-19度 宿探しのスエオ

「くっ……殺す!」


 相変わらず物騒な女騎士様である。

 ここは衛兵の詰め所、スエオの仮宿牢屋がある場所でもある。

 取り調べ用の小部屋には、縛られた女騎士とギアテ、スエオの3名がいた。


「あんた脳みそ腐ってるのか?」


 遠慮のない事を言うギアテ。

 普通であれば無礼だと咎められるであろう。

 しかし妄想を根拠に、罪も無い村人を切り殺そうとした時点で立場は逆転している。

 スエオも真っ青の妄想力MPであった。 


「くくく、腐ってなどいない!男同士など興味ない!!」


 ……別の意味で腐っているようだった。

 思い込み残念腐女騎士とか属性盛り過ぎである。


「おで、何か悪い事しちまっただか?」


 対してピュアで謙虚なスエオ。

 クールとやらは果たしてどこへ逃げたのか、スエオの方向性もこの小説の方向性も完全に迷子になりつつあるようだった。


「どんな拷問をされようと悪人に語る事は無い!」


 立派な志も、思い込みで方向性を見失っていれば厄介なだけだった。


「仕方ない、しばらくコイツを牢屋へほうり込め。」


 ギアテは諦めた。

 とりあえず今回の事を領主を通じ、上へと報告する事にしたようだ。



 スエオは仮宿牢屋から出る事にした。

 お隣さんとなった女騎士がうるさかったからだ。


「死ねこのクソブタごみクズが!罪のない村人を洗脳しやがって!

 そのデカい鼻を切り落として○○に××して△△が□□の◇◇──」


 思い込み残念腐女騎士は、超絶下品毒舌思い込み残念腐女騎士へと進化した。

 正直誰もがコイツを騎士にした国の正気を疑うであろう。

 しかし、超絶下品毒舌思い込み残念腐女騎士は、超絶猫かぶり下品毒舌思い込み残念腐女騎士だったのだ。

 なんだか落語の寿限無のようである。そのうち一行で収まらなくなるかもしれない。


 とにかく、そんな牢屋の隣で過ごせるはずがなく、スエオは村で宿を探していた。

 幸い毛皮がそれなりに売れる上、最初のオークションが金貨二十枚で落札されたらしく、今スエオの懐は暖かかった。


「どこの宿屋にするべかなあ……

 朝晩の飯はいつもの屋台で食うし、素泊まりできればそれでいいべ。」


 そうスエオは思うが、まだまだ小さいこの村には二つしか宿屋が無い。

 一つは相部屋上等、雑魚寝上等の大部屋である。もう一つはそれなりの部屋でそれなりの金額を取る、個室の宿屋だ。


「今まで個室牢屋だったからなあ……

 今更大部屋に泊まるのは何かやだべ。」


 贅沢になったものである。

 牢屋を個室として認識するというのは置いといて、スエオは個室でないと満足できなくなってしまったようだ。


 スエオは個室のある宿屋へと向かった。

 目的地に到着すると、入り口のドアを開けようとして看板が目に入る。


【動物お断り】


 スエオはもう一つの宿屋へと向かう事にした。


「こっちからお断りだべ!ふざけるんじゃ無いべ!」


 スエオは自分の事を動物と認識したようだが、正確には魔物だ。

 さっきの宿屋はペット類を禁止しただけであり、馬は馬小屋が別に用意されていた。

 魔物はスエオしかいないため、元々想定していない。

 つまり、別にスエオでも泊まれたはずだったのだ。

 悲しい勘違いである。


 大部屋に泊まることにしたスエオだが、貴重品は無事だったものの、一晩中毛皮を撫で回してくる男に怯え続け、眠れぬ夜を過ごすのであった。

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