-31度 別れのスエオ
「自分を変えたいなら、環境を変えるのが一番楽だ。
旅に出れば新しい自分に出会える。
クールになりたいなら今のままじゃ難しいんじゃないのか?」
スエオはその言葉に、稲妻に撃たれたかのような衝撃を受けた。
確かに半引きこもりで、ほぼ月光浴しかしてなかったオークの村時代。
警戒どころか討伐されかねなかった、旅立ちの直後。
何とか溶け込もうとして頑張った、最初の村。
神様扱いでのんびり日常を過ごしていた、山の麓の村。
楽しかった(楽しかった)、修学旅行!
何か最後変なのが混じった気もするが、スエオにも確実に成長している自覚はあった。
ただし、それはクールにではなく、どちらかと言えばハートフルだ。
スエオが目指すのは【豚神様湯けむりムフフな日常】ではなく、【闇に追われし封印の戦士の戦い】である。
どっちにしろダサい。
「そうだべか、あえて厳しい環境さ自分を置くことで成長するんだべな?
それならおでは世界を見るべ!そしてくぅるなオークを目指すべ!」
こぶしを握り締め、天高く掲げるスエオ。
男は、『異世界いくつ回ればクールになれるんだろうな』とか失礼な事を考えていた。
「ところでおめえしばらく一緒に行ってくんねえか?
おでが一人で街に行くとすぐ囲まれて武器を向けられるだーよ。」
スエオは悲しい現実を忘れてはいなかった。
当たり前だが、普通はオークが街に近づいたら即討伐されるものだ。
以前試してみた変身魔法も、ちょっとしたことで解ける為実用的とはいいがたい。
「いや、俺はほら、色々とやる事があるから。
……スエオとセットだとブタ○リラとか言われそうだし。うん。
人(?)とオークって奇天烈なコンビで、盗賊とか現れる度に『こいつら殺すけ?』とかスエオが言うんだろ?
ちょっとそれはコンクールに応募できなくなっちゃうからダメだな。」
スエオにはいまいち言っている意味が分からなかったが、とにかく男が一緒に来てくれないという事だけはわかった。
残念だが、これもまたクールになるために必要な試練なのかもしれない。
「ほら、これをやろうじゃないか。」
そう言って男が取り出したのは白い仮面。
不気味な笑顔の紳士のような表情で、細いカイゼルヒゲがくるんと巻いていた。
「これは俺の作ったマジックアイテム……魔法の道具だ。
これを顔につければ、普通のどこにでもいそうな人間の紳士に見えるようになる。
それなら街の出入りも出来るはずだ。
後はあの山の麓の村あたりで産まれたことにして、好きな所を回ればいいさ。」
そう言いながら仮面をスエオの顔につける男。
そのまま取り出した鏡で、スエオが自分の顔を見れるようにする。
スエオはその鏡を両手でつかみ、映る自分の顔に驚いた。
「こ、これは……オークより胡散臭くねえべか?」
どっちにしろ不審者は不審者だった。
「あーりがーとなー!」
旅を続けるという男を見送るスエオ。
スエオも村へは戻らず、このままどこかへ行こうと考えていた。
別れは寂しいものであり、村人たちとの別れもまたスエオの気持ちを変えてしまいそうだったからだ。
これからは人の社会での生存権の確保ではなく、自分自身がクールになれるように。
そうしてスエオは男と反対方向へと歩き出した。
新しい場所で、自分を磨くために。
──そして、たどり着いたのはギアテのいる村だった。
カッコつけて反対方向へと歩いたら、たまたまその方角だったようだ。
新しい場所とは何だったのだろうか。結局カッコつかないスエオなのであった。
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