-34度 観光のスエオ
翌朝、スエオは順番を飛ばして門の前にいた。
昨夜振る舞った謎シチューのおかげで、皆が順番を譲ってくれたのだ。
「店出したら教えてくれよな!」
「あれなら屋台から始めんのか?」
――スエオに飲食店をやる予定は無い。
とにかくもう半日は待たないといけなかっただろう行列が無くなったのだ。
スエオは意気揚々と街に……入れなかった。
顔が胡散臭いからだ。
しょうがない。うん。
「し、証明ってどうすれば良いんだべ……」
止めた兵士に身分を証明する物を出せと言われるが、オークのスエオには何も思いつかなかった。
狩猟ギルドのギルド証とかでいいのに。
無いのはスエオの知能でした。
「怪しいやつめ!ちょっと詰め所まで来てもらおう。」
そして連れて行かれる
荷物も預かられ、スエオは牢屋でふて寝する事にした。
「やっぱりオークは差別されるんだべ……」
完全に誤解だった。
というかオークだとは気付かれていない。
そこに兵士が慌てて走り寄ってきた。
――木札を持って。
「た、大変失礼しました!
ですが、このような物があれば次からは出して貰えると助かります。」
兵士が差し出したのは狩猟ギルドのギルド証と、最初に人助けをした時にもらった身分保障の木札だ。
スエオは木札を見せても駄目だった記憶しかなく、ギルド証も買い取りの時に見せるだけのものだったので、身分証になるとは思ってなかったようだった。
この兵士の方が木札を見せた時の反応として正しいものだ。
特に今は顔が胡散臭いおっさんとはいえ、オークではなく人である。
木札の効力をいかんなく発揮していた。
「もうここ出ていいんだべか?
というかここに泊まるのは駄目だべか?」
スエオの経験では、牢屋は宿無しの仮宿扱いだった。
さすがに苦い笑みで「それはちょっと……」と断る兵士。
仕方なくスエオは王都の中でまず宿を探すことにした。
「さあいらっしゃいいらっしゃい!美味いよ美味いよ!」
「果物はいらんかね?生も干しもあるよ~!」
「今なら見習の作ったポーションが普通の半額!お買い得だよ!」
人も店も多い街中を、スエオはぽかんとした表情で歩いていた。
胡散臭いおっさんが口を半分開けて歩く周囲に、近くを通る人はいなかった。
そのためぼーっと歩いていても、人とぶつからなければスリも寄ってこない。
「すんげぇ人と店だべ……」
今までいた村とは、文字通り人口の桁が二つ以上違う王都である。
一緒にする方がおかしいのだ。
「な、なんだかこんなに人がたくさんいると落ち着かねえべ。
お?こっちはなんだか落ち着く気がするっぺ。」
そういってスエオが普通に進んでいったのはスラム街。
少し汚く、貧しい感じが村に似たものを感じたのであろう。
とことん華やかなものには縁の無い豚だった。
普通の人がスラム街へ入ると、真っ先に狙われるのが普通だ。
しかし、うさん臭さが並ではない人バージョンのスエオは、まるで長年ここに住んでいたかのように溶け込んでおり、そのまま奥へと消えていった。
華やかな王都は三十分で終了、残りはディープなところへと引き込まれていくスエオであった。
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