-47度 決意のスエオ

「すぐに兵を回して斥候を出せ!

 斥候部隊はツカツ、兵はドウが指揮しろ。

 そこの豚もちょうど良いから使え。」


 公爵の横にいた樽のような男が叫んだ。

 スエオは意味がわからなかった。

 今の見た目は人間なのだが、正体がオークなのは報告があったのかも知れない。

 しかし従魔の腕輪はあくまで形式上のもので、実際に従魔になると言ったわけではない。

 なぜこの男は勝手にこんな命令をしているのだろうか。


「助けて欲しいなら、そう言えばいいべ。

 なして強引に命令して聞くと思ってるんだべ?」


 疑問に思ったスエオがそう言うと、樽男は顔を真っ赤にして叫び散らす。


「貴様は口答えするな!

 その従魔の腕輪がつけられている以上、拒否権は無いのだからな!」


 うろたえるのはスエオではなく公爵親子とドウ。

 室内にいたことに今まで気付かなかったが、ツカツは口に手を当てて笑いをこらえている。


「待てプレモ。

 スエオ殿はオリエの命の恩人であり、その腕輪も貴様らが反対するから付けたままなのだ。

 それを道具のように使おうとは見過ごせぬ。」


 樽男ことプレモの暴挙を止めようとするロンギフだが、公爵からの命令すら聞くつもりは無いようで、そのまま指示をするプレモ。

 ある程度兵士たちへの指示が終わると、ロンギフに向き直り、スエオ並みのうさんくさいにやけ面を見せてこう言った。


「魚人が攻めてきた今は国家の存亡の危機。

 緊急時における騎士団長の私の指示は、公爵家の権限に勝ると覚えておりますが?

 それにそちらの事情は知りませんが、騎士の持つ従魔を使って何が悪いというので……す?」


 語尾が尻すぼみになったプレモ。

『従魔を使って』のあたりで、スエオが腕輪を引きちぎったからだ。

 本来は強力な魔獣でも首を絞め殺せるはずの首輪である。

 ちぎれる事などあり得ないはずのものが、まるで紙テープでも引きちぎるかのように破壊されたのだ。


「これでおでは従魔じゃないべ。」


 何事もないかのようにさらっと言うスエオ。

 従魔の腕輪は魔力で強化されている道具でしかなく、魔法で干渉してやれば引きちぎる事など簡単だった。

 しかし途端に減っていく魔力。

 ツカツが鑑定か看破を仕掛けているらしい。

 抵抗するだけでスエオの魔力が無くなると学習したからだろう。


「旅人のおでに戦わせたいなら、『お願いします』は最低限必要だと思うべ。

 それともあれだか?

 おめえもオークで、村の掟とか言うつもりだか?

 おでは追放された身だし、おめえとは村も違うべよ。」


 ここでスエオが言っている村の掟とは、『村が襲われたときに、戦えるものは逃げずに戦うこと。』といった簡単なものであり、オークに限らず人間にもよくある掟である。

 しかしよその村まで助けなければいけない義理もなく、追放された旅人のスエオには無関係な話だった。


「ぐぴっ……ぎさまああああああ!!!」


 オーク如きに正論を吐かれたのが気に食わないのか、オーク扱いされたことに腹を立てたのか。

 どちらにしろ沸点低すぎの樽男である。

 すぐ噴き出すその様は、中身はビールかなにかかも知れない。


「おでの師匠が言ってたべ。

 人を動かすには飴と鞭、人を縛るにはかせと絆。

 飴と絆は断りにくいけんど、鞭と枷は殴れば終わるっぺ。

 絆は守れ、枷は引きちぎれって。」


 そう言いながら魔道具を解除するスエオ。

 オークの姿に戻り凶悪な笑みを浮かべ、拳を握り締める。

 その姿にプレモだけではなく、他の兵士も顔を青ざめさせる。

 プレモが思わず腰の剣に手を伸ばした時、スエオはふっと圧力を弱め、続けてこう言った。


「だからおでは絆を守るために手伝ってやってもいいべ。

 牢屋まで助けさ来てくれた、あの子さ守るために。」

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