片もあるはずが無かった。


「オレがオッサンについて行くのにイトエミは関係無いだろ!」


 この男の子はイトエミという名前らしい。

 スエオにはほとんどの子供が近寄らないので、名前を覚えている方がまれである。


「イトエミの名を持つ者よ。

 汝が望むのであれば我が道は汝の道と共に炎の水への道と――「オッサン、面倒だから今は普通に喋って。」あ、はい、わかっただよ。」


 既に尻に敷かれてる感まで出てきたスエオである。

 オレっ子少女に尻に敷かれる中年とかあざとい。

 よくありがちで、最終的に「しょうがないから、オレがオッサンと結婚してやるよ。」とか言いがちなパターンである。



 ならないけど。


 当て馬みたいな名前のイトエミを放置して旅の準備は進む。

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