-29度 決意のスエオ
「あぶぁ……早すぎて死ぬかと思ったべ……」
温泉で出会った男と二人、スエオは荒れ地にいた。
村の山や温泉がある反対側から飛んで数分、他の街につながる街道からも離れた土地だ。
どうやら村のそばでは被害が大きくなりすぎるらしい。
ここまでスエオを担いで飛んできた事からも、男の実力が垣間見える。
「ここまで来ないとあの鳥が来るだろ。
さあ、楽しい楽しい修業の時間だぜ?
まずは見て真似するところからだ。」
男は木刀を二本取り出し片方をスエオへと投げると、様々な型で木刀を振り抜く。
「……全然見えねえだーよ。
魔法で目を強化しても全然見えねえ物をどうやって真似すんのか教えて欲しいだーよ。
既に早まった気しかしないだーよ。」
なぜスエオはこの男と修業する事になったのか。
話は昨夜、温泉から上がった頃にまき戻る。
「おでの右腕には世界をくらう混沌が封印されているだーよ。」
理性を持ち、会話が出来るオーク。
そんなスエオに興味を持ったのか、男はスエオと飲んでいた。
男がどこからか取り出した料理は見たことのないものばかりで、同じく見たことのない酒も美味しく感じる。
しかし、スエオの成人しているという自己申告でお酒を出した男は、スエオが13歳だという事を知らなかった。
オークの村では8歳くらいから儀式に挑戦し、達成すると成人扱いだ。
飲酒も独立も可能なので、お酒を飲むことに法律的な問題はない。
もちろん今まで飲んだことのないスエオが酒に強いはずもなく、
「ふむ……確かに何かいるな。」
男は何かを探るような目をすると、急に真面目な顔でつぶやいた。
驚いたのはスエオである。
今までずっと馬鹿にされて秘密にしていた右手の封印。
この前ポロッと漏れたけど。
尿漏れみたいに。
とにかく今まで理解者のいなかったスエオは、信じてくれた男を一発で気に入った。
「今まで誰も信じてくれなかったのに、おめえ、いいやつだなあ……」
泣き上戸へと進化しつつあるスエオ。
そんなスエオを見て、同情する男。
「お前も苦労してきたんだなぁ……
こんなのずっと封印してたのか、大変だったなぁ……」
実は誤解である。
世界をくらう混沌はスエオの妄想で生まれた存在であり、ずっと封印していたわけでも無ければ、最近まで実在してすらいなかった。
しかしスエオの
「多分俺ならその世界をくらう混沌とやらにも余裕で勝てる。
しかし、お前は男としてそれでいいのか?
自分の手で何とか出来るくらい強くなりたいと思わないのか?」
男も少し酔っているのかも知れない。
酒か空気か自分になのか。
もちろんこの状況にスエオが熱くならない訳がない。
クールマジどこ行った。
「そうだべ!おでがやらなきゃダメなんだべ!
おでが死ぬまでに強くなって、この世界をくらう混沌をやっつけなきゃいけないんだべ!」
立ち上がり決意するスエオ。
同じく男も立ち上がり、スエオの右腕を掴んで上げる。
「世界を救うオークの英雄目指して!」
「クールなオークを目指すだ!」
「えっ……いや、それはちょっとハードルが高くないか?」
とにかくそんな理由で冒頭の状況へと続くのであった。
「こ、これで見えるか?」
ずいぶんとゆっくりと振っているつもりなのだろう。
それでもかなりの早さだが、何とかスエオは真似をして……
「……こで、いぐつかの型は腕が鼻に当たるべ……」
鼻を押さえてうずくまっていた。
クールの道も英雄の道もずいぶんと遠いようだ。
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